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いとこのアイドルのせいで年末年始は大騒ぎ (前編)

↓ いちおうこちらの続きです

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大晦日


大学もつかの間の冬休みにはいり、
バイトも終わって学生ながら年末の差し迫った日常に身を投じていた〇〇。


とは言っても、〇〇の感じている年末感は世間とは少し違った。


そう、いとこたちのせいで。




陽子「お兄ぃ〜、まだ〜?」


部屋着かわりのスウェットで完全にオフモードにはいった日向坂46の正源司陽子…

もとい、〇〇のいとこの正源司陽子がソファーでぐでーんとしながら、台所に立つ〇〇に催促するような声を発した。


〇〇「文句あんなら陽子も手伝ってーや」


包丁片手に白菜や長ネギを切りながら、陽子に返事をする〇〇。


陽子「えー、よーこ箸より重たいもの持てへん。アイドルやもん☆」


ソファの上から渾身のピースとウインクを放ちながらキメ顔をする陽子。


アイドル正源司陽子のこれでもかという可愛い仕草。

おひさまなら胸打たれて泣いて喜ぶような瞬間だろう。



しかし、それはいとこである〇〇には通じない。




〇〇「どついたろか。ええから手伝ってー」




陽子「ちぇ、アイドルよーこが効かんとは」





しぶしぶといった感じでソファーから立ち上がると、トコトコと〇〇のいる台所までやってきた。




陽子「そんで、よーこはなにしたらいいん?」



〇〇「この下にカセットコンロ入ってるから出しておいて。あとお皿とか箸とかもよろ」



陽子「ほいほーい」



〇〇に言われた通り、キッチンの下の棚からカセットコンロをとりだして、リビングのテーブルの上に置いたり、食器類を慣れた感じで食器棚からとりだして並べていく。



そんな動作が自然にできるくらい、陽子は〇〇の家に入り浸っていた。



ちゃんと手伝う陽子を横目に確認しながら、〇〇は切った食材を一旦お皿に逃がしてから、すき焼き鍋を火にかけて牛脂をひく。


ほどよく温かくなってきたら最初に肉を焼いていく。
学生身分ではなかなか買えない比較的高級な牛肉。



普段なら絶対に買わないが、年末ギリギリまで仕事の陽子と茉央のためにと二人の両親が奮発して送ってきてくれたのだ。


まぁ、残念ながら彼女らに高級牛肉を調理するスキルは、残念ながらなかったので〇〇にヘルプが来たのは言うまでもない。






陽子「お兄ぃ! 肉! お肉が手に入った!」



〇〇「おちつけ、原始人がお前は。なんだよ肉って?」



茉央「茉央とよーこのパパ、ママが年末これで乗り切りやって送ってくれてん!」



そういいながら茉央と陽子は箱に入った高級そうなお肉を見せてくれた。


〇〇「うわっ! すげー!」



茉央「なぁ! せやろ!」


陽子「よーこと茉央のおかげやで!」



くやしいが、それは間違いない事実である。




〇〇「んで、これどうやって食べる?」



陽子「すき焼きに決まってるやろ! すき焼き用のお肉なんやから!」


茉央「肉ゆうたらすき焼きできまりや!」





〇〇「いや、だけどすき焼き鍋なんてないよ?」



茉央「えー!? ないん!?」


陽子「なんでないん!? すき焼きやで!?」



〇〇「意味わからんわw 大学生の一人暮らしですき焼き鍋持ってるやつのほうが珍しいわ」




茉央「まって! すき焼き鍋Amazonで売ってるで! しかもほら4000円やって!」

陽子「茉央ナイス! 三人で割ったら1人1300円くらいやん!」



〇〇「ちょ、まッ! わざわざ買うん!?」



茉央「あたりまえやん。美味しいすき焼きのためやで」




陽子「そうやそうや! 茉央ちゃんええこと言うわ!」







そんなやりとりがあり、鍋やらカセットコンロやらもAmazonで購入して迎えたのがこの大晦日というわけだ。



ほんとうはもう少し前に食べてもよかったのだが、年末は陽子と茉央が仕事でバタバタすぎて、二人の希望で大晦日に食べようとなったのだ。


しかし、茉央のほうはカウントダウンTVに出るから帰ってくるのは年明けたあとになる。


茉央には申し訳ないが、先に陽子と〇〇で食べ始めようということになったのである。




肉がほどよくやけてから醤油や砂糖などで味付けして、その後に野菜を入れ、割り下を使わずに水で調節する。

ほんとうはお酒で調節するのだが、お酒飲めない陽子と茉央がいるので水で代用する。



陽子「ん~~いい匂い! やっぱこれや〜 関西風のすき焼き食べたかった〜」


部屋に立ちこめていく匂いにつられて、陽子が台所まで誘われてきて、〇〇にギュッと抱きつきながらすき焼き鍋を眺める。


〇〇「関西風って、関東は味違うん?」


陽子「そうやで。前に一人ですき焼き作ろうとしたら関東風のやつしか売ってへんかってなんか物足りんかった」


〇〇「あー、確かにスーパーに向こうで見るすき焼きのもと売ってなかったな」


陽子「せやろ! でも今回は〇〇家直伝の本場関西風すき焼きやから尚更楽しみ〜」



キャーといいながら一人で興奮して〇〇に抱きつきながら体を揺する陽子。


そんな陽子の妨害にも屈せずに、〇〇はすき焼きを完成させていった。



〇〇「よーし! 完成ー!」



陽子「やったー! すき焼きー!」


大晦日まで頑張っている茉央には悪いが、一足早くいただいてしまおう。



〇〇「じゃあ、いただきまーす!」




陽子「いただきまーす!」



二人は同時にすき焼きを頬張った。


口の中に広がる肉のジューシーな味わいとすき焼き独特の旨い味わいが口いっぱいに広がる。



陽子「なにこれ!? うまっ!!」


大きな瞳をより大きく見開きながら舌鼓を打つ陽子。

どうやら満足してくれたらしい。



次から次へと肉が彼女の口に消えていく。




〇〇「おいおい、茉央の分なくなっちゃうぞ」




陽子「む、ぐぬぬぬ… でももっと食べたいぃぃぃ」




〇〇「こんなことだろうと思って、高級肉には及ばないけどスーパーで肉買っておいたから、これで我慢しろ」




陽子「マジで!? さすがお兄ぃ!」




こうしてすき焼きを食べ続けると



陽子「お! 茉央だ!」



陽子の視線の先には、テレビに映る紅白歌合戦に出ていた乃木坂46だった。



そのなかにはメンバーでありもう1人のいとこである五百城茉央の姿もあった。


煌びやかな衣装を身に纏い、テレビの中で輝く彼女はすっかりアイドル「五百城茉央」だった。




ふと、目の前にいる陽子に視線を向ける。



ただテレビを見つめる彼女。
陽子が何を思っているのかは〇〇にはわからない。

一般人の〇〇からは想像できないいろいろな思いが、陽子にも茉央にもあるのだろう。




やがて、乃木坂46の出番が無事終わった。



陽子は小さく拍手をしながら、カメラが切り替わるまでテレビを見つめていた。



陽子「茉央、カッコよかったね」



〇〇「うん、そうだね」


陽子「2年連続かー、茉央もすごいなー」


〇〇「そうだね」


陽子「…私も、もっと頑張らないと」



小さくそういうと、陽子は少しだけ下を向いて表情を〇〇に見せないようにした。



日向坂46のセンター
次世代エース

彼女を表す言葉はたくさんある。
それは彼女への期待の形でもあると同時に、重圧でもある。
それがどれほどのものなのだろう。

17歳の少女が背負うにはあまりに大きいものであることは〇〇にもわかっているつもりだった。



だからこそ、〇〇は自分にできる限りで彼女たちを支えようと決めていたのだった。



〇〇は手を伸ばして陽子のあたまを静かにポンポンとそえた。



それが、今〇〇にできる精一杯のことだった。







それから茉央の分のすき焼きを残して、食べ終えた〇〇と陽子はソファーに移動して残り少ない2024年を過ごす。


何をするでもなく、テレビやYouTubeをみたり、ゲームで盛り上がったりと時間はあっという間に過ぎた。



〇〇「お、あと30秒」


陽子「ワクワク、ドキドキ」



いよいよ2024年も終わる。




ボーン

NHKのゆく年くる年の中継の鉦の音が響き渡った。

年が明けたのである。


〇〇「あけましておめでとう、陽子」


陽子「あけましておめでとう、お兄ぃ。今年もよろしくね!」


すっかりもとに戻った陽子に、安堵する〇〇。


陽子「あ、そうだ! 茉央に写真送ろ!」


〇〇「写真?」


陽子「そう、お兄ぃとよーこのツーショット!」


〇〇「なんでツーショット?」


陽子「まぁまぁ、茉央も頑張ってるんだから励ましてあげないとさ!」



よくわからなかったが陽子にギュッと身を寄せられて、パシャリと写真を撮った。

陽子「おっけー これと、あ! すき焼きの写真も送ってあげよー」



慣れた手つきで茉央にメッセージを送る陽子。

送り終えてスマホを置こうとした時だった。




陽子「うわっ! もう返事きた! ふふふ、茉央だいぶ疲れてるな〜w」


そう言って陽子は〇〇にスマホを見せる。




茉央「〈ズルい! お腹すいたー😭 すき焼き食べたいー🥩 お肉に会いたい〜(ノД`)シクシク〉」



陽子「愛されてますね〜」



〇〇「すき焼きがなw」




そのあと、カウントダウンTVも無事に終わり、茉央からこれから帰ると連絡があった。


眠そうにしていた陽子も茉央からの連絡で再び元気を取り戻し、2人で茉央の分のすき焼きの準備をはじめた。


時間にしたらものの数十分くらいしか経ってないはずだが、予想以上に早く茉央が帰ってきた。



ガチャ ギー バタン ガチャ
ドタドタドタ



玄関のドアの開く音と足音。



廊下に通じるドアが開いた瞬間、茉央がなだれ込んできた。




茉央「うわぁ~疲れた〜! もう限界〜!!」


リビングに入ってくるなり持っていた荷物をほっぽりだして〇〇に抱きつく茉央。



〇〇「おかえり茉央。テレビ見てたよ。すごく良かった」


茉央「ほんと!? エヘヘ」



陽子「ちょっと〜、二人だけでイチャイチャしないでよ〜」


〇〇の代わりにすき焼きの鍋番をしていた陽子がぷく顔でブーブーと言っている。



茉央「ちょっとくらいええやん。仕事で疲れた茉央をいたわると思ってさ」



そういいながら茉央は再び〇〇の胸に顔を埋めて甘えようとする。


しかし、それは陽子が許さなかった。



陽子「へー、じゃあこのすき焼きは陽子が食べちゃうもんね〜」



茉央「それはアカン! すき焼き楽しみにしてたんやもん!」



そういいながら、茉央は〇〇から離れると素早く手を洗いに行ったと思ったらすぐ戻ってきてテーブルについた。



ようやくいとこ3人が揃ったのだ。



〇〇「じゃあ、あらためて茉央もおつかれー」


茉央「おつかれさまー!」

陽子「お疲れ〜」


3人でソフトドリンクだけど乾杯の杯を交わす。




茉央「んー!! お肉うまっ!」


〇〇「あれ? うまいおき、じゃないの?w」



茉央「家でやるわけ無いやろ!」



〇〇「ハハハ」

陽子「ぷくくく ウケる!」





そんなこんなで3人で鍋を囲むのも終わり、後片付けも終え、ソファーに並んで座りまったりモードに突入。



〇〇が真ん中、右から陽子、左から茉央が〇〇の肩に抱きつくように寄りかかりながら、BGM代わりのテレビを眺める。


それでも時刻はもう深夜の3時を回ろうとしていた。


仕事終わりの茉央は言わずもがな、陽子までもあくびをする回数が増えて眠そうな雰囲気を醸し出していた。



〇〇「そろそろ明日もあるし寝ようか」



茉央「せやね、明日は兵庫の実家に帰るから早く起きんとだし」


陽子「何時に起きるんだっけ?」



〇〇「11時の新幹線だから9時には起きて、10時には家でたいかな」



陽子「6時間か、ギリやな」



〇〇「何基準やねんw まぁ最悪新幹線で寝ればええやん」



陽子「はぁ!? せっかくの3人での旅行だよ!? もったいないやん!」


茉央「せやせや! 寝るなんてアカン!」



〇〇「えぇ……  てか、旅行じゃなくて帰省やからね?」



ほんの少しだけ、明日からの帰省が不安になる〇〇だった。










つづく

※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。





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