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2 兄は妹を推すしかない

美玖「やばーい! 遅刻だー!!!」


朝も早くから妹の大声で目が覚める。


ドタバタガタガタと音が聞こえる。

うるさくて寝てられねー


美玖「ヤバいヤバいよ…」


顔を洗おうと洗面所に向かうと鏡の前で必死に最低限の身だしなみを整えている美玖の姿があった。


美玖「あっ、お兄ちゃんおはよう!」


〇〇が返事を返すまもなく、ピューっという音が聞こえてきそうなくらい素早い動きで美玖は洗面所を後にした。


今日はどうやら近頃稀に見る大遅刻らしい。


お恥ずかしながら美玖は遅刻魔である。


こんな光景を同居してから、というか実家にいた頃から何回もみていた。



美玖「ギャー、もう8時過ぎてる!!」


今度はリビングで大騒ぎしている。



はぁ、とため息をついてから顔を洗ってリビングへ。


頭を抱えていた美玖は〇〇の顔をみるなり、スマホに手をかける。


美玖「かくなる上は…」


支度をしながらスピーカーでどこぞかに電話をかける。


「もしもし美玖? どうしたの?」


聞き覚えのある女性の声。

美玖のマネージャーだった。


美玖「ゴメンナサイ! 寝坊しました!」


清々しいくらいのキッパリとしたダメ発言。


マネ「はぁ!? あんたまた…!」


マネージャーさんが怒りかけた瞬間だった。


美玖「大丈夫です! お兄ちゃんに送ってってもらうので!」


マネ&〇〇「「また!?」」


スピーカー越しにマネージャーの声とハモる。


マネ「あ、〇〇くんいるのね、おはよう〇〇くん」


仕方なくスピーカー越しに会話に混ざる。


〇〇「はぁ、おはようございます。ちなみに、今日の現場ってどちらですか?」


マネ「道玄坂のいつものスタジオよ」

〇〇「あぁ、あそこっすね」


マネ「9時入りだから、ゴメンだけどよろしくね。後でスタジオの入館証は手配してLINEで送っておくから」


〇〇「助かります。承知しました」


マネージャーとの通話を終えた〇〇はため息をつきながら美玖を睨む。


〇〇「美玖! お前なぁ、俺の貴重な朝の二度寝タイムをどうしてくれる!」


美玖「しょうがないでしょ! 起きれないんだから! 私はお兄ちゃんと違っていろいろ成長期なんだから睡眠が必要なの!」


〇〇「一つしか歳変わらねーだろ! だいたいなにが成長期だ、河田さんや富田さんを見習え!」


いちおう弁解しておくが
何がとは言ってない。
そう、なにがとは。


美玖「…お兄ちゃん、言ってはいけないことを言ってしまったわね…!!!」


あ、やべ

美玖の後ろに阿修羅が見える

瞬時に思考を巡らせる〇〇


〇〇「い、いいから、遅刻すんぞ! はやく支度しろ!」


美玖「(・д・)チッ、覚えておけよ」




美玖さんや、アイドルの顔と態度じゃないですよ…


間一髪、危機を乗り越えた〇〇だった。




美玖が身支度を整えている間に、〇〇も着替えを済ませスマホや財布など最低限の手荷物をもち、一足先にマンションの駐車場に向かう。


カバーをかけておいたバイクを引っ張り出す。

スズキのGSX-S1000GT。
大学進学したときにバイトして買った〇〇の相棒。


本当は緑色のHONDAのバイクと迷っていたのだが欲しかったが

美玖が「青にしよ! てか青じゃなきゃダメ!」

と駄々をこねてこれにした。


美玖「おまたせー」


〇〇「うい、時間ギリギリだから急ぐぞ〜」


美玖「うん、よろしくお願いします!」


慣れた仕草で〇〇からフルフェイスヘルメットを受け取りかぶる。


そして、〇〇がバイクに跨るとサッと後ろに乗って〇〇の身体をしっかりと抱きしめるようにしがみついた。


そこから朝の混む時間帯もなんのその

高速道路も駆使してあっという間に目的地にたどり着いた。


もちろん、法定速度でですよ。



スタジオの駐車場入り口の警備室で入館証を見せる。

警備員「ああ、〇〇くんか、今日も妹さんの送迎ご苦労さんだね」


〇〇「ハハハ、ありがとうございます」


美玖を送迎しすぎて警備員さんと顔なじみになるくらい

ぶっちゃけ、入館証なくてもワンチャン顔パスでもいけるのではないかと思ったり



駐車場の車止めで美玖を下ろし、ヘルメットを受け取る


美玖「お兄ちゃん、ありがとう!」


〇〇「間に合いそうか?」


美玖「うん、バッチリ!」


〇〇「よし、今日もアイドル頑張ってこい」


美玖「うん、行ってきます!」


満面の笑みでスタジオの中へ入っていく美玖。

なんだかんだで美玖に甘い〇〇である。




〇〇「…さて、帰って二度寝すっかな」



〇〇は来た道を今度はゆっくりと下道で帰るのだった。


家に帰り念願の二度寝につく。


それから大学に行ったり友達と遊んだりと普通の大学生活を送る。


ちょうど家に帰ってきたその時、〇〇のLINEが鳴る。


見ると美玖からの通話だった。


〇〇「もしもし美玖?」


美玖「あ、お兄ちゃん、仕事終わったよ〜!」


〇〇「おう、おつかれ」


美玖「うん!」


〇〇「…」


美玖「…」

〇〇「…」

美玖「…」


〇〇「んで、なに!?」


美玖「もう、はやくお迎えきて〜」


〇〇「はぁ!? なんでだよ!」


美玖「さっき私に失礼なこと言ったでしょ! そのバツってことで」


〇〇「いやいや、それは朝の送迎で帳消しでしょ」


美玖「いいからいいから、それにお兄ちゃんに発行された入館証一日フリーパスだからすぐ来れるよ!」


〇〇「はぁ!?」


美玖との通話を繋いだまま確認すると言う通り、時間指定のものではなく、フリータイムになってる。


くそ、やられた



美玖「クックック、お兄ちゃん、私を甘く見ちゃいけませんぜ」


ブチッ

ムカつくから通話をガチャ切り





〇〇「………クソーーーー!!」




結局、〇〇は再び愛車のバイクを走らせて美玖を迎えに行くのだった。







つづく

※この物語は、フィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。


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