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DayZ(MOD版)をやめる直前、僕はあらゆる物への意味を失った。

"射撃を身につけるには、
獲物の身に降り掛かったことを、同じ時間味わってみる必要がある。
要するに、フェアにやろうということだ。"
『極大射程』


・ある日、国道で、バンディットに、出会った

 南北に伸びる海岸線沿いの国道。集落と集落の、ちょうど中間地点にて。
 10mほどの距離を保ってサバイバーとバンディットが向かい合っていた。
 お互いに「相手は鉄火器の類を所持していない」と察していたと思う。
 とはいえ互いの肩には斧がかけられていた。
 もしもどちらかが"その気"を起こしたなら、
 ちょっとした物資を巡っての無意味な殺人が発生するだろう。
 そう、無意味な殺人だ。
 しょーもないアイテムを奪い合うためだけに行われる無意味な殺人
 僕が一番嫌いとする物事だ。
 そんなことの繰り返しで、このゲームが嫌になり始めていた。

 しばし経って、バンディットが口を開いた。
(※正確にはテキストチャットを送ってきた)

「戦う気は無い。飲み物をくれないか?食い物と交換できる」
「OKだ。食い物は欲しい」

 サバイバーはその提案を快諾した。
 先程まで滞在していた街ではろくに物資を拾えなかったし。
その上軽く負傷もしてしまった。散々である。
 だが飲み物だけはちゃんと蓄えがあったし、足りていない食い物を補充できるなら渡りに船だ。
 両者は自分の足元に相手の必要とする物資を幾つか置いた。
 そして取引相手が妙なマネをしでかさないか警戒しあいながらすれ違う。
 目的の物資までたどり着いてから、サバイバーは相手の方を向きながら物を拾う。一方でバンディットは背を向けた状態で物を拾い始めていた。

 北から国道を下ってきたサバイバーは言う。
「北に行くのかい?」

 バンディットは返事をしない。

「今Berezinoにはスナイパーが居る。僕も殺されかけた。気をつけなよ」

 バンディットは返事をしない。

 しかも未だにその場でしゃがんで物資をゴソゴソといじっている。
 ……知らぬ相手に背を向けたまま無防備を晒し続けるとかアホなのか?

 その光景をボケーッと眺めながらサバイバーは逡巡する。
 僕は人殺しを行っていないから未だサバイバーの姿を保っている。
 だがこいつはどうだ?
 さっきBerezinoで無差別狙撃を繰り返していた奴と同じバンディットじゃないか。今までもきっと、あんな風な事をしでかし続けてきたに違いない。
 それなのによくもまぁ、ヌケヌケと物資交換を持ちかけるなぞ。
 そして自分も、どうしてそんなやつと悠長に取引なんかしているんだ?

 バンディットは未だ返事をしない。

 未だしゃがんでゴソゴソとやっているバンディットの方を見る。
 やがて荷物整理が終わったのかバンディットは立ち上がる。
 だが、そのまま棒立ち状態で固まってしまった。
 きっとテキストチャットを打っているのだろう。
 背中を向けたままの状態で。

 ……不思議なことに、今からしようとする事への抵抗感は無かった。

 斧を構える、ゆっくりと近づく。

「(彼からのメッセージが表示された気がするが内容は忘れてしまった)」

 そして呑気に振り返った彼の顔面に、斧を振り下ろす。
 一撃では死なないから複数回、素早く、連続して、何度も、何度も。
 昏倒して抵抗できなくなるまで、完全に息絶えるまで、何度も何度も。

 バンディットは二度と返事ができなくなった。

 そして僕は彼から受け取った食料を地面に捨てた
 足元でくたばってるマヌケの荷物を漁ることもしなかった
 いや、物資は全然足りてないし捨てる意味なんて全く無かったのだけど。
 ただなんとなく、本当に何となくその行動に意味を見いだせなくなくて。
 だからそのまま国道を南下して、目的地も無く何処かへと消えた。


・そして、なんかおかしくなる

 ここが当時の僕にとっての分岐点だったのだろう、と思う。多分。
 あの時、突然に色んな事がどうでもよくなった……のかなぁ?

 物欲が消えたと言えばなんだか聞こえは良いかもしれないけれど。

 ようするに、飽き飽きしてしまったのだ。
 必死になって色んなものを拾い集めたり。
 集めたものを失いたくないからと必死に逃げ惑ったりすることに。

 そしてわからなくなったのである。
 なんで、自分も、みんなも、こんな事を、必死に、続けているんだ?
 一緒に遊んでいたフレンドもほとんどやらなくなったのに未だ自分は……

 ・Balotaという村とその飛行場

 さて。
 それはそれとして。
 これからのお話の舞台となる場所についてお話せねばなるまい。

 南の海岸線沿いにbalotaという小さな村がある。
 村内の建物に合わせて港の倉庫もあり物資はそこそこ豊富だ。
 海岸線近くでスポーンしたプレイヤーが海沿いを歩きながら物資を整えるには中々良い場所だし、更にその北東には小さな飛行場がある。
 幾つかのハンガーと兵舎、そして管制塔
 未舗装の小型機用滑走路一本しかない飛行場とは言え、その敷地内では軍事物資がスポーンするのである。
 村と合わせてルートすればかなりの物資が獲得できる。

 もちろんそんな事は誰しもが知っている。
 他のプレイヤーとカチ合う可能性は非常に高い。
 何より、人殺しに飢えている奴が誰かの命を狙うならばうってつけ。
 漁夫の利も狙える最高のロケーションだ。

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こうやって管制塔の屋根に陣取り狙撃を企む奴らも居た
……彼らがこの後どうなったかを語る必要は無いだろう


・その無差別狙撃犯はbalota管制塔の北350mに居た

 どうしてそんな事を始めようと思ったのか?
 キッカケはどうしても思い出せなかったけれども。
 バンディットの頭をかち割った以降、何かがズレ始めていたのは確かだ。

 何より、目的を失ってブラブラしている最中にスコープがドッシリ据え付けられたいい感じのスナイパーライフルと結構な数の弾薬を合わせて拾ってしまったのがいけなかった。
 そのまま自然に、ごくごく自然に。
 目的を失っていた体と心はbalota近くの飛行場に吸い寄せられていった。
 平和的に物々交換をした直後に相手の頭を斧でかち割ったときと同じくらい、自然にスムーズに、何も考えずに。当たり前のように。

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狙撃ポイントと管制塔の位置関係。距離352m。撃ち下ろし

 しばらく周囲を散策した後。
 管制塔の北側斜面を二段階登った所にある丘を狙撃ポイントに設定した。
 距離は300と数十メートル。
 左手にある小さい村からは丘が遮蔽になって見えない位置。
 場所が露見したとしてもすぐさま下がって木立に入ってしまえばそこから多彩な逃走ルートを選ぶことが出来る。
 気合の入った大所帯に追われたとしても、逃げ切ることは十分に可能だ。
 射点偽装の為にと手前の斜面に隠したテントと、その近くにわざと落としておいたアイテム類も追手に対するミスディレクションとして十分に機能を果たしてくれるだろう。

 じっくりと腰を据えてやる必要があるなと思った。
 自室に飲み物と食料を大量に持ち込んで引きこもる予定を立てる。
 必要に応じてトイレの為に席を立つ時以外は決してモニターから目を離さず、何時間でもアンブッシュし続けようと心に決めた。

 どうしてもしなければいけない。
 これをしなきゃ何も取り戻せない。
 そもそも、取り戻す物なんてあるのか?
 というか、失ったりしたのか?最初から何も無かっただろ?
 じゃあもうええわ。お前らもさっさとそういう虚無になってしまえ。
 
あるいは、お前らの死を通じてモチベーションを取り戻させてくれ

 ……などと、当時は色々とあって(僕を知る人の中には聞いたことのある人もいるだろう「平日昼間っから土手をサイクリングしてたら狐に化かされた事件(※性欲で撃退)」もこの頃である)荒れていたり人生を投げ捨てようとしていた時期なので、そんな意味のない事を考えながらPCの前で時間を潰し続ける事に躊躇はなかった。

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木々の間から管制室が狙える
というか、管制室以外を狙うのはあまりにも難しい位置取り

・ファーストエンカウンター

 最初に現れたのは確か、そこそこいい装備を持っていた(ように見えた気がする。実際はどうだったかわからん)サバイバーだったと思う。
 左手側から道路沿いに飛行場に接近。
 しかしすぐさま足を踏み入れず、茂みに身を隠してしばし周囲を伺う。
 そんな彼をじっと観察する。

 ……うん、慣れている人だ。

 きっと今まで色んな修羅場をくぐり抜けてきたのであろう。
キョロキョロと周囲を観察して、ダッと飛び出して飛行場に足を踏み入れるかのように見せかけてからすぐ茂みにUターンするなどと、そんなフェイントまでしていて、彼の人となりが実に伸び伸びと伝わってきた。
 しばし経って彼は飛行場内は安全だと判断したのか滑走路を横切り、ハンガー方面から探索を開始した……したのだと思う。
 位置の問題で、滑走路を越えてきた者の姿を追うことは不可能だ。
 彼がどんな風に探索をしていたかなんて想像で補うしか無い。

 数分後。管制塔に姿を表した彼をこの目で捉えた。

 管制塔に来るまでにそこそこ時間がかかったってことは……
 ……まぁまぁの量の良いアイテムを拾えたのだろう。
 その取捨選択に割いた時間もあったのかな?そう印象を抱いた。
 そんな物のために、これからどうなるかは考えなかったのか?

 ガラス張りの管制室に入った彼はそこでしゃがみこむ。
 そう、床の中央にアイテムスポーンがあるのだ。
 そのアイテムを拾うために彼は動きを止めてしゃがんだ。
 インベントリを開いて拾うのであれば動きは止まってしまう。
 その瞬間は誰しも足を止めてしまう、足が止まってしまう。

 あれだけ警戒していたのに。
 あれだけ洗練された動きをしていたのに。

 銃声。スコープが跳ね上がる。
 狙いを管制室に戻すと、彼が倒れていた。

 彼の死体から物資を回収する気なんてさらさら無かった。
 そんなのためにこんな事を始めたわけじゃないのだ。

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管制室から狙撃ポイントを見るとこんな感じ。


・で?だからどうだっていうんだ?

 ……さて。
 はっきりと覚えているのは最初の一人くらいのもので、後はもう順番も時系列も当時の心境もあやふやである。
 管制室で倒れている最初の一人の死体を見つけて、死体漁りをしている最中に撃たれた奴は確かに居たし。
 積み重なった死体にビビって即座に隠れたものの。結局は安全だと誤認して死体漁りを始めてしまい撃たれた奴も確かに居た。
 ゾンビに追われながら左手側から逃げてきたやつが、balota(狙撃ポイントにからは右手側に位置する)から出てきた別のプレイヤーにゾンビもろとも撃ち殺されて死体漁りされた事もあった。
 もっとも。そいつも結局は管制塔に登ってしまったわけだが。
 そうやって色んなプレイヤーを観察しては、その心境を、これまでの軌跡に思いを馳せて。

 その度その度に、身勝手な愛着を抱いてすらいたと思う。
 そして最終的に管制塔に登ってしまったのを見て、訪れた彼らとの別れの瞬間に身勝手な感傷に浸って寂しい思いすらしていたと思う。
 思い返してみると、あまりにも馬鹿げた話だとは思う。

 そしてこんな事をし始めてすぐ、当然ながら僕のキャラクターモデルはサバイバーからバンディットになっていた。

 まぁ、だからといって何かが変わったりはしなかった。
 ……当たり前だよね。
 こんな事を繰り返していたって変な悩みに踏ん切りがついたりはしない。
 したとしても。それはたぶん……ただ虚影に踊らされてるだけだと思う。

 その後も色々と――まぁ代わり映えもせず伏せてバンバン撃つだけの事を色々などと言うのはおかしい話だが色々――あって謎の耐久アンブッシュは最終的に終わりを告げのだけれども。
 だけども、だからといってまたそこら中を旅して這いずり回って物資を集めては死んでロストしてを繰り返す気力が蘇るわけでもなし。

 カート・ヴォネガットならきっと洒落た言い回しで総括するのだろう。
 でも残念ながらコーヒーはともかく、ジョークにはとんと疎いのだ僕は。

当時の事を今でもたまにフレンドに言われることがあるけれども。
正直、ロクでもねぇただのやけっぱちだよなと思う。
というか、たまに自分でも思い返しては「当時はすごかった」みたいに
歴史修正しがちなのは反省すべきだと思うよ自分、うん。


 定期的に色んなことへのモチベーションを失う度に思い出すので文章として残そうと思ってなんとなくnoteのアカウントを作ってみてまでダラダラと書いてみたけれど。まぁ記録に残すのは大事だよねと思いました。

 つか、自分が今書きたいのは特殊性癖スケベ文章であってだなぁ!?
 こういう、何というか自分でもイマイチぱっとしないゲーミングカジュアル発狂のよくわからない回顧ではないはずなんだよ!!よ!!!!

 ……まぁいいか。まぁいいです、いいよ。うん。
 とにかく手を動かしての筆遊び、大事。
 ちょっとずつ、手を動かしてこう。
 そしたら多分またいい感じにスケベ文章も書けるようになるだろうさ。



…………
……




・「見つけたぞ」

 じっと伏せ、スコープで管制室を狙っていたバンディット。
 "それ"を始めた理由も、何もかもを失ってしまった無差別狙撃犯。
 そんなバンディットに、何者かが声をかけた。

 バンディットは返事をしない。

 返事なんてしないのだ、クソッタレのバンディット共は。
 だから……したいことがあるなら、さっさと済ませてくれ。

 銃声。

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 バンディットは二度と返事ができなくなった。

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 そして未だに地獄の炎で焼かれ続けている。

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