「いかなる花の咲くやらん」第14章第1話 「令和に戻った永遠」
令和元年(2019年) 初夏 平塚
永遠は花の香りに花をくすぐられ、目が覚めた。真っ白い部屋に寝かされていた。枕元の花瓶には藤の花が生けられていた。ここは病院のようだ。ベッドから夕焼けに赤く染まる高麗山が見えた。(テレビ塔が見える。ということはここは平塚市民病院かな。それにしても、丸いアンテナをいっぱい付けられてしまって、テレビ塔はイカのゲソみたいになっちゃったな。
あれっ、私どうしたんだっけ・・・。あーそうか、高麗神社のお祭りで足を滑らせて、落ちたんだ。
・・・なんか、長い夢を見ていた気がする。すごく悲しいけれど、すごく素敵な恋をしたような気がする。)
お医者さんと話していた母親が病室に戻ってきた。
「永遠―、お医者さんに言われちゃった。どこも悪くないって。それは良かったんだけど、目が覚めないけれど、治療の必要がないから、ほかの病院に移らないといけないって」
「そうなの?」
「うん。だから、早く目を覚ましてちょうだい。お願い・・・、えっ?!」
「おはよう」
「永遠、目を覚ましたの?」
母は慌てて「永遠が「おはよう」って言ってます」とわかるようなわからないようなナースコールをした。
「おはようじゃないよ。もう夕方だよ。永遠―。良かった。夕方でもおはようでもなんでもよいよ。良かった。良かった。あなた、十日も寝ていたのよ」
診察の結果、やはり悪いところはどこもなく、二、三日様子をみて、栄養を取って、何もなければ家に帰れることになった。
翌日、和香ちゃんが見舞いに来た。
「良かった。永遠ちゃん、心配したよ。元気そうだね。あれ?これ、なあに?」
枕元におはぎのような黒い石が置いてあった。
「あっ、これは」
(やっぱり、夢なんかじゃなった。私はタイムスリップしていたんだ。十郎様と本当に愛し合っていたんだ。)
ぽろぽろと涙が溢れだした。
永遠は今までの四年間のことを和香に喋りだした。涙と嗚咽交じりで。
途中、お医者さんが鎮静剤を討とうとしたけれど、和香が「全部話させてあげて欲しい、私が永遠ちゃんの話しを全部受け止める」と、お医者さんを説得した。そして永遠はすべてを話し終えた時、石はスーと消えていった。
和香は翌日はお見舞いに来なかったが、翌々日、重そうな本を何冊も抱えてやってきた。
「あったよー。永遠ちゃんの言っていたのと同じ話が載っている本。永遠ちゃんの不思議な体験は夢を見たってこともあると思うけど、私はタイムスリップ説を断然支持する。私ね、思い出したの。永遠ちゃんが落ちた時、崖の下に倒れている永遠ちゃんと、黒い何かに乗って飛んでいく永遠ちゃんを同時に見たの。でね、この曽我物語に出てくる「虎女さん」というのが永遠ちゃんのことだと思うんだけど」
「曽我物語?」
「うん。それで図書館で色々調べてきたの。昔の文章だから、そのままのは全然読めなくて。もっと、古文の授業ちゃんと聞いておけばよかった。こちらの本は、現代語になっていて解説もあるから、比較的読みやすかったよ」
「ありがとう。和香ちゃん、こんなに沢山。」
「図書館の司書の岩尾先生が、永遠ちゃんのお見舞いなら、また貸しにならないようにって、永遠ちゃんの名前で貸し出ししてくれた」
永遠はそれらの本を手に取った。不思議なことに昔の書物もすらすらと読むことができた。そこには自分と十郎のことが書かれていた。
次回 最終回に続く
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