いかなる花の咲くやらん 第3章第3話 兄弟の成長
お兄様、お手合わせお願いします」箱王は一万の後をいつも追いかけて、剣の練習をせがんだ。また、自分も兄上のように力持ちになるのだと、辺りの石を持ち上げては投げていた。最初のころはどんぶりほどの石も持ち上げられなかったが、今では一升餅ほどの石なら軽々、投げられるくらいになった。庭師が並べた石も、箱王にとっては鍛錬の道具。『あらあら、お庭がめちゃくちゃだわ。』と母は嘆きながらも、兄弟仲良く遊んでいる様子に、怒りはしなかった。まさか、二人が父の仇を討つための修行をしているとは露にも思わなかった。二人はすくすくと育った。兄の一万は、しなやかに鍛え上げられた背の高い少年になった。弟の箱王は背の高さこそ、まだ兄には追い付かないが、屈強な身体には力がみなぎり、その成長ぶりには目を見張るものがあった。将来は二人とも父親譲りの立派な青年になるであろうと思われた。それでも、箱王はまだまだ、母に甘えるところがあった。ある日、流鏑馬の訓練をしている時に、落馬をして足を怪我した。母親が、不便であろうと負ぶってくれたのが嬉しくて、「時々怪我をしようかな」などと言って母を笑わせた。怪我が良くなってくると、箱王はもうじっとしていられなかった。すぐに兄を追って、走り回った。
「箱王、まだ、無理をしてはいけないよ。もう少し、良くなってから、また剣術の練習をしましょう」
「いえいえ、もう、大丈夫です。見ていてください。この怪我したほうの足で、その石を割ってみせましょ」
「それは、無茶苦茶です。また、怪我をしますよ。今度は軽い怪我ではすまぬかもしれない。骨を折りますよ」
一万の止めるのも聞かず、箱王は「えいやっ」と、石を踏みつけた。さすがに石は割れなかったが、なんと、石が足の形に凹んだではないか。これには兄の一万も驚いた。
次回 第4章第1話 箱王 箱根大権現にお行きなさい に続く
参考文献 小学館「曽我物語」新編日本古典文学全集53
第1話はこちらから。
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