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いかなる花の咲くやらん 第1章第3話 プロローグ 七夕の白昼夢 ③          

過去の記憶


平成二十年(2008年) 春 曽我

「永遠の『藤娘』は上手く踊れましたね。すっかり藤の髪飾りを気にいってしまって」父と母が微笑みながら話している。
発表会が終わって着替えるとき、永遠は
美藤の髪飾りを外したくないと言ってそのまま付けていた。
「お父さん、お母さん、見ててね」永遠は、小川にかかる木の橋を舞台に見立て、踊ってみせた。
その時足元の小さな黒い石につまずいた。景色が揺らめいた気がしたが、気にしないで踊り続けていた。
気が付くと両親の姿は見えず、着物を着たしい少年がこちらを見ていた。
「あなたも発表会?私も着替えたくなかったけど、脱がされちゃった。頭の飾りだけ残してもらった」
驚いて見つめる少年だったが、永遠はおかまいなしにおしゃべりを続けた。
「ねえねえ、何を踊ったの。一緒に踊ろう。私は藤娘」
「僕の得意な踊りは獅子舞だ」
二人はしばらく楽しくおどっていたが、母の呼ぶ声が聞こえた。
「永遠、永遠、風が冷たくなってきたわ。そろそろ帰りましょう」
「あれ?男の子は?」
「男の子って?」
「今、一緒に踊っていたでしょ。獅子舞が上手な男の子。」
「そんな子はいなかったわよ。さあ、売店行くわよ。梅干し買って帰りましょう」
「えー、おかしいなあ。あっ、待ってー。シソ巻きも買ってくれる。甘いのと酸っぱいのがお口の中で混ざって、美味しいんだ」
「はい。はい。お母さんも好きよ。買いましょうね」

(あの時と同じだ)

次回 第2章第1話 河津家の春に忍び寄る影 に続く  


曽我梅林の枝垂れ梅 著者撮影



梅園の川にかかる木橋  著者撮影


永遠ちゃんの大好きな紫蘇巻き
小田原 正栄堂さんの「梅太郎」です。
筆者も大好き。

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