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「いかなる花の咲くやらん」第13章第1話 「エピローグに向けて」


「亀若ちゃん聞いてほしいことがあるの。私、実は・・・」
永遠は自分の身に起きたこの四年間のことを亀若に話した。
「では、永遠ちゃんは今から八百年未来からこの時代に来てしまったの?」
「信じてもらえないと思うけど」
「信じるよ。さすがに八百年先って、想像もできないけれど。私とは何か違う不思議な女の子だと思っていた。もしかしたら月から来たのかなあなんて考えていた。信じられないようなことでも永遠ちゃんが言えば全部本当だと思えた。だから信じるよ」
「信じてくれてありがとう。五歳の時に一度、十六歳の夏にもう一度、この時代に来たことがある。その時はとても短い時間だったけど、その二回とも十郎様に会っているの。そして三回目」
「たった一人で心細かったね」
「うん。でも、亀若ちゃんがいてくれたから心強かったよ。あのね、八百年先の世界でも、私と亀若ちゃんは親友なんだよ。和香ちゃんっていう女の子がいて、亀若ちゃんとそっくりなの」
「それで初めて会った時『わかちゃん』って呼んだのね」
「そう。その和香ちゃんの口癖が『永遠ちゃんと私は永遠の友達。永遠だけに』なの。それと同じことを亀若ちゃんも言ったから、すごくほっとした」
「そうだったの。十郎様が亡くなった今、永遠ちゃんは帰りたいよね。帰り方はわからないの?」
「わからない。ただ、私がこちらへ来るとき三回ともこの黒い石に連れてこられたけど、この頃その黒い石に触れると元いた時代の景色が目に浮かぶの。もしかしたら未来に戻るのかもしれない。十郎様と生きたこの時代にずっと居たい気持ちもある。このままこちらにいて十郎様の菩提を弔いたいとも思っている。けれど、帰りたい気持ちも正直ある」
「ずっと一緒にいたいけど、帰れるなら帰った方が良い」
「私の勝手に行ったり来たりはできないから、どうなるか分からないけど、もし私が急にいなくなったら戻ったと思ってほしい」
「わかったわ」
「それでね、もし私が元の時代に帰ってしまったら、その後、曽我のお母様を支えてあげてほしいの。勝手なお願いしてごめんね。そしてこの手紙をお母様と菊鶴さん、夜叉王さんに渡してほしい」
「分かった。私は永遠ちゃんがいなくなってしまってもお母様と出家するつもりだよ。例え違う時代に分かれても、私たちは永遠の友だちだよ」
「亀若ちゃん、ありがとう。もし私は戻っても二人に冥福を祈り続ける」
 
参考文献 小学館新編日本古典文学全集53曽我物語
次回は「虎女の文塚」に続く

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