不思議な大阪の地名
大阪にある数多くの地名には不思議なところがいっぱいある。たとえば同じ場所なのに違う地名があったり、地名が長かったり、読み方が難しい地名など。
まずは同じ場所なのに駅名が違っている駅。鉄道会社が違っていても同じ場所に同じ駅名だったら、大阪以外の人にもわかりやすい。でも大阪には同じ場所なのに全く別の駅名になっている場所がかなりある。覚えていないと混乱する。
「大阪」駅と「梅田」駅。JRの「大阪」駅と大阪メトロの「梅田」駅は、同じ構内で乗り換えができるほど隣接している。でも駅名は上記のようにまったく違う。よくメトロの駅にある副駅名もない。大阪メトロからJR大阪駅へ向かうときは、梅田駅で降りる。これを知らないと、大阪の旅では迷ってしまう。この隣接する駅の名前が違う理由は、おそらく「外向き」「内向き」があると考えられる。もともと大阪駅のある辺りの地名は「梅田」。「大阪駅」は大阪以外の人にとっては大阪を代表する駅。一方、大阪の人にとっては梅田にあるJRの駅。だから地元の人が利用する大阪メトロの駅名は「大阪」ではなく「梅田」となる。大阪にすみながら「大阪駅」に行くなんておかしいから。ちなみに近くにある阪急電車や阪神電車の駅の名前も、阪急電車は1910年の開業から、阪神電車は1906年の開業から、駅名は100年以上「梅田(うめだ)」だった。その長い歴史のある駅名が2019年10月に「大阪梅田(おおさかうめだ)」駅に改称された。理由としてあげられたのは「外国人が混乱する」から。ただ大阪の人はだれも大阪梅田駅と呼ばない。また名前だけ見ても、やっぱり「大阪梅田駅」が「大阪駅」から近いことがわからない。実際、阪神尼崎駅で聞かれたことがある。大阪駅にはどの駅で降りればいいですか。地元の人はまさかそんな質問が来るとは思っていないだろう。梅田駅の前に大阪駅があるのが当然と思っている。たとえ他の地方の人が混乱しようが「梅田駅」を「大阪駅」にはしない、意地でもあるのだろうか。
続いて「天王寺」駅と「あべの橋」駅。JRの「天王寺」駅の前にあるのが、近鉄の「大阪阿部野橋駅」。道路を挟んですぐ向かい側にまったく名前の違う2つの駅がある。またJR「天王寺駅」前にある大阪シティバス停の名前は「あべの橋」。これも大阪人の地名に対する意識が関連していると思われる。天王寺とは大阪の人にとって四天王寺のこと。JRの「天王寺」駅は、駅がある場所からとられた地名ではなく、四天王寺の最寄りであることから命名された駅名と思われる。またJR「天王寺」駅の北側、つまり四天王寺側の地域名は「天王寺」、駅の南側の地域名は「阿倍野」。だからJR天王寺駅の南側にある近鉄の駅の名前は「大阪阿部野橋駅」。この駅も長いあいだ駅名は「阿部野橋」駅だったが、現在は「大阪」が付き「大阪阿部野駅」。ただ改称しても、「大阪阿部野」駅が「天王寺」駅と隣接することは駅名を見てもまったくわからない。ちなみに「あべの」の漢字は「阿部野」「阿倍野」などさまざまな表記がある。ちなみに大阪メトロの駅名は「阿倍野」。
この駅名の由来となったのは、「あべの橋」は、JR「天王寺」駅の西を南北に走る道路「谷町筋」の下にJRの線路を通すため作られた堀削部の、上にかけられた橋。JRの線路をまたぐ道路橋が近鉄の駅名になり、さらにバス停の名前となっているという不思議。
大阪メトロ千日前線の「玉川」駅と、そのすぐ近くにあるJR「野田」駅。だったら大阪メトロの駅名もJRと同じ「野田」にしても良かったのではと思われるが、次の駅が「野田阪神」駅であり、JR野田、阪神野田と同じ駅名が続くのを避けたためと思われる。おかげで乗り換えができるほど近いのにあまり知られていない。
JR「新今宮」駅と大阪メトロの「動物園前」駅。「新今宮」駅の東出口と、「動物園前駅」の6番出口はすぐ近くにあり、これなら大阪メトロも「新今宮」駅で良さそうなもの。駅の位置が少しズレていることもあるが、すぐ近くにある大阪市が運営する動物園を宣伝したかったのではないか。ちなみに新世界からも近いので「新世界」駅でも良かったと思われる。
大阪メトロの「谷町9丁目」駅と近鉄の「大阪上本町」駅。距離はやや離れているが、地下通路を通って乗り換えることができ、実際多くの人が乗り換えている。「谷町9丁目」駅の副駅名に「上本町」はない。こちらも知らないと乗り換えが可能とはわからない。
大阪メトロ「扇町」とJR「天満」駅。こちらもすぐ近くにあるが、駅名は全く違う。「扇町」の地域は扇町駅の西側にあり、駅のすぐ横には扇町公園もある。一方、天満の名前は昔あった天満本願寺に由来する、江戸時代から続く由緒ある地名。大阪メトロが同じ「天満」駅にしなかったのは、「天満」の飲み屋が並ぶイメージが強すぎたからかも。
大阪メトロの「大阪ビジネスパーク」駅と、JRの「大阪城北詰」駅。川を挟んでいるが、乗り換えが十分可能な距離にある。さらに「大阪ビジネスパーク」駅の方が大阪城に近い。
「大阪ビジネスパーク駅は1996年、「大阪城北詰」駅は1997年の開業だが、大阪メトロが大阪城に関連する駅名にしなかったのは、大阪城よりも新しい町「大阪ビジネスパーク」をウリにしたかったためと思われる。またカタカナの名前を好んだことがあるかもしれない。一方、JR「大阪城北詰」駅はもともと「片町」駅と言い、JR東西線の開通で地下への移転にともない、「片町」駅のかわりに設置された。現在も片町の名前は学研都市線の正式名称「片町線」として残っているが、ここは「片町」の名前を駅名として残してほしかった。ちなみに駅は大阪ビジネスパークの中にはないため、大阪メトロとは同じ「大阪ビジネスパーク」は駅名としては採用しなかった。
阪神電車「桜川」」駅と大阪メトロ「桜川駅」、そして南海電車「汐見橋」駅。阪神電車の「桜川」駅の乗り換え口が「汐見橋」駅のすぐ前にあるほど隣接している。実際、阪神の駅も仮称の段階では「汐見橋」駅だったが、結局は南海電車ではなく大阪メトロと同じ駅名を採用した。かつては南海高野線のターミナル駅でもあった「汐見橋」駅も、現在は1時間に2本程度のローカル線であり、本数の多い大阪メトロには勝てなかったかもしれない。
大阪メトロ「南森町」駅と、JR「大阪天満宮」駅。場所はほとんど同じところにあるけれど、駅の名前が異なっている。駅がある地域名は「南森町」だが、近くには天神祭でも有名な神社「大阪天満宮」がある。地域名を駅名にするか、有名なスポットを駅名にするか。ここはあえて大阪メトロと同じ駅名は避けたように思われる。
続いて同じ名前なのに少し離れている駅。
JRの「JRなんば」駅と、近鉄電車・阪神電車の「大阪難波」駅、大阪メトロの「なんば」駅、南海電車の「難波」駅。それぞれの駅と駅は端でつながっているが、JRの駅と南海の駅は同じ名前と駅と思えないほど離れている。実際、「JRなんば」駅は以前「湊町」という駅名だった。位置的には違う駅名の方がしっくりくるが、「難波」のネームバリューに負けた感じ。しかし「JRなんば駅」は今後、関西空港と大阪駅を結ぶ新線の、難波の玄関口になるから、先取りをしたとも言える。
JR「野田」駅と阪神「野田」駅。まったく同じ名前の駅名だが、距離にして500m離れている。野田駅、という名前だけで待ち合わせると間違えて混乱するかも。
大阪メトロの「梅田」駅と「西梅田」駅、「東梅田」駅。梅田には「梅田」駅だけでなく、「東梅田」駅と「西梅田」駅がある。距離も「東梅田」駅と「西梅田」駅では1駅分ほど離れている。駅名の違いは、四つ橋線が「西梅田」、御堂筋線が「梅田」、谷町線が「東梅田」と路線の違いによる。路線別なのでわかりやすいとも言える。どの駅もJR「大阪」駅への乗り換えは便利。ただ実際は一度改札を出るため、専用の乗換通路でつながっているわけではない。ただ「梅田」駅と「西梅田」駅、「東梅田」駅は30分以内であれば同じ駅扱いで料金的に乗り換えが可能。梅田に30分だけ用がある場合は、用を済ませてから別の駅で乗れば、前の運賃からの継続で乗車できる。
続いて、やたら長い地名。
大阪メトロの「四天王寺前夕陽ケ丘(してんのうじまえゆうひがおか)駅」は漢字で8文字。ひらがなで16字。これなら四天王寺前駅か夕陽丘駅、どちらかで良さそう。もともとは最寄りの寺の名前を採用した「四天王寺前」駅で、夕陽ヶ丘は副駅名だったが、地域名の夕陽丘駅も駅名にしてほしいという意見が強く、結局駅名と副駅名をくっつけることになった。大阪ではこうしてくっつけてしまうことが多いよう。ほかの大阪メトロの駅でも、喜連瓜破駅(喜連+瓜破)、関目成育駅(関目+成育)、関目高殿駅(関目+高殿)、太子橋今市駅(太子橋+今市)、駒川中野駅(駒川+中野)、千林大宮駅(千林+大宮)、野江内代駅(野江+内代)など、2つ地名をくっつけた駅名がたくさんある。2つの街の境界線に駅ができるとき、両方の名前を並べて両方の希望を取り入れ、余計な混乱をさける目的もあったようだ。駅名は短いほうがわかりやすくていい、という意見もあるが、大阪の人からは駅名が長くて困っているという話をあまりきかない。ちなみに2つの地名をあわせたわけではないが「天神橋筋六丁目(てんじんばしすじろくちょうめ)」駅も漢字7文字、ひらがなで14文字と長め。こちらは短くして通称「天六(てんろく)」と呼ばれている。
それから、読み方が難しい地名。大阪には漢字を見ただけでは読めない、読み方が難しい地名がある。
杭全(くまた)はバスの行き先にもなっている地名。一度バスの案内板を漢字から平仮名に変更したところ、読み方を知らなかった人が多かったようで、かえって混乱を招いてしまったそう。そのため、また現在は漢字の表記に戻されたとか。
放出(はなてん)は大阪で一番むずかしい読み方と言われる地名。地名の詳しい由来はわからないそう。ただ大阪の人は中古車のCMで割と馴染みがある。ただCMと駅とはイントネーションが異なる。
十三(じゅうそう)は阪急の京都線、宝塚線、神戸線の3線が集まるジャンクションの駅名として有名。淀川にある13番めの渡し場だったと言う説もあるが、なぜ「じゅうそう」と読むかは実際は不明。
松屋町(まっちゃまち)は普通に読めば「まつやまち」。正規名称も「まつやまち」だが、大阪の人はほぼ「まっちゃまち」と呼んでいる。
河堀口(こぼれぐち)は知らないとまず読めない地名。普通に読めば「かわほりぐち」。近くの町名は「かわほり」にかわっているが、駅名に難しい読み方が残っている。
百済(くだら)は大阪にある韓国の昔の国の名前の地名。以前はこの場所には百済郡があり、百済からやってきた人が住んでいたと言われている。現在、町名は消えているが、バス停や学校の名前、貨物の駅名として残っている。
地名はその国、その地域の文化をあらわすもの。大阪の地名はまさに大阪の人が大切にしてきた文化でもある。それは1874年に大阪駅ができたのにもかかわらず、約150年たっても同じエリアの地名を「梅田」から変えていないことからわかる。また大阪の地名にはそれぞれイントネーションがあり、標準語のイントネーションと異なる。だから大阪メトロの案内放送も、駅名は大阪弁のイントネーションになっている。特に「谷町」「今里」は標準語と異なる。そんな違いを発見するのも密かな楽しみでもある。
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