小人を連れて旅に出よう④ パリ里帰り
考えないで開脚する人はもちろんロダンの考える人のパロディである。パリにはロダン美術館というそれはそれはありがたい美術館がある。
私の大好きなMarvelous Mrs. MaiselというアマゾンプライムのドラマのSeason2で、主人公ミッジの母親が講座を受けに行く美術館としても知られている。
そういうわけで、開脚する人のパリ里帰り編である。素敵なパリ旅行のうちの開脚する人に関する部分のみを今日も開脚する人視点でお届けする。
主人が私を里帰りさせてくれると旅に出たのは2018年7月。バルセロナからの列車移動を終え、私はパリに降り立った。
スペインのホテルの金庫に3万円を現金で置き忘れてきたことに気付いた主人は失意の中にいたが、ここは私の故郷である。父ロダンの数々の作品、つまり私の兄弟と肩を並べられるまたとない機会を堪能させてもらわねばならない。
まずはオルセー美術館だ。主人はゴッホ目当てだろうが、私としては兄弟との再会こそが目的である。
「歩く男」と私である。頭部や手を省くことで、地面をしっかりと捕らえた両足を強調している。私のように奇抜な体勢でなくても、ダイナミズムを表現している。さすが兄さん。
主人は意外や意外、絵画よりも彫刻が好きである。しかし、今回のオルセーで気に入ったのは、父さんの作品ではなく、ドガの踊り子の彫刻である。踊り子の絵画で有名なドガだが、目が不自由になった晩年は彫像の製作に精を出した。なかでも主人は小さな踊り子の彫像群がお気に召したようである。
さて、いよいよロダン美術館への里帰りである。父であるロダンが晩年を過ごした邸宅が美術館として使用されている。私のようなロダン一族のアウトサイダーが門をくぐることを許されるかどうかいささか不安ではあるのだが、主人はそんなことは意に介さず、私をポケットへと入れてメトロに乗った。
ロダン美術館に到着。小さな入り口からは想像できないほどの豪邸、しかも広大な庭付きである。
兄弟の中でも一番有名な稼ぎ頭「考える人」は、邸宅の横の高いところに座ってらした。なんというか、思ってもみなかったところで思考を巡らせている様子だった。
記念に一枚パチリとするも、ピントが合わせづらい。なんだか兄さんと私の関係を表したようである。
主人と庭を歩く。庭を歩けば兄さんに当たる。
姉さんにも当たる。
ロダン講座にも当たる。主人はフランス語を解さないので、羨ましそうに眺めるばかりであった。
数々の兄さん姉さんと時間を共にするも、やはり木々が綺麗に刈り込まれた小さな庭の柱の上で思考を巡らす孤高の兄さんには敵わない。人気者の兄さんの周りに群がる観光客が少なくなった時を狙って、最高のツーショットを撮りたいものだ。ありがたきかな、主人もその私の考えに賛同してくれた。皆さんにもご堪能していただきたい。コマ送りである。
…
兄さん、また会う日までどうかお元気で。
考えないで開脚する人との旅、四部作、これにて完結です。これを書きながら、久しぶりに旅の相棒を綺麗に拭いてあげました。みなさんもぜひ小人を連れて旅に出てください。では。