紫鳥コウ

紫鳥コウ(Shichō Kō)です。Sentimental Militaryというサークルで同人活動をしております。

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最近の記事

【掌篇小説】 夜明け前に泣く

 窓硝子がドンドンと叩かれたので何事かと思ったら、顔を真っ赤にしたおばあちゃんがいて、急いで冷房の効いた部屋に寝転ばせた。  目を大きく開いて、天井を一直線に見つめている。脇に保冷剤を挟んだり、うちわで仰いだりしているうちに、救急車が来てくれた。ひとり残しておくわけにはいかないので、ベロは隣の万次郎さんに任せることにした。  命に別状はなく、その日に帰ることができたのだが、父さんはこのことに冷淡だった。 「涼んどったのに、倒れとんやったら、洒落にもならへんわ。ぼこいな」  

    • 【掌篇小説】 ラスト・ロスト

      「ええ……次が最後になります」  スーツ姿の男性が持っているカードには、決勝進出者の名前が書かれている。もうすでに七組が呼ばれた。  決勝に初めて進むコンビは、なにかが破裂したのかと思うほどのハイタッチをしたり、数年ぶりに再会した恋人のように抱き合ったりしていた。  決勝常連のコンビは、黙礼をしただけで、名前を呼ばれて当たり前という風だった。  わたしたちは、どういう反応をすればいいのだろう。  十年連続で三回戦敗退。三年連続準々決勝敗退。今年ようやく準決勝進出。ここで敗れた

      • 【詩】 きのうの夕陽を踏んでいけ

        40  冷ややかな青色の月の光に眼が灼かれるわけがない  悲しいから泣いているのだ  眼は内がわから痛んでくるのだ  眼球の奥に惑星みたいなものがあって  鏡像となった太陽が静かに廻っているのだ 39  音楽の流れない静寂な夜を抜け出して   きのうの夕陽の方へと駆けていく    譜面を踏んで   音符の足跡を残して    曲をまきもどしていく 38  ダメだ ダメだ   昨日だってロクなことはなかったのだから    駆けて   もう一度駆けて    一夜を越えて

        • 【掌篇小説】 超ミニカレー

           ポストモダンは「ポモ」と揶揄されたり、なんでも相対化する悪しき思想だと警戒されたりするし、それ故にというべきか、取るに足らないものだと思われてもいる(とくに「脱構築」という〈方法〉は、批判に曝されている)。  そういうことは承知の上で、ポストモダンを取っ掛かりにして、中東部アフリカ史を「脱構築」しているわけだけれど、どれだけ説明をしても、総スカンをくらっているので、じれったい思いをしている。  いや、そうした思いを「していた」のだ。もう誰からも評価も批評も得られないことに、

          【短篇小説】 生命線

           夜八時。T先生――最近、SNSを通して知ったイラストレーター「様」――が、あるショッピングモールで開催されるイベントで、ブースを構えてグッズを販売することを知った。三日間のうち一日だけ(それも二時間くらい)、ご本人様がお見えになるとの情報も掴んだ。  急いで便箋を取り出し、熱い想いを認めていこうとしたのだが、ここでようやく、葉田洋は、思案をはじめた。  交通費とグッズの購入代を計算すると、少なくとも一万円を越しそうである。手持ちのお金は心もとない。大学院に所属している「研究

          【短篇小説】 生命線

          【日記】ラムネ

           家の近くで市が開かれました。定期的に、ある家の敷地で催されている市です。  散らかった部屋の片付けをしていると、窓の外から、人びとの賑やかな声が聞こえてきます。その活気あふれる囃子をBGMにしながら、本棚の整理をしていると、のどが渇いてきました。  冷蔵庫を開けると、ラムネが入っていました。  お母さんが言うには、おばあちゃんが買ってきたものらしいのですが、本人はそのことをすっかり忘れていました。  忘れているということは、自覚しているようでした。お医者さんが言うには、忘

          【日記】ラムネ

          【掌篇小説】 喪失の鐘

           白球を追いかけてユニフォームを泥だらけにした部員たちに水を渡したり、監督に言われてなにかの記録をつけたりしているマネージャーの柚葉は、チラチラと校舎の三階を見ることがある。  テスト期間中ということもあり、早めに練習が切り上げとなった。ボールを拾っている彼女に、キャプテンの前田が声をかける。 「市井さん、この後、みんなとファミレスに行くんだけど、一緒にどう?」  柚葉は、彼の眼の奥に潜む魂胆を見逃さなかった。 「ごめんね、テスト勉強をしたいし……また今度ね」 「そっか。なら

          【掌篇小説】 喪失の鐘

          日記(2024/11/08)

           突然、耳が遠くなりました。  いままでなら聞こえていた音が、聞こえづらくなってしまったのです。唐突な悪化です。  ストレス性のものだと(自分では)感じていますが、これ以上悪くなるようなら、病院に行きたいと思います。  引っ越しをすると、通院先を変えなければなりません。  いままで何年にもわたり通っていた精神科から、別の病院へと転医をするのは、緊張をともないます。  精神科は合う合わないがはっきりとするからです。しかし、実家から通うことのできる距離には、精神科がふたつしか存

          日記(2024/11/08)

          日記(2024/11/07)

           昨夜から強風で、窓はガタガタと震えて、凍えるような寒さを曇り空が閉じ込めています。  愛犬がわたしを呼んでくれる声は聞こえづらく、祖母はずっと憂鬱な目線を庭へと投げかけています。  実家に戻ってから、まだ一週間も経っていませんが、すでに疲労の色は濃くなりはじめました。身体はだるくて、眠気がおさまることはありません。  この生活を続けることができるのか、だんだん不安になってきました。  案の定、夜には鬱に支配されて、なにをすることもできなくなってしまいました。椅子の上に座り

          日記(2024/11/07)

          日記(2024/11/06)

           寝落ちをしてしまいました。気付いたら、カーペット(机の周りにだけ敷いてあります)の上で毛布にくるまっていました。  震えるほど寒かったので、急いで暖房をいれました。雪国の朝は、凍えるくらい冷え込むので、毛布一枚ではとても危険です。  明日からは、注意をします。  日中は、下宿先から運んで頂いた荷物を開封し、片付けていました。  今日一日では、大量の書物を整理整頓することはできず、わたしの部屋はとても散らかっています。  明日にはどうにかしたいと考えています。  夜になっ

          日記(2024/11/06)

          日記(2024/11/05)

           朝、家族のひとりが、いきなり奇声を上げて、暴れ回りはじめました。  ある「病気」について、綿密に調べてしまい、不安になり一睡も出来なかったとのことです。  あまり突きつめて考えすぎると、不安感に押し潰されてしまうので、「大丈夫」だと、わたしは言ってきました。  しかしそれは、彼女の不安を、やわらげる結果にはなっていなかったようです。  適切な「寄り添い方」を、これからも考えていきたいと思います。  昼前に、下宿先にあった荷物が実家に届きました。午後からは、様々な手続きを済

          日記(2024/11/05)

          日記(2024/11/04)

           AM0:05。愛犬がわたしを呼んでくれました。  今日もすぐに、再び眠りについてくれました。一安心して部屋へ戻り、本を読みはじめました。  少し仮眠をしようと思い、カーペットの上で毛布にくるまり、腹ばいになり読書をしていたのですが、眠気が訪れたところで、推しのイラストレーター様の「ゲリラ作業配信」がはじまりました。  裏作業配信なので、アーカイブが残るか分からないため、寝るわけにはいかず、配信を流しながら作業をはじめました。  AM4:30。もう一度、愛犬が呼んでくれま

          日記(2024/11/04)

          日記(2024/11/03)

           AM1:15。愛犬がわたしを呼んでくれました。  眠りやすい体勢にしてから、毛布をかけなおして、二階へ戻りました。時計は、AM1:30を示していました。  けたたましい風雨は、すっかり元気のない彼女の鳴き声を、頼りないものにしています。  よりいっそう、耳を澄ましていなければ、聞き逃しかねません。  陽が昇っているあいだ、祖母と愛犬は、ずっと一緒にいます。抱っこをしたり(されたり)、横並びに眠ったりと、とても仲が良いです。  ふたりが、ぬくぬくとした部屋で、ゆっくりとし

          日記(2024/11/03)

          日記(2024/11/02)

           実家に帰りました。介護生活のスタートです。  人生に一段落付いた気持ちです。高校進学とともに実家から離れて、三十歳になるまで、いくつかの都県に住んできました。  そして今日から、郷里で暮らしていきます。  起きてみると、コンロの上に水がたっぷりの薬缶が置かれていて、びっくりしました。  祖母がお茶を作ろうとしていたようです。彼女は認知症でもあるので、火を使っていることを忘れてしまいます。何事もなくて良かったです。  引っ越しによる疲れで、思いのほか長く眠ってしまいました

          日記(2024/11/02)

          【2024/10/17の日記】食生活と執筆

           誕生日のお祝いで「ギフト」を頂いたので、お寿司を食べてきました。  美味しくて、とても満足したのと同時に、食が細くなりつつあるのを実感しました。味の好みも変わった気がします。  海老の上にアボカドとタマネギを乗せてマヨネーズをかけたお寿司(伝わってほしい!)や、かんぴょう巻ばかり食べていました。  そして、あまりにお腹がいっぱいになり、夜ごはんを抜いてしまいました。  いい加減に、食生活を正さなければ……!  現在、とある文学賞に応募するために、小説作りに励んでいます。原

          【2024/10/17の日記】食生活と執筆

          【2024/09/18の日記】炎天下の中

           わたしのSNSアカウントは、大好きなイラストレーター様の投稿を拝見(拝読)するためだけにあるようなものです。  日常のこと、創作活動のこと、最近では自作の宣伝も、日記の中に記しています。  そのため、わたしの「X」のアカウントは、素敵なイラストをリポストした履歴だけが残っています。  もちろん(?)これからも、今までと同じような使い方をしていきます。  では、なぜSNSを積極的に使わないのか。現在、そのことをひとつの記事としてまとめているところです。  スーパーと家を何度

          【2024/09/18の日記】炎天下の中