隣の子宮は青い
私は佐々木家の長男、花男だ。私は今日で生後3日になった。全く、外の世界とは寒いものだ。子宮にいた頃は良かった。体温を保つ必要もなく、栄養は胎盤から運ばれてくる。私はそこで、いつ外の世界に出られるのか、外の世界はどのようになっているのかをぬるい世界でずっと考えていた。今の私にそんな余裕はなく、肺呼吸と視力の獲得に精一杯で先のこと、未知な概念にまで思考を及ぼす余裕はない。私が産まれた直後、生後5日を超えた大先輩が言っていたことは本当だった。
「みんな子宮の中で色々な悩みを抱えていた。でも、この世界の現実を知ると、それらは全くちっぽけなものであったと気付かされる。」
大先輩の肌や頭髪には湿り気が失われ、赤さもいくらか取れており、その風貌はこの世界の厳しさを物語っていた。
私は生後3日を終えようとしているが、その風貌に近付くにつれて私も大人になっているのだと自覚する。今になってようやく気付いたのだが、我々赤子というのは親によって小さくない差異がある。体の大きさ、身に付けるもの、乳の質、全てが親によって異なっている。私は、他の赤子が自分と比べて恵まれていることに気付き、激しい羨望の念を抱いた。私の身に付けているものは全て茶色で、模様があしらわれているが、華美とは対のものに思える。他の赤子が身に着けているものは色とりどりで、まさに華やかそのものだった。両親がグッチと呼んで気に入っているこの模様の地味さには、赤子ながらに羞恥心を禁じえないものだ。この色は、獲得されつつある視力を魅了しない。生後3日も経つと、こんなにも差がついてしまうこの世界で、私はこれからどう生きていくかを考えなければならない。私は、佐々木家の長男、花男である。