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まだ18/200を見ただけに過ぎない。

『成瀬は天下を取りにいく』の感想を書くといっておいて、本屋大賞の思い出話に花を咲かせた結果文章が長くなったので、本日こそは成瀬あかり史に名を刻む生き証人の1人として感想を綴っていきたい。

成瀬あかり史に名を刻む人々

 成瀬は天下を取りにいくの特徴のひとつに、章ごとに一人称の視点が変わることを昨日お伝えした。

1章~2章は成瀬の親友の子の視点で成瀬あかりという人物と滋賀県大津市膳所町という狭い狭いコミュニティでのお話が語られる。この際の成瀬は中学2年生。

このまま親友の子が主人公で、『おもしれー女』である成瀬あかりの奇行に付き合いながら生態系を観察していく、というような作風で進んで行くのかと思ったのだが、3章にして早速裏切られることに。

3章では急に見ず知らずのおじさんの視点がはじまるのである。

「いや…おじさんが現実逃避する為に読む小説の主人公が
おじさんなのキツいんですけど。」

と感じ、ここで読むスピードは急失速します。それでも日に10ページほど読んでいると、「あれ、このおじさん、1章でチラッと出てきたぞ・・・?」となるんです。

私が本作にハマったのはココです。全く関係ないと思っていたおじさんのお話を読ませられているのかと思いきや、このおじさんも成瀬あかりに所縁のある人じゃないか!とね。

4章では、膳所高校(はなおの出身校や!)に進学し高校デビューを画策する女の子の視点。天然パーマに6時間もかかる縮毛矯正を施し、いざデビュー!という入学式当日。
新入生代表として挨拶をする女子生徒が、何故かスキンヘッドで現れた。その女の子は、高校デビューを画策した女の子と同じ小中に通い、高校でも進路がかぶってしまった「やべーやつ」こと成瀬あかりその人だった。

5章は滋賀県近江神宮近辺で行われるカルタ大会の全国選手権の広島県代表の高校2年生の男の子が主人公。

遂に滋賀までをも飛び出してしまった!なんてことだ!
いくらなんでも成瀬あかりとはもはや関係無・・・あった。
そう、4章で成瀬あかりは競技かるた班に所属している描写があった。(膳所高校では部活動の事を班活動というのだそうな)

満を持しての最終6章は、成瀬あかり本人の視点で物語が進む。それまで成瀬という人物にはあまり感情というものを汲み取れる描写が無いに等しかった。

セリフもクールを通り越して無機質で、悪い子では無さそうなのだが、何を考えているのか分かりづらい女の子だった。

その心理描写が満を持してやってきた。最終章をいざ読んでみたら、思っていた以上に中身は普通の女の子だった。

このコミュニケーション能力に成瀬は大いに助けられてきた。
島崎はよく「成瀬はすごい」と褒めてくれるが、島崎こそすごい。

 新潮社 成瀬は天下を取りにいく 178ページ ときめき江州音頭

時間軸がバラつくのに見ていて淀みがない

 本作の凄い点は、章ごとの年数の切り替えが大胆な点だ。

成瀬あかり的年表で捉えるならば、

生まれる遥か前 3章1部
中学2年生 1~2章 3章1部
高校1年生 4章
高校2年生 5章
高校3年生 6章

と整理する事ができる。1章ごとにほぼ年数を1年重ねる。成瀬あかりというキャラクターは登場した時点から完成されているのだが、その完成されたキャラクターの挑戦を、年をまたぐ事で大胆に垣間見る事ができる。

私はこの勢いこそが成瀬は天下を取りにいくの真骨頂だと感じました。

成瀬は愛に溢れている

成瀬あかりは、変わった行動を取りがちだけれど、その行動原理は様々な愛に溢れていた。それは同時に、滋賀県大津市膳所町の成瀬あかりを取り巻く人々が、成瀬のことを愛してやまないからに他ならない。

その愛は滋賀県を飛び越え広島に届く事もあるし、今ではこの新潟にまでやってきた。成瀬あかり史に刻まれようとは思わないが、語り手となれる事を幸せに思いながら、感想を閉じようと思います。

次に読む本は、私が成瀬は天下を取りにいくを手に入れた10日前に発売された新刊のこちら。

また会えて嬉しいよ、成瀬。

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