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マクラーレンの"サムライ"、今井弘が残した遺産

長年F1のトップレベルで戦い続けてきたマクラーレン。その成功の裏には、数多くの無名の英雄たちが存在する。その中でも際立った存在感を放つのが、15年以上チームに貢献し続けてきた日本人エンジニア、今井弘だ。2025年1月をもってマクラーレンを去る今井のキャリアとその功績を振り返る。

"タイヤの達人"としてのスタート

今井弘はもともとブリヂストンのエンジニアとしてキャリアをスタートさせた。ブリヂストンがF1から撤退する直前の2009年、彼はマクラーレンに加入。当時、ピレリがF1のタイヤサプライヤーとして登場することが予測される中、タイヤの専門家としての知識を活かし、プリンシパルエンジニアとしての役割を担った。彼のタイヤに関する専門知識は、マクラーレンの競争力維持に大いに貢献した。

進化し続けるキャリア

今井は単なるタイヤのスペシャリストに留まらなかった。彼は2017年にチーフレースエンジニア、2021年にはレースエンジニアリングディレクターへ昇進。彼はタイヤに関する専門知識を保ちながらも、さらに広範な責任を担ってきた。そして最近ではタイヤとブレーキのディレクターという重要な役職を歴任し、責任の範囲を広げていった。その間、トラックサイドのオペレーションでも重要な役割を果たした。

チーム外ではあまり知られていないが、ウォーキングのチーム内では大きな尊敬を集めていた。マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、今井の働きについて次のように語っている。「ヒロシは、このチームが達成してきたことの基盤となる貢献者でした。特に私にとって、2015年にマクラーレンに加わって以来、ヒロシは常に様々な役職で私の最も近い協力者の一人だった。彼の専門知識、落ち着いた人柄、そして組織力は、チーム全体から高く評価されています」。

「彼はタイヤ、ブレーキ、オペレーショナルスタンダードに関する優れた知識と専門性で貢献してくれた。非常に誠実で、落ち着いた人柄だ。彼の落ち着きと素晴らしい組織への貢献を、誰もが評価している」。

チームに愛された"サムライ"

今井がチーム内外で愛されている理由の一つが、その"サムライ"的な特質だ。ステラはこう述べている。「ヒロシについてみんなが愛している点が一つある。それは、レースに臨むとき、彼の中のサムライが姿を現し、非常にタフなレーサーになるが、常に非常にリスペクトを持ち、スタイルを保っていることだ」。

この"サムライ精神"は、レースという熾烈な戦いの場において、冷静かつ的確な判断を下す力となった。さらに、ステラは「助言や賢明な意見を必要とするチームの誰もが、ヒロシにそれを見つけられると常に知っていた」と述べ、彼がチームの精神的支柱でもあったことを明かしている。

今井の遺産

2023年シーズン、マクラーレンはワールドチャンピオンを達成した。この成功の裏には、今井の長年にわたる努力と貢献がある。ステラは「ヒロシがマクラーレンでの最終年にワールドチャンピオンを達成したことを喜んでいます。これで彼は一生、自分がワールドチャンピオンであると語ることができます」と語り、その功績を称えた。

また、今井はチームメイトやスタッフたちからも深い尊敬を集めていた。彼の知識と冷静さ、そして周囲を巻き込むリーダーシップは、マクラーレンの文化に深く刻まれた。

日本への帰還

今井はライバルチームに移籍するのではなく、日本に戻り、新たなモータースポーツの役割を追求するとみられている。これにより、F1で培った知識と経験を日本のモータースポーツ界に還元する可能性が高い。

終わりなき旅路

今井弘がマクラーレンでのキャリアに終止符を打つことは、チームにとって大きな損失である。しかし、その遺産は次世代のエンジニアたちによって受け継がれていくだろう。彼の"サムライ"精神は、マクラーレンの成功を支えた一つの象徴として語り継がれるに違いない。

今井が日本で新たに描くモータースポーツの未来。それは、F1での経験をさらに広げる新たな冒険の始まりとなるだろう。

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