バクーでのフェルスタッペンの苦闘:なぜノリスに抜かれるのを防げなかったのか
マックス・フェルスタッペンにとって、2024年のアゼルバイジャンGPは苦い結果に終わったレースの一つでした。レッドブルの強力なパッケージでシーズンを通じて好成績を残していた彼が、まさかピットストップ後にタイヤ交換をしていないランド・ノリスやアレクサンダー・アルボンを抜けない展開は、誰も予想していなかったでしょう。しかし、フェルスタッペンの無線でのやり取りと、レース中の問題点を振り返ると、この結果が決して偶然ではないことが浮かび上がります。
序盤の好スタートと急速な失速
フェルスタッペンはレース序盤にジョージ・ラッセルを抜いて5位に浮上し、これは彼にとって良い兆しとなるかに思われました。セルジオ・ペレスとともにRB20で快適に走行していたかのように見えましたが、徐々に彼のペースは鈍化し始めます。この時点で、すでにブレーキに問題が生じており、彼のペースを維持することが困難になっていたのです。エンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼは、ペレスのブレーキのタイミングと比較し、フェルスタッペンに調整を指示しましたが、これが根本的な解決には至りませんでした。
ランビアーゼが無線で「ターン1では遅くブレーキを踏んでいるが、エイペックスでの速度が落ちている。ターン2ではチェコよりも早くブレーキを踏んでいる。ターン7でも同様、そしてターン8でも…」と伝えた時点で、フェルスタッペンのブレーキングがすでに彼のペースに影響を与えていることが明らかでした。
これに加え、リアタイヤのグリップ不足も徐々に明確になり、彼のマシンは思うように加速できない状態が続きます。このレースでは、通常の彼らしい鋭さが欠けていたのは、マシンのセットアップに一因があったと推測されます。
ピットイン後の苦闘
12周目にフェルスタッペンはピットインしましたが、ここでの戦略的な変更が彼のレースに大きな影響を及ぼしました。ピット後、まだタイヤ交換をしていないランド・ノリスとアレクサンダー・アルボンがフェルスタッペンの前を走る形となり、彼は一時的にその背後で走ることになります。
この時、ランビアーゼはフェルスタッペンに次のように伝えています。「先頭のペースは1分47秒8だから、まだ希望はある。このコンパウンドでのペースを維持して、早くランドとアレックスをクリアしよう」
レッドブルの計算では、フェルスタッペンがすぐに彼らを追い越すことができると見込んでいましたが、実際にはそれが叶わず、ノリスとアルボンのペースに抑え込まれてしまいました。
この時点で、フェルスタッペンはブレーキのオーバーヒートに直面していました。フェルスタッペンがブレーキが効かないと訴えると、ランビアーゼは「温度が原因だ、マックス。数周冷やさないといけない」と無線で指示しますが、この冷却期間が彼のペースにさらなる悪影響を及ぼします。
これにより、ノリスとのギャップを詰めることができず、逆にペースが乱れたフェルスタッペンは追い抜きのチャンスを逃し続けました。最終的に、マクラーレンはノリスのために最適な戦略を取り順位を上げ、フェルスタッペンは順位を落とす結果となったのです。
リアグリップと跳ねる車の問題
レース後半、フェルスタッペンはさらに深刻な問題に直面しました。それは、マシンのリアが跳ねる現象でした。これにより、彼のマシンはリアグリップを失い、安定したコーナリングが困難になりました。ラッセルに抜かれた際、フェルスタッペンは無線で「リアグリップがない。車が跳ねて、リアが接地していない」と報告しており、この現象が彼のレースを完全に狂わせていたことがうかがえます。
跳ねる現象は、特に路面の凸凹やマシンのセットアップが影響する要因とされており、今回のアゼルバイジャンGPの市街地サーキットでは、この問題がより顕著になったと考えられます。フェルスタッペンはその後も安定した走行を取り戻せず、さらにブレーキの問題も重なり、全体的に厳しい展開を強いられました。
最速ラップとボーナスポイントの喪失
フェルスタッペンとレッドブルは、レース後半で少なくともファステストラップを記録し、ボーナスポイントを獲得する作戦を立てていました。しかし、レース終盤に発生したチームメイトのクラッシュにより、バーチャルセーフティカー(VSC)が導入され、この作戦も水の泡となってしまいました。
フェルスタッペンは、VSCが導入された際に無線で「彼らは無事?」と尋ね、事故に巻き込まれたチームメイトを気遣う余裕があったものの、ボーナスポイントのチャンスが完全に消えたことを実感していたことでしょう。
アゼルバイジャンGPの教訓
今回のレースは、フェルスタッペンにとって大きな挫折となった一方で、F1の世界ではどんなに強力なドライバーでも、マシンのわずかな不調やセットアップの違いが、レース全体にどれほどの影響を及ぼすかを改めて証明したレースとなりました。特に市街地サーキットでは、マシンのセッティングが他のサーキットよりも重要であり、フェルスタッペンとチームはこの経験を次戦に活かすことが求められます。
今後、レッドブルとフェルスタッペンがどのようにこの挫折を乗り越え、再び優位に立つのかが注目されます。特に、フェルスタッペンのスムーズで正確なドライビングスタイルが、このようなトラブルをどう克服していくのかが、シーズンの後半戦に向けての大きな見どころとなるでしょう。