マクラーレンの快進撃とフェラーリの苦境:アブダビGP予選分析
アブダビの夜空の下で行われた2024年シーズン最終戦の予選は、数々のドラマと明暗を分ける結果となった。マクラーレンはフロントローを独占し、フェラーリは大きな挫折に見舞われる中で、サインツがその存在感を示した。メルセデスは予想外の失速を見せ、ルイス・ハミルトンの不運が光と影のコントラストをさらに鮮明にした。
フロントロー独占:マクラーレンの完璧な一日
ランド・ノリスが1分22秒595というタイムで今季8度目のポールポジションを獲得し、オスカー・ピアストリが2位に続いた。これにより、マクラーレンはフロントローを独占し、コンストラクターズタイトル争いを有利に進める絶好の位置を確保した。
ノリスは「チームにとって非常に良い一日だった。練習走行を通じて速さを見せていたが、予選は少し難しかった。それでも、Q3での最後のラップは力強く、2台がフロントローに並んだことに非常に満足している。チームは今週末ここまで素晴らしい仕事をしているが、明日のレースに向けて集中を保つつもりだ」と語り、ピアストリも「フロントロー独占はチームにとって素晴らしい結果だ。ラップタイムが一度削除されて復活した後、ターン1で少し余裕を取りすぎたため、最終ランで少しタイムを失ったが、それでも良い位置にいる」とコメント。
トラックリミットで一度はラップタイムを失った(その後復活)ピアストリも最終アタックで巻き返しを見せ、見事にチームの期待に応えた。この二人がともにパフォーマンスを発揮することで、マクラーレンの開発力と戦略の強さが改めて証明された。
アンドレア・ステラ代表も「アブダビでの非常に緊張感のある予選セッションだった。各ステージで接戦となり、特にQ1は非常に厳しかった。そのためタイヤを2セット使用する必要があり、その後の計画に影響を与えた」と述べた。
「ランドとオスカーはセッションを通じて良いラップを刻み続け、フロントロー独占という結果でマシンのポテンシャルを証明した。今日のパフォーマンスには満足しているが、まだポイントを獲得していないことを忘れてはならない」と評価しつつも、警戒を怠らない。
フェラーリの苦境:失われた希望とサインツの奮闘
フェラーリにとって、アブダビの予選は波乱含みの結果となった。シャルル・ルクレールはQ3進出を確実視されていたが、トラックリミットによるラップタイム削除で14位に沈むことに。さらにバッテリー交換によるペナルティで、10グリッド降格が加わり、最後列スタートを余儀なくされた。
ルクレールは「僕の目標は変わらない。それはコンストラクターズチャンピオンシップを勝ち取ることだ。昨日と同じくらいこの目標を信じている。野心的ではあるけど、理論上はまだ可能だし、最後の一周まで全力で戦うつもりだ。予選に関して言えば、マクラーレンの2台には勝てなかったと思う」と自身の予選を振り返った。
「でも、ラップタイムが削除され、予選14位になったうえ10グリッド降格ペナルティがあるから、目標達成は本当に難しくなる。レースペースは悪くないけど、マクラーレンのほうが強そうだ。FP3以降にマシンを大きく変更したけど、それが正しい方向だったと感じている。タイヤのデグラデーションは他の一部よりも良さそうだから、これが何らかのアドバンテージをくれることを期待している。明日は何が起こるかわからないし、全力を尽くすよ」とコメント。
一方、カルロス・サインツは1分22秒824で3位を獲得し、フェラーリの名誉を辛うじて守った。「昨日からマシンをしっかり調整して、今日はQ1とQ2で安定したラップをまとめることができた。Q3では最後のアタックで全力を尽くして、良いラップを刻んだと思う。P2とはほんの数百分の1差だったけどね」
「ただ、ここではP2からでもP3からでもスタートポジションに大差はない。レースは非常に長いから、僕たちのペースには自信を持っているよ。レースは最後の1メートルまで戦わなければいけないから、心の底からドライブして勝利を狙うつもりだ。フェラーリと最高の形で終えられるなら、これ以上嬉しいことはない。最後のチャンスに賭けよう!」と力強く語った。
フェラーリのチーム代表フレッド・バスールは「明日は最後のコーナーまで戦うつもりだ。少なくともカルロスが2列目にいるし、彼はとても良い仕事をしてくれた。P3からのスタートでもP2と大差はなく、むしろ右側のスタートポジションの方が少し有利かもしれない。マクラーレンと戦って、このレースで勝利を狙うことはできると思う。そうすれば、今年を良い形で締めくくることができるだろう」
「もちろん、シャルルにとってはもっと難しいレースになる。最後尾からのスタートだが、(ペナルティがあるので)最善の結果でもP11スタートが限界だっただろう。彼のパワーユニットに関する判断を慎重に検討し、混雑を避けてクリーンエアで走れる戦略を考える予定だ。タイトル争いに関して言えば、週末前の時点では理論上すでに難しかったが、ペナルティでさらに厳しくなった。それでも不可能ではない。何が起こるかは分からないからね」と述べ、現実を直視しつつも明日のレースに希望を託した。また、タイヤのデグラデーションが比較的良好であることがレース戦略でのアドバンテージになる可能性を示唆した。
さらに、ルクレールの挽回に向けて「大胆な戦略を検討している」と語り、最後尾からでも順位を上げられる可能性を探っている。
メルセデスの失速:ハミルトンの不運とラッセルの苦戦
メルセデスにとって、この予選は苦い記憶として刻まれることとなった。ルイス・ハミルトンはQ1最後のアタック中、トラック上のボラードを巻き込むアクシデントにより18位に終わり、メルセデスでの最後の予選を飾ることができなかった。
ハミルトンは「今日は本当に不運だった。週末を通してマシンを良い状態に仕上げるために一生懸命取り組み、マシンは強いと感じていた。でもQ1の最後、タイミングが最適ではなく、トラフィックの中を押し通らなければならなかった。それが最後のアタックに影響し、さらにターン14でボラードが車体に挟まってしまい、ラップの最後の数コーナーに影響が出た。それまではジョージと同じペースだったし、Q2進出は確実だと思っていたから、本当に悔しい」と悔しさをにじませた。
「もし最後まで進めていたらどこまで行けたかを言うのは難しいけど、練習走行を通して良い状態だったから、フロントローを狙える位置にはいたと思う。でもこれが現実だ。明日はP17からのスタートになるけど、できる限り楽しみながら、少しでも多くポジションを上げるために全力を尽くすつもりだ」と前向きな姿勢でインタビューを終えた。
一方で、ジョージ・ラッセルは7位に終わり、週末を通してペースを掴み切れなかった。「チームにとっては奇妙な週末だった。調子が良いときもあれば、ペースがどこに行ったのかわからなくなるときもあった。この週末の状況には少し混乱しているけど、少なくとも僕の側では、フロントロー争いをするスピードはなかった。今日はP7が最善の結果だったかもしれない」と予選を振り返った。
トト・ウォルフは「ルイス、そしてアブダビで素晴らしい最終週末を提供しようと一生懸命努力してきたチーム全員に謝罪しなければならない。彼は練習走行を通じて速さを見せ、明日も良い結果が期待できる状態だった。それなのに、Q1の最後で完全に彼を失望させてしまった。我々のミスでドライバーたちを早めに送り出さなかったことが原因だ。その結果、両者のアウトラップがトラフィックに阻まれ、プッシュラップも妨げられた。さらに、ルイスのマシンにボラードが挟まるという不運も重なり、彼はQ2に進むことができなかった。このようなリスクを冒すべきではなかった」と謝罪しつつ、「明日のレースで彼の本来の力を見せることを期待している」と語った。
アンドリュー・ショブリン(トラックサイドエンジニアリングディレクター)は「厳しい夜で、望んでいたような展開にはならなかった。まず、ルイスのQ1敗退について謝罪しなければならない。ここでの予選はトラフィックが常に課題であり、それを考慮に入れる必要がある。しかし、今回はそれがうまくいかなかった。両車がピットレーンを最後尾から出たことで、トンネル内での追い越しが許されない状況の中、前方の多くの車が通常以上に間隔を空けた。それがルイスとジョージのアウトラップを妨げ、彼らを不利な状況に追いやった。さらに、ターン14でルイスの車にボラードが挟まり、数コーナーでのパフォーマンスが影響を受けた」と述べ、今回の予選失敗を教訓とする姿勢を強調した。
アブダビGPの予選が示したもの
今回の予選は、マクラーレンの圧倒的な強さとフェラーリの苦境、メルセデスの課題を浮き彫りにした。特に、ノリスとピアストリの安定感はシーズンを締めくくるにふさわしい輝きを放ち、サインツの孤軍奮闘も印象的だった。
しかし、ルクレールやハミルトンの不運が示すように、予選での結果はあくまで序章に過ぎない。決勝レースでは、タイヤ戦略やセーフティーカーのタイミングなど、予測不能な要素が待ち受けている。
マリオ・イゾラ(モータースポーツディレクター)は「非常に接戦となった予選だった。今年最も僅差の予選と言っていいだろう。Q1では、20人のドライバー全員がわずか0.803秒差に収まった。この接戦はドライバーたちがソフトタイヤを最大限に活用する要因となった。このタイヤは非常に良いパフォーマンスを発揮したものの、真価を発揮するのは最初のアタックラップだけだった。予選60分間を通じて路面状況はほぼ安定しており、差を生んだ主な要因は新品と使用済みタイヤのグリップレベルの違いだった。たとえ1周だけ使用したものでも、差は明らかだった」と予選結果に対するタイヤの影響を分析した。
「明日のレース戦略について言えば、ミディアムでスタートしてハードに切り替えるワンストップが理論上最速の選択だ。ただし、3つの要因が2ストップ戦略の可能性を開くことがある。それは、これまで見られた以上のデグラデーション、セーフティーカーやバーチャルセーフティーカーの介入、そして最も現実的なのは、トラフィックに巻き込まれたドライバーが早めにピットインして、新しいタイヤによるアドバンテージを活かそうとする場合だ。これが連鎖反応を引き起こし、チームが2ストップ戦略に切り替える可能性がある」と指摘し、特に1ストップ戦略が最速とされる中でセーフティーカーの介入等のイベントがシナリオを大きく変える可能性を示唆した。
アブダビの夜明けとともに訪れる最終決戦。その結末がどのようなドラマを描くのか、モータースポーツファンの注目が集まる。