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シンガポールGPにおけるメルセデスのタイヤ戦略:ハミルトンとチームの対立

F1シンガポールGPでは、メルセデスのタイヤ戦略が多くの議論を呼びました。特に、ルイス・ハミルトンに採用されたタイヤ戦略に対する不満が明らかとなり、チーム内での意見の対立が浮き彫りになりました。結果として、ハミルトンは予選3位からスタートしながらも6位でフィニッシュし、期待されていた結果には届きませんでした。この背景には、メルセデスの誤算が大きく関わっていました。

シンガポールGPは、特にタイヤのマネジメントがレース結果に大きな影響を与えることで知られています。マリーナベイ・サーキットは、トリッキーなストリートサーキットであり、抜きどころが少なく、トラック上のポジションが非常に重要です。リードするドライバーがタイヤを慎重に管理しながらペースを抑えることで、前後の差が広がりにくく、タイヤへの負担が少ないレースが展開されます。このレース特有の状況を考慮して、メルセデスはハミルトンにスタートでのアドバンテージを持たせるため、ソフトタイヤでのスタートを選びました。

しかし、チーム代表のトト・ウルフが認めたように、この選択は「レースを読み違えた」結果、失敗に終わりました。ウルフはレース後、「モナコのように行列状態になるシンガポールGPの過去のレースに基づいて決断を下したが、今回はその読みが外れた」と述べています。また、彼は「ソフトタイヤがスタートでチャンスを与えるだろうと考えたが、リアタイヤのデグラデーション(摩耗)が想定以上にひどく、結果的に後退する一方だった」と説明しました。実際、ハミルトンは17周目に早めのピットインを余儀なくされ、その時点で彼のレースは実質的に終わってしまったと言えます。

レース後、ハミルトンはメディアに対して、自身がこのソフトタイヤ戦略に強く反対していたことを明かしました。「レース当日の朝のミーティングで、チームは二人のドライバーで戦略を分けたいと言っていたが、僕はそれに反対したんだ。これまで、ジョージ(ラッセル)が良い予選結果を出して、自分が悪かった時には戦略を分けることがあったが、今回は接近していたので意味がないと思った。だから僕はできるだけ強く主張してミディアムタイヤでスタートしたかったんだけど、チームは引き続き僕にソフトタイヤでのスタートを勧めてきた。そしてタイヤブランケットが外された時、他の全員がミディアムだった」と語っています。

さらに、ハミルトンは「タイヤブランケットが外された瞬間、他の全員がミディアムタイヤを選んでいたことに非常に腹が立った」と述べ、「その時点で僕のレースは厳しいものになると感じた。彼ら(トップランナー)についていくために最善を尽くしたが、あのタイヤは持たせるのが難しく、ピットに入った瞬間にレースは事実上終わってしまった」と振り返りました。

ハミルトンのチームメイト、ジョージ・ラッセルはミディアムタイヤを選択し、レース中盤にはハミルトンを含む複数のドライバーを抜いて順位を上げることができました。ラッセルもこの戦略についてコメントし、「レーススタートの時点で、ルイスがこれに納得していないだろうなと感じていた」と述べています。ラッセルの戦略が成功したことで、ハミルトンの戦略ミスがさらに際立つ形となり、チーム内での戦略に対する意見の違いが浮き彫りになりました。

また、今回のタイヤ戦略に関しては、過去のレースとの比較も興味深いポイントです。今年、メルセデスが異なるタイヤコンパウンドでドライバーをスタートさせたのはこれが6回目であり、以前のマイアミGPでもラッセルがソフトタイヤでスタートし、成功を収めています。しかし、今回はその逆のパターンで、ハミルトンがソフトタイヤでスタートするも、チームの期待とは裏腹に結果を残せませんでした。

この一連の戦略ミスに対して、ウルフは「我々全員が共同で下した間違った決断だった」と総括しています。メルセデスはレース展開やタイヤ摩耗を見誤り、結果的にリカバリー不可能な状況に追い込まれたのです。ウルフは、「マシンが遅すぎるという事実は隠しきれない」と現状を厳しく評価し、今後の改善の必要性を示唆しました。

今回のシンガポールGPは、メルセデスにとって厳しいレースとなり、特にタイヤ戦略に関するチームとドライバーの意見の不一致が大きくクローズアップされました。ハミルトンの反発と結果の裏目が、今後のメルセデスの戦略にどのように影響を与えるのか、注目が集まります。

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