見出し画像

雨中の賭け:角田裕毅が選んだピット戦略の是非

ブラジルGPの大雨の中、角田裕毅のピットイン判断はレースの流れを大きく変えた。このタイヤ交換の是非について考察してみたい。

スタートから降り続いた雨は、28周目から29周目にかけてさらに悪化した。サーキットを襲った猛烈な雨は一時的とはいえ非常に激しいもので、コーナーは川のようになり、路面は瞬く間に水浸しとなった。まるで海の中を走っているかのような状態で、多くのドライバーたちがウェットタイヤへの交換か、レースの赤旗中断を訴えた。しかし、ほとんどのチームはこの雨が4〜5分しか続かないという予報を受け、ステイアウトの指示を出していた。レッドブルのマックス・フェルスタッペンやアルピーヌ勢もこの判断を採用し、濡れた路面で耐えることを選んだ。

しかし、角田はこの判断に異を唱えた。彼は最終コーナーで感じたあまりにもひどいコンディションを目の当たりにし、エクストリームウェザータイヤへの交換を強く訴え、自分の判断でピットに戻ってきた。彼の判断は、目の前の路面状況を考慮すれば間違っていなかった。実際、ウェットタイヤに交換した直後、角田はインターミディエイトタイヤを選択したノリスやラッセルよりも10秒も速いペースで走行し、追い上げを見せた。これは、角田のドライバーとしての感覚と即応力が正確であったことを示している。このペースで走れれば、もう一度、タイヤ交換してインターミディエイトタイヤに戻しても前で戻れる勢いだった。

だが、ここで運命を大きく左右する出来事が起こる。セーフティカーの導入である。雨は予報通りに短時間で弱まったが、その間にコンディションがあまりに悪化し、コース全体でアクアプレーニング現象が発生。ウェットタイヤでもストレート区間でスロットルを全開にできないほどの状況となり、視界不良も加わってセーフティカーが登場した。このセーフティカーの存在によって、角田がウェットタイヤの優位性を最大限に活かすチャンスは失われてしまった。

その後、レースはさらに赤旗中断され、角田の期待は大きく裏切られる形となった。もし赤旗が出なければ、リスタート後にウェットタイヤの温まりの速さを利用して前走車を一気にオーバーテイクし、トップに立つ可能性もあっただろう。しかし、ウイリアムズのフランコ・コラピントがターン13でクラッシュしたことで、その可能性は完全に消え去った。赤旗の影響で角田の順位は6位ままになり、彼の挑戦は無情にも阻まれることとなった。

この結果を見ると、角田のピットインは戦略的に失敗だったのかもしれない。しかし、その一方で、ドライバーが感じたリアルタイムのリスクに基づく決断としては、彼の判断は非常に適確であったとも言える。特に、視界不良や路面状況が悪化する中でのエクストリームウェザータイヤへの交換は、当時の路面状況を考えると最適な判断だったからだ。

また、チームとのコミュニケーションが適切に行われていれば、状況は違っていたかもしれない。チームが「この雨は数分で止む」という情報をもっと明確に伝えていれば、角田はステイアウトを選んでいた可能性もある。結果として、彼がピットに飛び込んだことで一時的には速さを見せたものの、セーフティカーと赤旗の導入がそのアドバンテージを完全に奪ってしまった。

総じて、今回の角田のピットインは「結果的に失敗」と言えるかもしれないが、その背景にはドライバーの瞬時の判断とチームとの情報伝達のズレがあった。雨中のレースでは、チームとドライバーの信頼関係とコミュニケーションがいかに重要であるかが改めて浮き彫りになった出来事だったと言えるだろう。

角田の判断は決して間違ってはいなかったが、結果が彼にとって不利に働いたことは、雨中のモータースポーツの難しさと厳しさを象徴している。今後のレースで、彼がこの経験をどのように活かすのか、期待が寄せられるところだ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集