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レッドブル 黄金時代の終わりの始まり:新たな挑戦に直面する最強チーム

2023年、マックス・フェルスタッペンとレッドブルはF1界で歴史に残る快挙を成し遂げました。フェルスタッペンは22戦中19勝という驚異的な記録を打ち立て、ドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルの両方を圧倒的な差で手にしました。唯一の敗北はシンガポールGPで、レッドブルにとって2023年シーズンはまさに理想的なものでした。しかし、シーズン終了後に訪れた冬の静けさは長続きせず、2024年シーズン序盤からチーム内外に不穏な空気が漂い始めました。

チーム内の不協和音とホーナーに対する疑惑

バーレーングランプリの直前に、レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーに対する不正行為の疑惑が報じられたことが、チーム内での緊張を一気に高めました。内部調査が行われ、ホーナーは疑惑を否定し、従業員からの上訴も棄却されたものの、チーム内には依然として不和の兆しが見られます。

ホーナー、ヘルムート・マルコ、ヨス・フェルスタッペン、そしてレッドブル親会社のオリバー・ミンツラフという、チーム運営に関わる重要な人物たちの間での微妙なパワーバランスは、表面的には安定して見えるレッドブルの内情が実際には複雑であることを示唆しています。

こうした状況にもかかわらず、フェルスタッペンは2024年シーズンの最初の10戦で7勝を挙げ、ドライバーズランキングでも依然としてリードを保っていて、問題が表面化するのを一時的に抑える役割を果たしていました。

しかし、スペインGP以降、RB20のパフォーマンスは徐々に低下し、アゼルバイジャンGPの後には、コンストラクターズランキングでマクラーレンに逆転される事態となりました。1998年以来、長らくタイトル争いから遠ざかっていたマクラーレンが突如としてレッドブルに対抗する存在となり、F1界に新たな緊張感が漂い始めたのです。

「頭脳流出」によるチームの弱体化

さらに、レッドブルを悩ませる問題はマシンのパフォーマンス低下だけではありません。チーム内の技術者や戦略家が次々とチームを去る「頭脳流出」が深刻化しています。レース戦略責任者のウィル・コートニーがマクラーレンに移籍することは象徴的な出来事でした。また、長年レッドブルのスポーティングディレクターを務めてきたジョナサン・ウィートリーも2026年のアウディ参入を見据えてザウバーの代表に就任する予定で、レッドブルから去ることが決定しています。

しかし、最も衝撃的だったのは、エイドリアン・ニューウェイの辞任です。19年間にわたりレッドブルのマシン設計を指揮し、チームに数々のタイトルをもたらした彼が、2025年3月1日付でアストンマーティンに移籍することが決まりました。ニューウェイの後任にはテクニカルディレクターのピエール・ワシェとエアロダイナミクス責任者のベン・ウォーターハウスが就任する予定ですが、彼らがニューウェイほどのインパクトを残せるかは未知数です。F1の成功は、マシンの性能だけでなく、それを設計する技術者たちの才能にも大きく依存しています。ニューウェイという天才技術者を失うことは、レッドブルにとって大きな痛手となるでしょう。

チームの未来を揺るがす課題

レッドブルの課題は、単なる人材流出にとどまりません。2026年にはF1の技術規則が大幅に変更される予定であり、それに伴い各チームは新たな技術開発に乗り出しています。レッドブルは、自社製エンジンプロジェクト「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」に多大なリソースを投入しているものの、ホーナーが誇るように200人以上をメルセデスのハイパフォーマンス・パワートレインズから引き抜いたとしても、それが即座にチームの競争力に結びつくかは不透明です。引き抜いたスタッフの多くは短期契約で移籍してきた契約社員であり、長期的な安定性をもたらすわけではありません。

加えて、レッドブル内部での人事異動も頻繁に行われています。ジョナサン・ウィートリーの後任としてフェルスタッペンのレースエンジニアであるジャンピエロ・ランビアセが昇進することが決定されましたが、これが果たして成功するかは未知数です。さらには、フェラーリからの引き抜きの試みを防ぐための内部昇進措置が講じられているものの、これが短期的な解決策に過ぎないことは明白です。

レッドブルはこれまでにも数多くの困難を乗り越えてきましたが、今回の問題はより深刻です。主要な技術者と上位の管理職が相次いで去る中で、今後のF1の大規模な規則変更に対応し、かつての圧倒的な強さを取り戻すためには、レッドブルはこれまで以上に困難な挑戦を強いられることでしょう。特に2026年以降の新たな時代において、彼らがどのように再建し、競争力を維持するのか、その行方が注目されています。

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