振付のお仕事
日本舞踊独特の事情
日本舞踊は踊りではありますが、洋舞のようにバーレッスンのような基本で全てが賄えるわけではありません。
歌舞伎から始まったいわゆる舞踊劇に近く、役柄によって動き方が違うからです。
着物での所作、動きなど基本は勿論あるのですが、例えば娘と武士、あるいはお爺さん、同じ女性でも年増、花魁など動き方が異なることは想像に難くないと思います。
また、三味線など楽器によって表現される独特の"言葉"も理解していなければなりません。
晒しを振る、手毬付き、獅子舞などなど。
深々と雪の降る様子を太鼓で表す日本人の感性は、本当に素晴らしいと思いますね。
その他にもたくさんあって、それらを知らずに振付することはできません。
古典から創作へ
現在の多くの"新舞踊"と言われるジャンルの人たちは、三味線音楽に限らず、歌謡曲などでも振付しています。
古典(歌舞伎舞踊)と基本は変わりませんが、短い曲で気軽に踊れる新舞踊は人気があります。
歌謡舞踊なども踊りの為に作られたものも多くて、ストーリー性が高く、日本舞踊には向いていると言えます。
私も恐らくそういうジャンルに入るのかも知れません。
ただ、演歌などで踊りたい方のために振付はしますが、実はあまり好んで踊ることはありません。
ロック、シャンソン、タンゴ、クラッシック、民謡J-pop、アニソン、キッズソング…ジャンルを問わず気に入った曲を着物を着ているという制約の中でどう表現するか、その辺りがやりがいであったりします。
和楽器奏者の方々でも、新しく現代の邦楽を目指して様々な曲を作られていますので、そうした方の曲などもよく振付して踊っています。
オーダーや踊る人によって変わる振付
自分が踊りたい曲は、踊りたいように自由に振付しますが、頼まれて振付する場合(勿論これがお仕事になるわけですが)相手の希望に沿うものにしなければなりません。
例えば一般の人がその場で楽しめるように、いわゆる盆踊り的なものは、見てすぐ真似ができて、曲の個性も感じられ、見栄えのする振りが良いと思います。
現在教えている高校生の場合は、授業では全員が日本舞踊の雰囲気を体験でき、基本を学べる振付。
部活動の場合は生徒から踊りたい曲を挙げてもらいますが、その曲の雰囲気を出せる個性的な振りもいれつつ、基本動作も知ってほしいし、ステップアップできるように今できることより少し難しくしてあげたい。
この辺りのさじ加減や、個性の出し方は振付師の腕の見せ所です。
振付師は演出家でもある
そして振付を渡す時、踊る人に合わせて微調整もします。
どうしてもできなければ変える、ということもありますが、同じ振りでも踊り手の感性にしっくり来ない場合もあるんです。
踊り手が一番輝ける動きを見つける。
そういうアレンジもまた振付師の腕の見せ所です。
私も舞踊家ではありますが、その全てを私が踊ればうまくいく、というわけではありません。
若い人向けの踊りは、たとえ私よりつたなかったとしても若い人が踊った方がいいです。
そういう意味では私では踊れない曲を代わりに踊ってもらえる、大げさに言えば夢を実現してもらえるような、そんな嬉しさもあります。
私の好きな曲に「童神」(夏川りみ)がありますが、この曲は、我が子に向かって、"よく育て、いつまでも見守っている"という母の唄。
こんな曲は、人の親になった人が踊った方がいいですね。
そういうことも含めて適材適所じゃないですけれど、そんな演出ができる振付師でありたいと思っています。
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