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ソチ五輪開会式のオープニングにみる、ロシアからナボコフ、そして亡命ロシア人へのメッセージ

ソチ五輪開会式のオープニングムービーに、ロシアに関係の深い作家としてナボコフが登場

 私の好きな作家は帝政ロシア出身のナボコフ。なぜならダントツに小説が上手いから。表現は詩的かつ的確。濃密な文章と世界。圧倒的な知性と感性。でも私は文章力がないからこれ以上何も言えません。ハードな読書に耐えうる頭もないのでナボコフの濃密な文章もろくに読めてません。自分の頭はさほどよくないので彼の作品は理解できません。それどころか『カラマーゾフの兄弟』を「文章量と登場人物大杉ワロタ。でもロシアにもぶりっ子はいるんだね!勉強になった!」と投げ出し、ケータイ小説とブログと2ちゃんねると「○○な人の特徴○選」ばかり読んだ前科があります。でも好きな作家だと言っておきます。

 さて、前回私は芸術的なオリンピック開会式として、2014年度のソチ五輪開会式を紹介しました。

そこでこんな予告をしています。

 ちなみに私はナボコフが好きだが、冒頭のロシア語アルファベットの順にロシアにちなんだ単語が読み上げられる映像にもナボコフが登場する。そのことをこちらの記事に書く予定。もし書き上げられたら読んでいただきたい。

当記事でやっとナボコフが登場したことについて書けます。ソチ五輪開会式でナボコフがロシアにちなんだ作家として紹介されました。オープニングムービーでは、ロシア語アルファベットの順にロシアにちなんだ単語が幻想的な映像で紹介されます。そこで"Н"から始まる"Набоков(ナボコフ)"が登場します。

亡命作家ナボコフは祖国を思い出しては悲しんだだろう

 ロシアにちなんだ偉人として紹介されたナボコフですが、彼はロシア革命後に西欧に亡命しています。ロシア亡命文学界で評価されたのはパリやベルリンに暮らしていた時。『ロリータ』で世界の文学界のスターになったのも渡米後。専業作家として生活し、終の棲家として選んだのはスイス。文学活動はロシア時代から始めていたものの、祖国の地では文学活動は続けられなかったのです。彼はロシア語で執筆していたのに。

 ソ連は言論統制が過酷で、小説の内容や表現がちょっとでも共産党の基準に引っかかるなら命の危険がありました。ロシア貴族の邸宅は国有化されたので、懐かしの我が家も奪われたはずです。とても母なる大地に帰る気にはなれなかったでしょう。

 彼の作品はあまり読めていません。しかし、幸せなあの頃に帰りたいけど帰れない悲しさがちらほら見える作品をよく書いていると思います。『ロリータ』では、主人公は子ども時代の死んだガールフレンドのことが忘れられないので少女性愛に走りますが、子ども時代がいかに素晴らしかったかを冒頭部分でみっちり語っています。少女性愛が物語の縦軸ですが、夭折したガールフレンドにどこか似ているヒロインと関係を持てたはずなのにバッドエンドになったあたり、裏テーマのひとつは「これで美しい過去に戻れると思ったら、全然だめだった」じゃないかと思っています。

祖国に帰りたくても帰れなかった亡命ロシア人たちへのメッセージ

 ナボコフに限らず、祖国帝政ロシアに帰りたいけど帰れなかった亡命ロシア人はたくさんいたのだと思います。自分たちの生活を破壊したソ連を憎みながら亡くなってしまった亡命ロシア人も多かったでしょう。「我々ロシア貴族が支えてきた文化や建築物もソ連以降は消えてしまうのだろうか」と案じ悲しむ人もいたでしょう。

 そのロシア革命からおよそ100年後の2014年、ソチ五輪開会式ではロシアの王侯貴族が守り育ててきた文化が蘇りました。オープニングムービーでは"Российская Империя(ロシア帝国)"、"Екатерина II(エカチェリーナ2世)"、そしてナボコフが紹介され、パフォーマンスでは聖ワシリイ大聖堂、ピョートル大帝の海軍建設とサンクトペテルブルク造営が表現され、バレエで『戦争と平和』の冒頭部分が再現されたのです。

 私は陰謀論に踊らされる中学生並みの解釈力しか持ち合わせていないのですが、帝政ロシアの文化で彩られた開会式の冒頭に亡命ロシア人であるナボコフを登場させたことは意義深いと思います。ロシアは100年前に追い出した人たちの存在と恩恵を忘れてはいないということです。

 この開会式には「あなた方が愛し支えた帝政ロシアの世界は今ここに生きています」「あなた方のおかげでここまで素晴らしい文化を世界に誇ることができました」とナボコフに代表される亡命ロシア人たちへのメッセージも込められているのではないでしょうか。あの世からでもいいし、生まれ変わってこの世から見ててもいいので、彼らが開会式を見ていたらいいなと祈らんばかりです。

【余談】オープニングムービーで使われた本には何が書かれているのか?

 ところで、オープニングムービーでは見開きの本が使われていますが、これは一体何の本でしょうか?気になるので調査中です。

参考サイト

最後になりましたが、YoutubeとWikipediaには数多くの情報を提供頂き感謝の意を表します。ありがとう、YoutubeとWikipedia。Wikipediaは参考文献として書く必要があるとはちょっと思えないけど、一応参考サイトとして載せておきます。

・冒頭の画像

Youtubeの"Sochi 2014 - Opening Trailer"のスクショです。

・参考にしたWikipedia


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