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向田邦子 ベスト・エッセイ

『向田邦子ベスト・エッセイ』(文庫)

向田 邦子(本文)向田 和子(編集) 発行:筑摩書房


向田邦子さんのエッセイは
ハワイの青空より
日本のくらしや旅情がよくにあう。

20代半ばから惚れ込んで
一時読み続けていた向田邦子さん。
めざましどようびの「めざカルチャ」という
結構しっかりした旅コーナーを担当していたころは
泊りでの出張が毎週だった。
水木は全国どこでも指定された場所にすぐさま飛んでいく。
リュックを背負って旅をするスタイルだったのだけど
そのリュックの中には、
待ち時間にいつでも読めるように
向田邦子さんのエッセイをほぼ毎週入れていて
いまでもリュックの中の質感や
荷物の中に混ざった文庫本の映像が思い出される。

だからエッセイ本を手に取ると
あの頃多くの時間を過ごしたロケ車の中や
ピンマイクが一緒に思い出されて
懐かしさと混じって、知らない街での異邦感や解放感
旅先で話した方との会話から感じる静かであたたかな気持ちや
暗くなったさみしい人通りのない田舎道を歩いたうら寂しさだとか
当時の色んな気持ちがまぜこぜにこみ上げてくる。

読んだ本と読んだ時の感覚は
「未来の今」から振り返ると
なんというかひとつのものになってるから
なんだか不思議だ。
向田邦子さんの暮らしていた時代の気配漂う本と
私が読みながら懸命にすごしていた時代は
私の中でだけは
記憶の中でいつの間にか溶け合っていて
それは、唯一無二のものだ。
これこそ、一人ひとりに許された
時間を超えた本のギフトだなぁと思う。
さて、このベストエッセイは
今まで発表されているもののなかから
題材ごとに、選ばれた作品たちが並んでいる。
「向田邦子さん、読んでみたいな、と思いつつ
なかなかタイミングを逃して。」という方
「むかしちょっと読んだな~。また読んでみようかな」という方
ぜひ今回を選んでもらえたら嬉しいです。

私も、今改めて読んで感じることを
新しく発見しては味わっている最中です。 
特に夜中の薔薇に収録されていた
「手袋をさがす」がとても好き。
これを入れてくれて、さらには最後に持ってきたのか!!と
まるでライブの「セットリスト」に何か言いたくなるように
高揚したのでした。

本や文章にはその人の気配やエネルギーにが乗る。

そんなことを、知らぬうちに感覚的に気付かせてくれたのも
思えば向田邦子さんだったかもしれません。
永遠に尊敬するお姉さん。
いつか年齢を越えても
ちっとも追いつかない気のする憧れの在り方の人です。

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