SENSE OF WONDER×のびのび読みオンラインイベント 前半
松尾翠 にこちゃんのキャラクターは本当にかわいいですよね。このキャラクターはどうやって生まれたんですか?
原あいみ 実はポプラ社さんで、のびのび読みのシリーズ絵本をつくるためにキャラクターコンペがあったんです。たくさんの方が「私も描きたい!」って応募されているなかで、選んでいただいたキャラクターなんですね。なので、最初にキャラクターができて、それにお話をつけてもらうという流れで誕生しました。
私は普段、広告やセールスプロモーションの絵本ではないところで、絵を描く仕事をしているのですが、子どもが生まれて、母親になり、絵本の仕事がしたい!と鼻息荒く、気合を入れてコンペに臨んで、選んでいただいたというのが、誕生のきっかけです。
松尾翠 言ってみれば、オーディションのようなものですね。
それじゃあ、これまでは子ども向けの絵本のイラストなんかはあまり多く描かれてなかったんですか?
原あいみ そうなんです。私はデザイン会社に勤めているのですが、会社は絵本をたくさん作っています。もしかしたら皆さんのおうちにもあるかもしれませんが「しましまぐるぐる」(柏原晃夫(かっしー)/絵 学研出版)や、「くろくまくん」(たかいよしかず/作・絵 くもん出版)のシリーズなど、大ヒットメーカーの先輩がたくさんいるんです。私はその絵本チームの所属ではないんですが、こうやって先輩たちが素敵な絵本をたくさん出しているので、『私も絵本描きたい!』と気合を入れてコンペに臨みました。
松尾翠 へえええ。じゃあ、このキャラクターにモデルはいるんですか?
原あいみ ちょうどコンペに臨んだときが、うちの娘が2歳の時で、イヤイヤ期真っ盛りで。
松尾翠 スーパーにこちゃんだ!(笑)
原あいみ うちのなかに、おにのこがいるって思ったんです(笑)で、うちの娘をモデルに描いたのが、おにのこにこちゃんなので、ほんとうにそっくりです。
松尾翠 原家のおにのこにこちゃんは現在はどうなりました?今、にこちゃんをかかえているお母さんたちは、これからうちはどうなってしまうんだろうかと思っているかと。
原あいみ 思いますよね~。娘は今6歳で小学校1年生になりまして、小学校生活の前半はとても大変だったんですけど、夏を過ぎたあたりから、いろんなことを自分でやってくれるにようになりまして、『あのにこちゃんだった子が~(泣)』ってことが増えてきましたね。
松尾翠 すごくうれしいし、でも、こうやって変わっていって、同じときはないんだなって思いますよね。
原あいみ にこちゃんだった子が、お風呂掃除とか一緒にやってくれるんだ~と思って。びっくりですよ、本当に。
松尾翠 確かに。うちも3人子どもがいて、一番上のお姉ちゃんが小学校2年生、それで、真ん中がにこちゃん、下がにこちゃん予備軍の怪獣みたいな(笑)でも、今お姉ちゃんいないとまわらないくらい、いろんなことをやってくれるようになってね。その時その時が子どもたちにはあるから。
この本読んで、みんな個性はあるけれども “基本みんなにこちゃん“ みたいな感じだから、そこをどうやって私がイライラしないで面白がれるかって、気持ちを変えていけるのがいいなあって思います。だから、この本を読むと本当にホッとしました。
原あいみ うれしいです。ありがとう。
松尾翠 ちょっと俯瞰で、可愛いなぁ、そういう時だもんなぁって思わせてくれるのが、私がにこちゃんを好きなポイントです。もちろん、子どもたちは別の視点で大好きなんですけどね。
原あいみ ありがとうございます。
私、娘の姿をInstagramの絵日記で描いてるんですけど、育休時代に絵を描いていなかったので、復帰する時に手が鈍っていると思って、練習代わりに描きはじめたんです。
松尾翠 そういうこともあるですか!?
原あいみ 毎日描いてないと、下手になっちゃう。それで、練習も兼ねて、あと今の娘の状態を忘れたくないな、残しておきたいなと思って。写真じゃ残せないちょっとした日記みたいなものを描いておこうと始めた観察絵日記です。なので、ほぼにこちゃんの言動や表情は、私が描き残したうちのにこちゃん(娘)をモデルにしているので、泣き顔なんかうちの娘の顔そのままなんです。いくつになっても泣き顔はそっくり。このまんまの顔で今も泣いてます。
松尾翠 ああ、もう可愛い!本当ににこちゃんの魅力のひとつはいろいろな表情で。この表紙の裏にもいろんなにこちゃんがいるけど、百面相なくらいに、笑って泣いて怒って、眠たくなったら寝て、ご飯食べてって顔が、子どもって本当にこのまんまですよね。
原あいみ ねえ、本当に。笑ったと思ったら怒るし、怒ったと思ったらすぐ泣くし、寝るし、美味しいもの食べたら笑うし。そのさまをにこちゃんに投影できたらいいなと思って描いています。
松尾翠 子どもちゃんのこういう表情ひとつひとつを、私たちは写真を撮って切り取ることしかできないけど、あいみさんはそのまなざしを心でシャッター切るように残しては、こうやって全部の表情をあますことなく表現してくれて、それが絵本になって、私たちがうれしいな、ホッとするなというものができるんですね。愛のまなざしですね、ほんと。
原あいみ なんでしょう、育児って本当にほとんどが面倒くさいことばっかりじゃないですか、親的には(笑)。育児を楽しもう!っていうと結構大変だなっていうのが正直なところなんですけど、でも自分の子どものこと自体
は楽しめるなと思うんです。私も娘のことを本当に面白いなと思っていて、それだけは自信を持って言えます。だから、我が子のことを面白がれると育児の面倒くささも軽減するかなってところがあって、いつでも娘のことを面白いなあって観察してます。
松尾翠 この面白さって、1年たったらにこちゃんの面白さとは別の面白さになっていくから、今しかないんだよねえ。大変だけどねぇ。
でも、こうやって描き残してくれることで、面白いなっていうこの感覚を共有できたり、独りじゃないんだよなってことや、みんなそうだよなってことでホッとできたり、本の力で、本を開いたときに可愛さも含めて、あいみさんのメッセージが載っているんだなあって思いました。