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一等星 (ショートショート)


空に瞬く星に明るさの順番があるのはご存知ですか?


地球から見える星の明るさは「等級」という単位で表し、昔の天文学者が肉眼で最も明るく見えるのを1等星、そこから数が大きくなるほど暗くなり、肉眼でようやく見えるくらいの暗い星を6等星と決めたのが始まりだそうです。

今では1等星よりさらに明るい星が発見されていて0等星やマイナス1等星と表されています。そしてその星をひとつひとつを繋いでいくと全天で88個もの星座を形作ることができます。

現代の夜空では一等星の星さえ見つけることが難しくなりましたが、図鑑であったり星座の神話であったり、星図を見つめていたら物語が浮かんできました。

今回は、
3つの一等星のショートショートをお届けします。




リゲルとベテルギウスじいさん

ぼくは学校がおわるとベテルギウスじいさんのお家へあそびに行きます。

ベテルギウスじいさんは星のかけらを研究しているすごいせんせいです。

両手をお願いごとするみたいに強くにぎって広げると青い石が出てきます。これが、星のかけら。

ぼくたちみんなの、いのちのみなもとなんだって授業で習いました。

せんせいに見せてあげたら、大きなビンにたくさん入った星のかけらを見せてくれました。

青色、白色、オレンジ色、赤色、大きさも色もバラバラです。

大きくなるにつれて、石の色が明るくなるんだよってせんせいが教えてくれました。

せんせいのはどれ?って聞くと、とびきり真っ赤な石を取り出してくれました。

せんせいの石は、光にかざしている時だけ中で火花がちって、まるで生きているみたいです。

どうしてもほしいとお願いしたらぼくのと交換してくれました。

"せっかくだから、あしたは星のかけらを使った実験をしようか。さ、もう遅いから帰りなさい"

かえり道、ぼくはまた星のかけらを作りました。

がいとうにかざして見たらパチパチはじけなかったけど、せんせいの石とかさねてみたら、ふたつの石の中で光が一直線に流れていくのが見えて空が真っ暗になるまでかんさつしていたので、お母さんにおこられました。

ベテルギウスじいさんは学校で教えてくれないふしぎなことを教えてくれるすごいせんせいです。明日のじっけんはなにをするのでしょう。

リゲルはやさしくて物知りなせんせいが大すきです。


拝啓 ポラリス様

あんたが返事をよこさないからこの手紙が届いてるのか分からねぇんだが、もう良くなってきたぜ。今まで通り好きに書かせてもらうことにするよ

目が覚めたら、待ちかねたようにキリンの奴がまたお前の話をしてきた

近頃のポラリスの瞬きは艶めいている。今夜は特に眩いそうだ、君はどう見えているってね

あの長いまつげから覗く眼を煌めかせながら、こっちが一言も発さなくてもずうっとお前のことをペラペラ

段々癪に触ってさ、聞いてみたんだよ。その目で見てみたいと思わないのかって。そうしたら、

この背に焦げ付くような熱を感じるだけで愛おしい

だとさ。呆れてものも言えねえよ

見えないからこそ憧れるもんなのかねえ

おれにはよくわからんが

ヤマネコより

・・・

ああ 

うらやましい

あなたからのお手紙がわたしを変えてしまったのです

お返事をしたいけれど、そうしたら満足してもう送ってくれなくなるでしょう

きっと、わからないでしょうけど

ポラリスはその手紙をいつもの箱にしまいこみ抱きしめて眠った。

身を焦がす、その姿を想いながら

︎✧

小さな来訪者 ポルックス

ストーブから薪が爆ぜる音に耳をすませて、うたた寝をしていたら、意識の遠くでドアをノックする音が聞こえた。

相手は急いているのか玄関を開けるまで小さなノック音が何度もする。

「やぁ失敬。お待たせいたしました。少し眠ってしまっていて……おや、ポルックスじゃないか」

両手で小さな麻袋を持って佇む少年は胡乱な目で私を見上げていた。

・・・

ソファに腰を下ろしたポルックスは手元の麻袋に目線を落としたまま何も語らない。

私はその琥珀の髪に燐火の色がちらちらと覗く子供特有のまるい頭をみていた。兄のカストルの髪には乳白の差し色が入っていたか。

「蜂蜜たっぷりの紅茶は好きかな、入れてくるよ」

自分の家だというのになんだか落ち着かなくなってきて、私はキッチンに向かった。

この辺りに住んでいていたずら好きな双子カストルとポルックスを知らない者はいない。鬼の形相で追いかけるお友達やおとなから楽しそうに逃げ回る双子の姿を見るのはもはや日常、双子のあるところに笑い声と怒鳴り声はセットだ。

そう
この兄弟はいつも一緒にいる。その片割れがどうしてひとりで私を尋ねてきたのだろう?

ティーカップを手に部屋に戻るとポルックスはいなくなっていた。いたずら?それにしては、何がしたかったのかよく分からない。

彼が座っていたソファに目を向けると大切そうに持っていた麻袋が置かれていた。開くと中には布に包まれたガラスの破片が袋いっぱいに入っていて察しがつく。

ははぁ これを私に見せたかったのだな

私は紅茶をぐいっと飲み干すと、袋を持って工房へと向かった。

・・・

次の日

さて これをどう返そうか 考えているとポルックスが昨日と同じ時間にやってきた。ソファに案内して小箱を彼の前に置く。

「全て繋げられたと思うけれど、元の状態がわからないからね。確認してくれるかい」

ポルックスがおそるおそる取り出したのは、手乗りサイズの馬のオブジェだった。

「すごい 元にもどった!」

今にも駆け上がりそうなほど精巧な作りのオブジェは、粉々になっていたから直すのに骨が折れたが、明るい表情をうかべた彼を見てそっと息をつきソファに深く身をゆだねた。

「これ兄さんのたからものなんだ。なのにぶつかってこわしちゃったから、どうしようって困ってたんだ」

「そうかい じゃあこれからは繰り返さないように気をつけないといけないね」

「うん。……このこと、兄さんに言わないでくれる?」

その言葉に私は少し考えて、こう言った。

「分かった 約束しよう。でも帰ったらお兄さんにちゃんと謝るんだよ」

「えーなんで!?せっかく元どおりになったのに」

「隠し事は必ず見つかるものなんだ。たとえ姿形が直ってもね。大切にしてたものならそれだけ思い入れもあるだろうし尚更さ。」

ポルックスは身に覚えがあるのか口を尖らせて黙り込んだ。

「だからお兄さんにしっかり謝る。それがそのオブジェのお直し代だよ」

「ウゥ わかったよ……」

ポルックスはすっぱいものを食べた時のような渋い顔をしつつも納得し あ、あのさぁ となにやら言いにくそうに続けた。

「うん?」

「ありがと!」

叫ぶようにお礼を言って立ち上がると、ものすごい勢いで走り去ってしまった。

・・・

ポルックスを見送った数日後、玄関前にあの麻袋が置いてあった。

中には真っ黒な石の欠片が入っていて、ツルツルとした平たい面を重ね合わせるとパンパンパァン!! と小さな花火が打ち上がった。

「イタズラも程々にしてほしいな」

なんて困ったように呟きつつ今夜はこの光の花を晩酌のアテに楽しむことにしよう。


end




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