『これはゆがんだ食レポです』永田カビ
出たぞ神・永田カビの最新刊!
しかも今回は食がテーマ!
今までの作品に出てきた食い物、特に『膵臓がこわれたら、少し生きやすくなりました。』に出てくる居酒屋の飲み物食い物がとにかく美味そうに描かれていたので、永田センセはぜっっっっ……(サマーソルトが打てるくらいのタメ)……たい食レポマンガ描くべき!
と思っていたので喜々としてソッコー買った。
したら、食がテーマなのはそうなんだけれど、摂食障害の食について描かれていたので「思てたんとちゃう!」ってなった。
でも、まあ、だからこそすごいのだ。
常に読者の予想を裏切ってくれるのがセンセで、だからこそ私も最新刊が出るのを楽しみにしているのだ。
だって食をテーマにしてマンガを描くってなったとき、摂食障害を出してくれる作家がほかにおる? いやおらん(反語)。
前述の『膵臓がこわれたら~』も、アル中になったことがあるライターの紹介記事を読んだことがあるのだが、肝臓の数値「1112」っていうスコアを叩き出していたセンセに、「自分出しても200でした(基準値は16~73)。この数値は頑張っても出せないっすよ」と謎の賞賛というか畏怖を抱いてた。
さすが永田カビ! おれたちにできない事を平然のやってのけるッそこにシビれるあこがれるゥ!
てなわけで本作。
もー、なんかね。
読んでたら胸が苦しくなっちゃった。
他の作品同様、またもや命を削って描かれている作品だったから。
2話目でね、「24時間体制で毎日呑み続けると、こうなります」って話があって、それがマジで24時間体制で毎日呑み続けてる様子を描いてたから怖くて泣いちゃった。
センセいきなり飛ばしすぎじゃない?
アクセルベタ踏みで追いつけないって。
朝から24時間営業の磯丸水産行って呑んで、チェーンの定食屋に店を変えて呑んで、昼呑みできる定食屋に行って呑んで、居酒屋に行って呑んで、店変えて呑んで、呑んで呑んで呑まれて呑んで、酒と泪と嘔吐と女……そんで黒背景白四角のコマに「帰宅した際の記憶は一切ない」とか書かれたコマがちょいちょい挟まって、これは完全にホラー。
これあれだ、いま話題の『ドカ食いダイスキもちづきさん』に似た感じの怖さがある。
しかもこっちはエッセイだからよけいに凄みがある。
私の知らない世界がここに描かれてある。
そう、そうなんだよなぁ。
毎回思うが、センセのエッセイが好きなのは、私の知らない世界を見せてくれるからだ。
一冊を通して摂食障害の食にまつわるエピソードが描かれているのだけれど、正直、共感できる話は一切なかった。
水吸ってぶよぶよになった炭水化物とか嫌いだし。
嘔吐シーンも大嫌いだし。
藤本タツキの『チェンソーマン』というマンガは残虐描写グロ描写が多数出てくるのだが、なにがキツかったって、主人公のデンジが先輩と初キスをしたときにゲロを吐かれてゲロを口移しされるシーンが一番読むのがキツかった。アニメでは観れずに飛ばした。
それくらいゲロの話は嫌い。
てか好きな人のほうが少ないか。
摂食障害は、食べられるだけ食べて吐くのがサイクルらしくて、その話も少しだけ出てきて、たぶん読者を選ぶ。
でもそれは私の知らない人生なのだ。
摂食障害の人が食べ始めるときに最初に摂取して胃の下に敷く食べ物のことを「底」っていうのなんて知らない。
家でカレーをたらふく食って、そのあとコンビニに行ってカレー味の食品をめいっぱい買ってさらに食べたくなる気持ちなんて知らない。
入院して絶食を続けると、トイレに残っていた他人の尿にかすかに残る食べ物の匂いが「おいしそう」に感じるのなんて知らない。
そんな私の知らない人生の背後には、地獄が広がっていることは読んだらすぐわかる。
けれど読者に読んでもらうためのエッセイとして、あくまで明るく、読みやすく、ユーモアも挟みつつ、ときには笑える形にして提供してくれているところにプロ根性を感じるし、作家性を感じるし、そこに切なさを感じるのだ。
必死で生きているさまが伝わってきて、だから夢中で読めたし、よくわからん感情で胸がいっぱいになった。
ここまで命を削って描いている作家はなかなかいないし、なんなら最近では私小説の分野にもいないんじゃない?
というわけで、今回の作品もすごかった。
ええもん見せてもろた。(なぜか関西弁)
そんな感想。
センセの作品を読むといつも、「もういい……もう……休めっ……!」ってその肩を抱きしめたくなるくらいなんだけれど、私ごときがセンセを救うことなどできないので、せめてお金を払って本を買って読ませてもらいます。
どこまでもついていきます。