『路傍のフジイ』3巻が相変わらず心をグチャグチャにしてくる
40代・独身・非正規社員のフジイの日常を描く『路傍のフジイ』が相変わらず心をグチャグチャにしてくる。
特に事件らしい事件が起こらず、変わり映えのしないつまらない日々(あえてそう書く)を描いているのに、それでも新刊が出たら買ってしまうのは、フジイが自らの現状に泰然としていて、それどころか満足しているから。
「令和のニューヒーロー」というのがこの漫画のキャッチコピーらしいが、たしかにその精神性は常人離れしていてヒーローといえなくもないかもしれない。
なんせ1巻で、フジイは自分の夢を「長生きすること」と語っているんだぜ?
ウソだろ。
私なんて、長生きしたいだなんて、ほぼ思ったことないぞ。
いや死ぬのは怖いし、今すぐ死にたいとも思わないが、光の砂になって、
(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..
って消えたいとは毎日思ってる。毎日思ってるのかよ。
あとはなー、HUNTER×HUNTERの最終回とシンギュラリティは、生きているうちにこの目で見ておきたいかなー。
でもそれだけだ。
あんま積極的に長生きしたいとは思わない。
でもこれって特別におかしいことでもないような気がするけどな。
もちろん、オレサマが思っていることは全人類が思っているはずだぜ! とは1ミリも思ってはいないが、独身で、子供も持たず、仕事は非正規で、特に裕福というわけでもないという状況で、フジイみたいに幸せに毎日を生きられる人って、リアルでそんなにいるかな?
そりゃいるんだろうが、かなりレアなほうじゃない?
少なくとも私は、とてもフジイのように毎日を送れないし、フジイの感じ方を理解できない。
感情移入できるという点では、田中のほうがよっぽど理解できる。
第18話「田中の休日」の、幸せなカップルとか新婚の友達に会ったときに感じる黒いモヤモヤとか、すごいわかるし、うなずきすぎて首がもげるかと思うほどだ。
休日のイオンとかニトリ行くと、絵に描いたような幸せそうな家族連れがそこらあたりにウジャウジャいて、それこそ浄化されて光の砂になりそうになるもんな。
そういう黒いモヤモヤした気持ちを、田中はフジイを思い出して消す。
「あそこにフジイさんがいるって、わかるだけでいいんだよ」
つって、微笑みを浮かべる。
あーわかるわかる!
自分より下と思える存在がいたら心安らぐよね!
ってうんうんうなずきながら読んでいたら、どうもそうではないみたいで(?)、フジイという存在のおかげで勇気がもらえました~みたいなキレイな締め方でこのエピソードは終わってしまった。
えー、これってそんないい話なのかな?
てっきり下と比較して心を慰める話かと思った。
というか田中も実際は、やってることはそうじゃない?
で、それは別に悪いことでもないと思う。
誰だって聖人君子ではないからね、ときには下の存在に思いを馳せて心を慰めないとやっていられないこともあるだろう。
それを言動として外に出さなければ。
私もよくやってるし。やってるのかよ。
ただ一つ注意しなければならないのは、それはあくまで一時的な対処であって、そんなことをして人生の問題が解決するわけではないことだ。
それに「コイツはどう転んでも結婚できんだろう」と侮っていた相手が、ある日突然「結婚しました!」というボディブローをかましてくるのも、稀によくあることなので、多用は禁物だ。
私もこれまでに何発も喰らっている。
いやほんと、なんだかんだでみんな結婚していきますよ。
クソー、幸せになれよこの野郎!
だから私は「私以外の人間はいつか必ず結婚する」と思って生きるようにしている。
あと3巻で一番許せないのは湯沢。
いるんだよな~、結婚した瞬間に「結婚いいよ~、あなたもしなよ」とか言ってくる人間。
作中でも即「自分が結婚したからってそうやって言う~」ってたしなめられているのだが、湯沢はなお「違う、そうじゃないのよ」と言い訳をかますのだが、そうじゃないことなんかあるかバカ!
「今はいいけど、これから先、歳を取ってからは一人はキツイよ。若いとわからないかもしれないけどね?」って、さも善意からしているような助言は、私に言わせれば、結婚して安全側に回った途端に独身に石を投げつける、えげつないマウント行為だね。
こういう湯沢みたいな人間は、本当に本心でアドバイスをしているつもりになるのかもしれないが、独身の若人にとってその言葉が支えになったり救いになったりすることはないということは、湯沢自身が知ってるはずだ。
ずっと独身でいたときに、既婚者の「結婚はしたほうがいいよ」みたいな言葉を「ためになります!」なんてありがたく受け取れることなんてあるかな?
むしろイヤ~な気持ちになるほうが多いんじゃね??
本人が結婚したがっている場合は、結婚したくてもできない事情があるんだろうし(私がこのパターン)、結婚したがっていない場合はただの大きなお世話でしかないわけだからね。
それに結婚って、しようと思ってすぐにできるもんじゃないしな。
立場が変わったとたんに、自分がされてイヤ~な気持ちになったことを忘れて、同じことを若人にかますのは、ひかえめに言ってタワーオブクソですわ。
ちなみに私もリアルで似たようなことを言われたことがある。
ずっと長いあいだ婚活をしていて、アラフォーになって結婚を決めた会社の先輩に「ずっと一人の人生っておもしろいの?」と聞かれたのだ。
思わず「滅殺……」つって瞬獄殺をかましそうになり、殺意ってこんな気持ちなんだってことを学んだ。
自分もついこないだまで独身だったのに、結婚した途端にこんなことを言ってくる人間は、ガチでいるのだ。
世の中って地獄だね。
残念なのは、この湯沢のふるまいに対して、フジイの反応が描かれていなかったことだ。
いくら超然としているとはいえ、老後の問題はフジイにもあるわけで、そのあたりどう考えているのかは、ちゃんと描いてほしかった。
さっき私は、フジイというキャラクターが理解できないと書いたが、だからこそ、こういう問題にどう対応するのかは興味がある。
私にとってこの漫画は日常系ではなくて、社会常識とか現代の価値観と戦うフジイというヒーロー(あるいは化け物)の物語なのだ。