苦情への対応
一生懸命やっているのに保護者との思いが違ったり、受け止め方が違ったりして思わぬトラブルが発生することがあります。
時には、考えもしなかった方向から苦情をいただくことがあります。困った状況になったら一人で抱え込まないことが大切です。今回は、苦情の対応についてまとめます。
自分が一報を受けたら
コツ1.まずは傾聴し、相手の訴えが何なのかを正しく理解しましょう。
学校には様々な問い合わせや苦情などの連絡が入ります。職員室で仕事をしていたらたまたま自分が苦情の連絡を受けるかもしれません。そういう時には、相手が感情的になっていたり、高圧的な口調だったりすることがあります。実際に、「お前の学校の生徒は道路を歩くときのマナーがなっていない!」といきなり怒鳴られることもあります。初めてそういう電話を受けてしまったら、緊張してどのように対応したらよいのかわからなくなってしまうものです。
また、苦情は匿名の電話だけでなく、担当するクラスの保護者から他の先生についての苦情を受けることもあります。「○○先生の授業は、進度が遅い上に内容も理解し難いってみんな言っていますよ。先生、どうにかなりませんか。」のような落ち着いたトーンの苦情から、保護者としても我慢に我慢を重ねて、いよいよ怒りが爆発した状態で直接怒鳴り込んでくる場合まで様々です。そのような状況で、「しかし、そうは言っても…」と反論とでも取られることを言おうものなら、火に油を注いでしまいます。もし、自分が一報を受けてしまったらとにかく傾聴し、相手が何を求めているのかを理解することに集中しましょう。
コツ2.対応を検討するための時間をもらいましょう。
最初の情報がどのように入ってくるかは状況によります。相手のために解決策や意見を言う前にしっかりとした体制づくりが必要になります。そのために何が求められているのかが理解できたら落ち着いて、「解決に向けて対応を検討する時間をいただけますか。ベテランの同僚や管理職と相談させてください。」と言えばわかってもらえるケースが多いものです。
状況によっては、「○○先生にだけは知られたくないのです。もし知られたら成績に影響されそうで怖いんです。」のように、時間をもらうことはできてもさらに要求が増える場合もあります。そのような場合には、「そのことも含めて解決に向けて相談する時間をください。心配されていることについて気をつけながら対応できるかを改めてお知らせします。」とお願いしてみましょう。決して、慌てて結論や解決策を提案することだけが得策ではないことを頭の片隅につてに置いておきましょう。
情報を整理する
コツ3.傾聴する→整理する→共有する
苦情の一報を受けたら結論を急がずに、まずは同僚や管理職に相談をすると言いました。特に苦情については、情報を「傾聴する→整理する→共有する」という流れを理解しておくとスムーズな対応ができるようになります。
さぁ、一報を受け同僚や管理職に相談することになりました。しかし、相手が興奮していたり、話が長かったりしたら、主訴が的確に理解できない場合もあります。そのまま相談しようと思っても、うまく伝えられなければスムーズな対応につながりません。また、情報不足で初動がうまく行かないとトラブルが長引いたり、違う問題が発生したりします。そうならないようにするために、簡単なメモを作って話を整理してから相談するようにしましょう。メモは、いわゆる5W2Hで作成すればいいでしょう。
誰が(who)
不満に思っていることは何か(what)
なぜ怒っているのか(why)
いつからか(when)
どこでか(where)
どのような解決を望んでいるか(how)
どのような初期対応を約束したか(how)
同僚や管理職に相談する際に、このようなフォーマットでメモを作ることができれば、聞く方も理解しやすくなります。
「(who) Aさんのお父さんが、(what) 英語の授業内容について不満を持っているという連絡がありました。進度が遅く、塾の授業が学校の復習で進められるのにうちの生徒だけが予習になってしまう。(when & why) 去年から相談しているが解決されていないとのことでした。(how1) 授業の進度を近隣校と同等になるように教科担任を指導してほしい。」
このように、苦情内容を簡潔かつ的確にまとめることでスムーズな対応が可能となります。しかし、ここまででは不足している情報があります。自分が保護者にどのようなことを約束したのかを忘れずに報告しましょう。
「(how2) Aさんのお父さんには、管理職と相談をしてどのように解決するかをなるべく早くお知らせしますと言って話を終わっています。」
これで管理職は、Aさんの保護者が回答を求めていることが伝わります。苦情の中には、「回答を求めないが状況の改善を持って判断する。」と言われる場合があるからです。
自分が一報を受け、ここまでできれば十分です。ここから先は、チームワークで課題解決に取り組むことができます。自分一人で抱え込まないようにしましょう。
対応策を考える
基本的に対応策はベテランの力を借りながら考え、実行していくものなので経験が少なくて困ることはそう多くないはずです。しかし、小規模校で職員全体の年齢が若い、または経験年数が浅い場合もあります。また、管理職がこういった対応を得意としていない場合もあり得ます。対応については、チームで取り組むのでベテランや管理職が打ち出す方策をひとつずつ自分の経験として取り入れていってください。ここでは、基本的な対応策の立て方を紹介します。
コツ4.学校の落ち度があるのか、ないのかを見極める
まず学校に落ち度がないケースについて考えてみましょう。例えば、校外で何らかのトラブルが発生したときです。道路で歩き方のマナーが悪いとか大声で話しているとか。あるいは、万引きをしたとか、他校生とトラブルを起こした場合など、これらは学校の落ち度なのでしょうか。苦情の電話には、「おたくの生徒が複数で買い物に来るので、他のお客さんが怖がったり、迷惑を訴えてきて困る。学校でしっかり指導しろ。」といった内容もあります。
確かに、一見、学校での道徳的な指導やマナー指導が行き届いていないようにも聞こえます。しかし、この場合、迷惑をかけている生徒が本当に勤務先の生徒なのかどうかもわかりませんし、どの生徒が迷惑をかけたのか特定することもできないかもしれません。「他のお客さんの迷惑になるので複数で買い物に行くのはやめましょう!」と指導する必要があるでしょうか。ましてや、一度学校を出た生徒の行動まで学校が責任を負うのでは教師は心休まる時間が全くないことになります。お店が迷惑に感じたのなら、当事者として本人たちに声をかけるなり、指導するなりしてもらいたいものです。
コツ5.学校の落ち度でない時は「一般的な指導をいたします」と。
このような苦情を受けた時に、「それは学校の問題ではないでしょう」と対立の構図を持ち込んでも、余計な摩擦で自分がすり減る結果になる恐れがあります。また、生徒の校外での様子がわかるとのは無駄なことではないので、「情報をありがとうございます。生徒が特定されませんので一般的な指導を明日、改めて全体に行います。」と相手の側に立った対応を心がけましょう。
時には名前を名乗らずいきなり苦情だけを捲し立ててくる場合もあります。学校の落ち度ではないと判断できる時には、同様に「貴重なご意見をいただきありがとうございます。情報に基づいて指導し、結果をお知らせしますのでお名前と連絡先を教えていただけますか。」とまとめてみましょう。大抵の場合、「わかればいい!」と言ってそのまま切られてしまいます。
このようなケースでも、学校に落ち度はなくても無関係ではないので生徒の指導に役立てる方法はないかを考える必要があります。
コツ6.学校に落ち度がありそうな時は確実に報連相
学校に落ち度がありそうな時とは、設備や備品などの破損が原因で生徒が怪我をした場合や、教師の体罰や暴言が原因のトラブル、成績処理のミスによる苦情などが考えられます。しかし、トラブルの詳細がわかるまでは本当に学校の落ち度なのかわかりませんので、自分ひとりで判断しないほうがいいです。
例えば、最近では自動引き落としがほとんどになっていますが、何らかの金銭を学校が徴収することがあります。保護者は子どもにお金を持たせ支払ったと認識しているのに、実際は払われていない場合があったとします。
「○○のお金を子どもは期日までに払ったと言いているのに、今日担任から催促されました。どうなっているんですか?」という問い合わせについてどのように対応したらいいでしょう。
この場合、原因は3つ考えられます。まず、お金を受け取った担任が紛失してしまった。次に、子どもがカバンのなかに入れで忘れている。または、子どもが紛失してしまった。最後に、親が実は渡していないケース。
実際に、担任が紛失してしまった場合は、学校に落ち度があると言わざるを得ないと思います。日々、忙しくしていると机の上が散らかっていたり、職員室に戻る途中に生徒の相談を親身に対応していると、普段は物を置かない場所に置いてしまい失念してしまうことも考えられます。
金額が小さければ、自分のポケットから補って…と考えてしまいそうですが、それは正しい判断ではありません。しっかり管理職に相談し然るべき対応を考えてもらいましょう。人は誰でもミスをします。ミスによって責任を問われることもあります。そんな場合でも、誠心誠意対応すれば道は開けてくるものです。
相談をすることで、ベテランの経験からくる対応力を借りることができます。また、複雑なケースで学校だけでは解決の方策が見出せない時でも、管理職は教育委員会に相談することができます。教育委員会には、学校現場で働いたことがある指導主事という立場の職員がいます。学校が初めて経験するような事態でも、過去に発生した類似の事例をもとに解決までの道筋を提示してくれます。苦情の一報を受け、対応に困ったらまずは同僚や管理職に報告し、一人で抱え込まないようにしましょう。
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