シモキタ、エレカシ(後編)
宮本浩次はギターの石君に向かって、実に冷たく、
「じゃ、ファイティングマン」
と言い放った。
石君がガニ股で、ギターをかき鳴らす。
ディストーションの効いた、乾いた音。
あまりエレカシに明るくない僕でも知っている、例のリフだ。
宮本は目ん玉ひん剥いて、拳をブンブン振りながら叫んだ。
「ぶぇいびぃ!ふぁいてぃんぐメぇァァァン!」
ライブは見慣れているであろう、下北の若者たちが固唾を飲んで、一点を見つめている。
宮本の眼差しは僕らの中に流れ込む。
これがエレファントカシマシか!
案外、全体的に音は大きくない。
勝手に、爆音で演奏するもんだと思い込んでいたが、とても繊細で生々しいサウンドのバンドなんだと初めて知った。
ボーカルの歌を最大限に生かす音響をチーム全体で考えているのかな。。。?
そんな事をぼんやりと考えていると
突然、石君に宮本の閃光の様なキックが炸裂!
聴いた事の無い、「パイーン!」という不思議な音がアンプから漏れる。
ギターを蹴るとこういう音がするのか。
特に目立つミスをした様には見えなかったけど、、ギター越しに蹴りつけられた石君は、グラッ、とのけ反って、
アッ、倒れる、、、
いや、、、石君、グッと踏ん張り、構わず弾き続ける。ナイスガッツ!
ライブ中メンバーを殴ったり、マイクを投げつけたりすると聞いてはいたが、ギターごと蹴っちゃうのか、、、噂以上だ。
僕はバイオレンスなステージは好きじゃないんだけど、(というか暴力がカッコいい!と勘違いするのがダメ。)これがエレカシの偽らざる姿なんだろう。
その後もMCは一切無し。
一曲終わるごとに、例の感嘆、
「おーーーーーっ」
が遠慮がちな拍手と共に客席に響き渡り
宮本はとてもちっちゃな、かすれ声で、
「、、、ありがとう」
と答える。そして、また次の曲。
予習も何もして行かなかったのが、悔やまれるけど、『悲しみの果てに』や『今宵の月のように』などのヒット曲は一切やらなかった。
新しいアルバム中心の選曲だったのだろうか?
ドアーズを彷彿とさせる、メランコリックな雰囲気の曲が多かったような気がする。
そして。ライブハウス全体が、うねる様な宮本ワールドにすっぽり包み込まれた頃、
「あれっ?終わり?」
という声が聞こえてきそうな程、突然ライブは終了した。
出演時間はせいぜい30分位だっただろうか。
今となっては、確かめる余地もないが、僕には途中で打ち切った風に見えた。
宮本はスッとはけてしまい、他のメンバーは、やれやれと言うような顔をして、挨拶もそこそこに、ステージ裏に消えていった。
アンコールは無かった。
僕らはアンコールしなかったんじゃない。
何だか、おっかなくて、していいのか悪いのか、分からなかったのだ。
とは言え!
僕はエキサイティングで、スリル満点のエレカシのステージを観られたのがとても嬉しかった!
ステージに数本用意されていた、宮本ギターは結局ほとんど使われずじまいだったけど、何回ものライブをくぐり抜けた、ボロボロの宮本ギターを見られたのも良かった!
しかし、、、尖っていた!ギラギラしていたなぁ。
エレカシのメンバー、当時四十歳位だろうか。
ライブハウスにいた若いバンドマンより、ずっとずっと、誰よりも尖っていた。
ライブ終了後の帰り道、僕は当時交流の深かった、傘ぶらんくわ、と言うバンドのメンバーと一緒だったのだが、エレカシショックで一同、黙りこくったまま歩いていた。
そんな中ドラムの斎ちゃんが、突然沈黙を破る。
悪ーい顔でニターッと笑い
「ぶっちゃけ、エレカシあんま良くなかったな」
「パイフリとキャプテンストライダムの方が上手くね?」
などと言い出した。
僕と傘ぶらんくわ、ボーカルの哲ちゃんは
「いやいや、エレカシ良かったよ、あの感じが良いんだよ!」
と言ったものの、僕は内心
(うん、斎ちゃんの言っている事、少しは分かる、、、。確かに上手いって感じではないな、初期衝動が褪せないバンドと言えばいいのかな)
と思っていた。
だが、練習嫌いで有名な斎ちゃん、しまいには
「お前が言うな!」
と、みんなにつっこまれていた。
そう。ライブハウスのステージに、プロも、アマチュアも無いのだ。
そしてお客さんも、皆が皆、ただ、上手な演奏を聴きに来ている訳じゃない。
皆、人間の生き様を、魂の燃え上がる瞬間を観に、
ライブハウスに集まってくるのだ。
はい!『シモキタ、エレカシ(後編)』如何でしたか?あれから15年経ちましたが、エレカシの音、宮本さんの声、眼差しは僕の中にずーっと残っています。
エレカシのライブが生きがいだった姉貴と全てのエビバテ様へ。
御拝読、感謝致します。