シモキタ、エレカシ(前編)


2000年代半ば、場所は下北沢CLUB Que。
当時僕らの仲間内でも、特に勢いがあったバンド、パイナップルフリーウェイ、(通称パイフリ)のボーカル、シン君は口元で(シーッ)と人差し指を立てながら、声を潜めて僕らに言った。

「ナイショだけど今日、、、最後にエレカシ出るからね」

うん、、、知ってる。
だって、1週間ほど前、パイフリのギターの田村君から、直接電話があって「ナイショだけどエレカシ出るから来てね」って誘われたんだもん。

今日Queに来ている、メンツもほとんど同様に誘われた、顔見知りのバンドマンかその身内ばかりだ。
そう。みぃーーんな知っているのだ。
もはやシークレットライブでも何でもない。

今夜のイベント、表向きはパイナップルフリーウェイとキャプテンストライダムのツーマンだが、シークレットゲストでトリにあのエレファントカシマシが登場するという。

CLUB Queは、僕らのような駆け出しには敷居の高い下北沢でも人気のハコだが、キャパはせいぜい300人弱。野音や、武道館のライブのチケットが一瞬でソールドするモンスターバンドのエレカシがこの至近距離で床から少しせり上がった位の低いステージで演奏するなんてまだ信じられない。

でも僕らは、正直エレカシが観たいと言うより(観たいけどね!)同世代の仲間のバンドが大物のプロのバンドとどう渡り合うか、この目で見届けたくて、応援したくて来たのだ。
エレカシが出演に至った経緯は知らないが、この時代大物バンドが、新曲発表やツアー前のリハーサルがわりに、小さな街場のライブハウスに出演する事は少なからずあったようだ。

まず1番手、パイナップルフリーウェイ登場。
確かボーカルのシン君は当日、高熱を出してコンディションがかなり悪かったらしいが、まったく感づかせない程、熱い演奏を見せてくれた。日本中ツアーで回っているライブバンドのパイフリの演奏は未だ語り草になっている。

続いて、キャプテンストライダム。
ちょっとあやふやで申し訳ないのだが、メジャー契約直前か、直後か、とにかくキレキレの、圧巻のライブだった。曲も歌もカッコいいし、息もピッタリ。メンバー全員ヴィジュアルが良いので、前列にはファンの女の子達が、かぶりつきで観ている。
少し凹んだところで、、、
いよいよ、エレファントカシマシの出番だ。
ライブハウスにはいつもと違う、変な緊張感が漂っている。

ホントにエレカシ来るの?
今、このライブハウスの楽屋にいるんだよね?
宮本浩次って、噂どうり恐いんかな?
みんながステージをジッと見つめる中、ローディがセッティングを進めていく。
ムッ、確かにあのギター、見たことある!
ンッ?あのパイプ椅子、、、宮本のトレードマークや!
ライブハウスの緊張感がピークに達した頃、宮本以外のメンバーが登場。

みんな顔が恐い。

一言も発しない、ニヤリともしない。
セッティングが完了したら、何となく、インストで演奏を始めた。いきなり始めるもんだから、ライブハウスの人達もなんだか慌てている。
うーん、空気読まない感じが、やっぱ普通のバンドと違うなぁ。
そして、このめちゃくちゃな雰囲気の中、宮本浩次、唐突に登場。
白いシャツ、黒いタイトなデニムにサイドゴアのブーツ。TVで見た事があるのと全く同じ衣装だ。
例の頭を掻きむしる仕草で、マイクスタンドに向かってゆっくり近づく。
客席には低く、うねるような声が

「おーーーーーっ」

と響き渡った。
そう。みんな只々、「本物だ!」
という思いが、何となくひとつの音になり、
「おーーーーーっ」
「ヒュー!」や「イエーイ!」、「みやもとー!」などの声援は一切無い!
だって、ここにエレカシのファンはほとんど居ないのだから。
完全アウェーのエレカシがいよいよ、演奏を始める。
宮本は小さな声でギターの石君に向かって、
「じゃ、ファイティングマン」
と言った。
               〈後編に続く〉


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