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ブルックリン物語 #17 "Agua de Beber" おいしい水

ぴちゃんと生活していると1日の大切さを思い知らされることがある。

8月は彼女の誕生日月で、一緒にアメリカに来てもうすぐ10年目になるわけだから二人とも年をとるわけだ。この年齢になると父としての誕生日ギフトはアニュアルチェック(人間でいえば人間ドックのようなもの)を受けさせるようにしている。ワクチンを打たねばならず、ここ数回これによって顔が倍ぐらい腫れ上がったり、具合が悪くなったり、散々な目にあわせちゃっているので、今年はかかりつけのDr.Danに量を減らしてもらうかワクチンをやめるか相談しようと思っている。

さて。

毎日彼女を見ていると、細かい表情からその日の調子がわかる。昨日は嫌がるぴちゃんをうまくだまくらかして水風呂に入れた。風呂と爪切りと耳掃除が人生で「3大嫌なこと」であるぴちゃんは不服そうだったけれど、水風呂の後はちゃっかりご褒美ももらっているし、ひんやりした肌をブルブルシェイクしてまんざらでもなさそうだった。

今日のダデイは、朝から『Answer July』の日本盤の原稿を仕上げ、noteの「ブルックリン物語」を1本仕上げ、その後リハをやり、カレーを作った。なかなかいろんなことをやった日だったが、ぴちゃんにとっては退屈な日だったろう。時計の針もてっぺんを過ぎた時間に「よし! 散歩に連れてってやろう」と思い半ズボンをはく。このズボンを身につける音で彼女はベッドの下から玄関まで駆けてくる。

—ダディ、散歩だよね。楽しいな。

朝散歩は楽しそうに外には出るが、夏の日差しは分刻みで強くなる。

—ダディ、暑いよ。帰る。抱っこ。

そういう時は頑固ぴちゃんなので、家へ帰ってまったりさせる。デッキの日陰でウロウロしたり扇風機に当たったり水を飲んだり。随時ストーリーを選んで彼女なりに実践している。

夜散歩は違う。気合いの入り方が。玄関を出た途端に、右へ行こうか左へ行こうか真剣に考えている。今夜は左だ。となると、空き地の野良猫やホームレスのネーヒルさん(昼間は昼寝ばかりしているのでダデイが名付けた)たちがいる通りか、ユダヤ人の多く住む地区にある猫屋敷かのどっちかだ。今夜は猫屋敷に決定。信号が変わり近づいてくると速度がいきなり遅くなり、屋敷の前に来るとピタッと止まる。

—猫さんがここにいるよ。いっぱいいるんだよ。ご飯もあるし水もある。外猫さんがいるはずなんだよ。

おそらくもう寝ているか空き地へ帰っているのだろう。餌や水飲み場所だけをじっと見つめるぴちゃん。全く動かない。彼女にしてみれば切実、本気、一応5分ぐらいは諦めるまでそのままにさせる。

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