ブルックリン物語 #38 Lush Life
「Senriさん、プチ断食をしましょう。満月と新月の日に。休肝日にしてお酒もなし、水とコーヒーだけで。ヨーグルトやフルーツはオッケー。気持ちいいですよ」
友人がいきなりこんな話をする。断食など全く想像もつかなかったが、なんだか面白そうと思う自分がいるので、とりあえずのっかってみることにする。そうこうするうちにあっという間に満月の日がやって来た。
「いいですか? 朝起きてから24時間です。前の晩は軽く食べてできればお酒も控えるといいですよ」
なんだか人間ドックの前夜のようだ。緊張して来た。早めに晩御飯を済ませワインも少々。水をゴクゴク飲んで就寝した。
古来から人類は、言われてみれば月に魅せられてきた。不思議な力を秘めた月。大きな海さえも揺り動かす月が、水を多量に含む人の体に及ぼす影響は大きいのかもしれない。
満月の日にカニが大波に乗って脱皮したりウミガメが産卵するなど、影響を受けているのは人間だけではない。
ここ2ヶ月で10キロ減った体重はそれ以降なかなか落ちない。体の免疫力が抵抗して、これ以上はよしたほうがいいと警告しているようにも思える。こういう勘は鋭いので激しい運動をせずに自然体でいようと心がける。歩いて食べて寝てピアノを弾く。1キロ減って1キロ戻る。その繰り返し。体調も悪くない。果たして食いしん坊で呑んべいでその日暮らしのこんな僕が、24時間も断食などできるだろうか? まあいい。考えてもしょうがない。余計なことをせず今夜はとにかく寝よう寝よう。
朝はいつもよりいつもの朝で目がぱちっと開き、なんてことない始まりだった。
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