ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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2018年8月の記事一覧
ブルックリン物語 #54 “The Adventure of Uncle Senri” 千里叔父さんの冒険 (前編)
子供の頃の記憶だ。その楽器の音が近づく時の感覚を僕は今も鮮明に覚えている。もの悲しい旋律で胸の振り子が揺れると涙がこぼれた。今思うとオーボエに似たその音色は木管楽器特有の心に寄り添う類のものだった。チャルメラ。団地住まいの窓のずっと先のその又先の方から近づいて来たあの「旋律」。 近づいてくる台風、妹をねんねこたすき掛けして髪を振り乱し、窓にバッテンの木を補強し回ってた母の必死な後ろ姿。膨らむ風の音。そんな厳戒態勢の中、その音はどこか不思議と素っ頓狂に飄々と近づいてくるのであ
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