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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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2016年4月の記事一覧

ブルックリン物語 #06 ねえおじ様 "Daddy"

ぴは僕のことをじっと見つめているときがある。 僕が床でストレッチをしていたり、テーブルの前に座り朝ごはんの味噌汁をすすっていたり、それはトイレの便座に座っているときもである。 気配もなくさっと現れて「巨人の星」の明子姉さんのようにじっと心配そうに見つめるのである。おそらく、 「ねえ、ダディ。大丈夫?」 と言いたいのだろう。 相当ストレスを抱えていると、自分でも気がつかないうちに、大声でFワードを叫んでいたりすることがある。その自分の声の大きさに驚くほど興奮している。

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ブルックリン物語 #05 聖者の行進 ”When The Saint’s Go Marchin’ In”

メキシコ料理でモレという食べ物がある。 柔らかく煮込んだチキンに、これまた柔らかく煮込んだ豆を両サイドにあしらって、真ん中のライスを絡めて食べるのである。肉をほぐして豆を上に載せてハラペーニョ(青唐辛子)を擦りおろし、ソースをちょっぴり加えるとなんともいえない妙味が口全体に広がる。 僕が住んでいる街にはメキシコ人が多い。スーパーにもメキシコ米やメキシコのお酢、メキシコのメーカーの缶詰などがずらりと並ぶ。 日曜日にはメキシコ人の司祭がいるカトリック教会で盛大なミサが行われ

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ブルックリン物語 #04 欲しいものが手に入ったら、すぐに飽きてしまうあなた "After You Get What You Want, You Don't Want It"

英語でWhimsicalという言葉がある。 辞書によると「気まぐれな」とかいう意味になるらしいのだけれど、実際は違う。 僕の中では、たとえば、ジャムの空き瓶などを再利用してハーブをいっぱい入れ、水やお茶などを注ぎ、スエーデン家具に腰を下ろして足を組み、ゆっくりと頂くようなイメージ。ロハスで古いものを大事にする感覚。 たとえば、マンハッタンではなくてアップステートの別荘で。窓を開けると、雪原にタヌキや鹿が走っていくのが見える。かたわらには暖炉に火が灯る。 壁紙はベトナム

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ブルックリン物語 #03  青い雨 "Blue Rain"

真っ青な空を見ることがある。 日本にいた頃に記憶にない特別な青色がそこにある。 あれは一体なんなのだろう。 NYに昔から住む日本人の友達に聞くと、「そうそう、あの色って紺碧だよね。最近とくに見る……」と口を揃えて言う。おそらく、空気の澄んだ日、雨が降った後に起こる現象だと思うのだが、それがとてつもなく美しい。 自分が生きている間に、そういう珍しい現象や色に出会えるチャンスはいったい何回あるのだろう。 舞台のホリゾントに映し出したような紺碧に近い幻想的な色。あの空の色

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