【ファンタジー小説】幸せのまるたまご ~ライラとジェット~【試し読み】
概要
宿屋の娘、ライラはジェットというお客さんと最近仲良し。 ジェットに喜んでもらいたくて、食べたら幸せになれるという〈まるたまご〉を探すことにしたけれど……? ファンタジーでほのぼの?な、お兄さんと少女の小説です。
オリジナルファンタジー小説 『幸せのまるたまご ~ライラとジェット~』(本編15000字程度)
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本編
「???」
幼い少女ライラは、頭のなかで疑問符がいっぱいになっていた。
というのも、今初めて会ったはずの青年に、長い間じっと見つめられていたからだった。
もしかして前にも会ったことがあるのではと思ったり、何か悪いことでもしたのだろうかと考えたりしたのだが、全く心当たりがない。
ライラは宿屋の娘だ。母親と一緒に受付にいたところに、この青年がやって来たので、挨拶をただしただけのはずなのだが、なぜか彼に食い入るように見られているのが、今の現状だ。しかも何だか無表情で、怖い。
どうしたらいいかと考えていると、そばにいた母親がライラを助けるように、青年に声をかけた。
「宿屋のご利用ですか? 部屋なら空いてますよ」
「……ああ、頼む」
ライラの母親に呼びかけられると、やっと彼は視線を外した。その隙にライラは母親の背中に隠れて、彼がこの場からいなくなるまでをやり過ごした。
「あんた、あの人と何かあったのかい」
青年が消えた後に母親に尋ねられると、ライラは首をかしげる。
「えー? さっき初めて会ったと思うんだけどなあ……」
もう一度考えてみるものの、やはり心当たりはなかった。
その翌日、ライラが宿屋の近くにある池の周りを散歩していると、あの青年の姿が目に入った。
彼は池の前に座って釣りをしていた。川へ釣りに行く人をライラは見たことがあるが、この池で釣りをする人は今まで見たことがない。魚はいるのだろうか、とライラは疑問に思った。
彼はライラに気づくと、再び彼女を見た。ライラも負けてたまるかと、瞳をそらさずに青年をじっと見つめた。
…………。
どちらも目線を外そうとしなかったので、お互いの視線が交わったまま、しばらく無言の時間が続いた。
「何でこっち見るの?」
つっけんどんにライラが尋ねると、青年は思い出したかのように瞬きをぱちりとして、とうとう口を開いた。
「いや、ただ――」
しかしその時、青年の言葉をさえぎるかのように、彼のお腹から大きな音が鳴った。そのあまりに大きくてのんきな音に、ライラは思わず吹き出した。
「あははっ! お腹なった~っ!」
「……」
バツが悪そうに、青年は自分の頬を指でかいた。それを見たライラは、この人こんな顔するんだ、と思った。この間も今日も、ずっと険しい顔のままだったから、意外だったのだ。一気に親しみが湧いてきた。
「お昼食べてないの?」
「忘れてた」
「食べに行かないの?」
「いや……いい」
そう言うと青年は池に浮かぶ浮きへと視線をやった。
「……もしかして、お金ないの?」
「いや、そういうわけじゃ。ただ面倒なだけだ」
しかし、そんな発言に抗議するかのように、もう一度、青年の腹の音が鳴った。
「お腹なってるのに……」
「ほっといてくれ」
その頑なな様子が、ライラには意地を張っているようにも見えた。
ライラはぱっと駆け出して家に帰り、しばらくして再び青年のもとへ来た。
「食べて!」
ライラは青年にパンを押しつけた。
「これ、どうしたんだ」
「お母さんに言ってもらって来たんだ!」
「食事代払ってないぞ」
「大丈夫! タダでいいって!」
「……そうか」
なら遠慮なく、と青年はパンにかじり付いた。彼はすぐにパンを平らげてしまった。
ライラは青年に尋ねた。
「名前は?」
「……ジェット」
「ジェット! 珍しい名前!」
「……お前は何て言うんだ?」
「あのね、ライラだよっ!」
こんな出来事が、ライラとジェットが仲良くなるきっかけとなったのだった。
ジェットは数日宿泊して去っていったが、その後も度々この村にやって来ては、ライラの両親が経営する宿屋に泊まるようになった。
宿に泊まる度に話す機会があり、ライラは少しずつジェットと打ち解けていった。近頃はジェットも、いくらか表情が柔らかくなった。
「ジェットー!」
今日も池の前に座っているジェットの背中を見つけて、ライラはバスケットを持ちながら駆け出した。ジェットは背中を向けたままライラの声に反応して「よう」と挨拶した。
「相変わらず元気だな」
「うん、元気だよっ!」
「そうか……」
やや気だるげな声だが、これが彼のいつもの調子だ。
ライラは池に浮いている浮きを見つめた。
「今日こそ釣れそう?」
「だめだな」
「ふーん?」
視界の中心には、池の水面にある浮きが静かにたたずんでいる。特に魚が釣れるという予兆はない。
ライラはジェットがここで釣りをしている姿をよく目にしているが、一度だって何かが釣れているのを目にしたことはなかった。
「ねえ、ここって魚いるの?」
「どうだろうなあ」
「釣れるかどうかも分からない場所で釣りして楽しいの?」
「別に楽しくはねえけど、暇潰せるし、何かと都合がいいんだよ」
そう言いながら釣り竿を引き上げる。針の先についているはずの餌は消えていた。
……一応池のなかに何かは住んでいるのかもしれない。
ジェットの隣に座っていたライラは、そんなことを思いながら、持ってきていたバスケットを彼に見せるように掲げた。
「お昼、持って来たよっ!」
「おう、ご苦労さん。今日は何だ?」
「ハムとレタスとねー……あっ、あと、たまごもあるよ!」
「おっ、うまそうだな。
……時間もちょうどいいし、そろそろ昼にするか」
そう言うとジェットは釣り竿を置いた。
お腹がすいたジェットにパンを差し入れして以来、ライラはジェットのお昼係になっている。ジェットが滞在中は、時間になると昼食を入れたバスケットを持って彼のもとに向かうのがお決まりだった。
ライラはバスケットを差し出しながらジェットに尋ねる。
「ねえねえ、わたしそんなに似てるの? オリヴィアって子に」
「そうだな。あいつがまた子どもになったみたいだ」
「わたしとオリヴィア、どっちが好き?」
「……」
ライラの質問を無視して、ジェットはバスケットに入っていたたまごのサンドイッチを、まず最初に頬張った。
ジェットによると、ライラは彼の知り合いであるオリヴィアという人にそっくりらしい。初対面の時にジェットが見つめていたのも、ライラがあまりにもその女性に似ていたからだということだった。
「ジェットは何してる人なの? お仕事は?」
「ん? んー……仕事か。用心棒とか、戦いがありゃ、傭兵やったりとか」
「どこに住んでるの?」
「この近くじゃないな。船でこっち来たから」
「船で!? ……ってことは、旅人?」
「ま、そんなところだ」
旅人……。その言葉の響きが、ライラにはとても美しいもののように感じられた。きらきらと目を輝かせて身を乗り出す。
「もしかして、ジェットって勇者の地の人なの?」
その言葉にジェットは何とも言えない顔をしてサンドイッチを飲み込み終えると、池に再び釣り糸を垂らした。
……ライラや村の人々は海を挟んだ大陸のことを「勇者の地」と呼んでいた。その理由は、近年戦争などで滅びかけていたその地で、まさに勇者と呼ばれるほどの人物が突如現れ、目覚ましい活躍をして人々を救った……と言われているからだ。
ライラは勇者にまつわることに関して、興味津々だった。
「ねえねえ、勇者ってほんとにいるの?」
「さあ……」
話を流すジェットを無視して、ライラは口を開く。
「きっと勇者って呼ばれるくらいだから、すっごく強いんだよね!
それから頭も良くて、優しくて、かっこよくて、何でもできるんでしょ!」
「……随分と盛りすぎてないか、そのイメージ」
「でも勇者だよ? 勇者ってすごいんでしょ!
お話のなかの勇者は、みんなそんな感じだもん」
「ん~、物語は物語だからなあ……」
「そんなことないっ!!」
否定的なジェットにライラは抗議し、口を尖らせながら彼の背中をぽかぽか叩く。そんなライラを受け流すように、ジェットは「はいはい」と口を開いた。
「分かったから、ちゃんと大人しく座ってろ。こんなところで騒いで池に落ちたら大変だろ」
「む~!」
不満に思いつつも、ライラは大人しくジェットの隣に座り込んだ。
「……勇者ぁ……」
「まだ言ってる……」
「じゃあ、勇者のことはいいけど……ジェットの故郷ってどんな所? 村に住んでたの? それとも街?」
「どんな所……か。結構この村に雰囲気近いかもなあ。のんびりしてる感じが。
海が近かったから、魚が美味いな」
「海のお魚、食べてみたいな」
「食べたことないのか。……ここから海は、ちょっと遠いしな」
「やっぱり寂しい? 帰りたい?」
「……どうだろうなあ」
「わたしに似てる、オリヴィアってどんな人なの?」
「ん~……」
ジェットは答えをはぐらかした。ジェットは、あまり自分のことを話したがらない。今回もだ。
こういう時に質問攻めにしても答えてはくれないのを、ライラはもう十分に理解していたので、彼女は諦めて池に浮かぶ浮きを見つめ直した。
もっとジェットのことが知りたいのに、ジェットはなかなか話をしてくれないのが、ライラには歯痒かった。
……けれど今日はどういう風の吹き回しだろう、いつもは話してくれないはずなのに、しばらくするとジェットの方から口を開いてくれた。
「オリヴィアは……俺の幼馴染なんだ」
ぽつりぽつりと、ジェットは言葉を紡いでいく。
「向こうにいた時は、よく一緒にいた。子供の時は毎日遊んだし、こうやって俺が釣りをして、あいつが隣で眺めていた時もあったっけ」
ジェットは懐かしむように遠くを見ている。その様子をじっと眺めていると、ふいにジェットはライラに視線を合わせた。その目は、普段のジェットとは違い、驚くほど優しい目をしていた。
「本当に、お前はあいつにそっくりだな」
ジェットは手を伸ばして、ライラの頭をぽんぽんと撫でる。その様子にライラは目をぱちぱちと瞬かせた。
「仲良しだったの?」
「ああ」
「大切な人?」
「そうだ」
「今は、その人はどうしてるの?」
「今は……」
そこまで言いかけると、ジェットは頭を撫でる動きを止めた。
「今は、もう会えない」
「もしかして……死んじゃったの?」
「……」
ジェットは沈黙したが、ライラは理解した。オリヴィアは死んでしまったのだと。
ジェットはようやく口を開く。
「色々あったからな。あちこちでいざこざがあって戦ってたし」
「そっか……ごめんね」
「何で謝るんだよ」
「だってジェット、悲しそうなんだもん」
「……いや、俺の方が悪かった。お前に気を使わせた。
これは、子供に話すようなことじゃない」
そう言うとジェットは水面から釣り竿を引き上げた。
「そろそろ帰るぞ」
「うん……」
「ほれ、おぶってやるから」
さっきのせいで何だかしょげているライラに、ジェットは背中を向ける。どうやら彼なりの気遣いのようだ。ライラはジェットに甘えて背中に背負われた。
「そういえばジェット、明日出発しちゃうの?」
「ああ。仕事でちょっと遠くまで行かなきゃならない」
「また来てくれる?」
「用が済んだらな」
「死なない?」
「死なないさ」
先程の話に不安になって尋ねると、そう答えが返って来た。(続く)
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