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親の看取りで知らずに我慢していたこと

日本は65歳以上の親と同居している割合が50%近くに増えています。
そしてこれから20年間日本は多死社会を迎えるため、病院や施設のベッド数が足りず、自宅での看取りが増えていくだろうと思われます。


1.その時は突然来ることがある

今はまだ元気だけどいずれは…と考える人が増えているのではないでしょうか。訪問介護、訪問医療、訪問看護を利用するのだろうということは想像つくと思いますが、経験してみないとわからないことばかりです。

今はほとんどの人が仕事を持っているため、つい時間に追われてしまい、その時になったら考えよう…、になってしまっているかもしれません。
ですがその日は突然やってくることが少なくありません。

よく問題になっているのは、様子が悪くなって入院して、入院中に認知症を発症したり、筋力低下のために歩けない状態になって、そのまま退院になった…という状況です。介護の手続きは時間がかかるため、当然ながらすぐに介護の準備が整うはずなく、家計を担っている娘や息子が看ることになります。

「病院で入院してリハビリしてほしい」「元通り歩けるようになってから退院にしてほしい」と言いたくなります。ですがほとんどの病院は、積極的な治療を行う必要がなければ退院になります。治る見込みが少ない場合も退院になることがあります。また、一定の入院期間が過ぎれば診療報酬の金額が下がるため退院させざるを得ないという、経営上の理由もあります。

需要と供給の観点でみれば、需要の方が絶対的に多くなっています。その状況は医療が招いた結果とも言えますが、現時点では病気も介護も増える一方で、かといって何か有効な手立てがあるわけではありません。よってしわ寄せを受けるのは、必然的に家族になっていきます。

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2.頑張る介護はひと月で限界がくる

今回のお話は、ビジネスコーチングを受けてくださっていたクライアントさんから、母親の介護で相談をいただいた内容です。相談者さんの許可をいただいてシェアします。

ご自身でマッサージサロンを経営されている40代の女性から、ときどきビジネスの相談を受けてコーチングしておりました。ある日、その女性からお母様の介護のことで相談がありました。

母親が急に歩けなくなり入院して検査をした結果、小脳に異常があることがわかり、寝たきりの状態で退院となりました。意識はしっかりされているため、思うように動けないストレスも強く、相談者さんとお兄さんに全身の痛みを訴えていました。

兄妹で交代で介護をしているけれど、お兄さんは自分の事業の経営があり、相談者さんはご自身でマッサージサロンを経営していることから、2人で交代で介護をするというのはとても厳しい状況でした。お母様はとくに下肢の痛みが強く、介護しているお二人は夜間も頻繁に呼ばれるため、ほとんど眠れない状態で仕事に行かねばなりませんでした。

ご相談があったのは介護が始まってひと月ほど経った頃。お兄さんはお母様の介護にとても献身的で、当たることもなく、自分たちが母親を看るんだと心に決めているようでした。ですが相談者さん自身は、仕事が終わって母の介護のために実家に行き、ほとんど眠れないまま翌日マッサージの仕事を続けることがもう限界です、どうしたらいいの?と、涙ぐんでいらっしゃいました。

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3.我慢していた、そうするものだと思っていた家族

葛藤しますね。母を放っておけない、だけど自分の人生もある。
私は夜間の様子を伺いました。
相談者さんはマッサージのお仕事をされているので、仕事が終わって実家に行ってからも、お母様のマッサージを2時間ほどなさっていました。ですがそれだけでは痛みは治まらず、時に言い争いになってしまうことがあると…。

たとえば、足の痛みに対し足枕を使っていますが、その足枕の置き場所がとても難しいそうです。夜中に何度も呼ばれ、足枕の位置を微細に調整します。ですが時に、なかなか良い位置が見つからず「ここ?これでいい?」「そこじゃない、もうちょっとこっち!」というやり取りが2時間ほど続くことがあり、優しい相談者さんですがさすがに疲弊していきます。

どうしても口調が強くなってしまうこともあり、言い合いになってしまうことも・・・。そうしてまた翌日仕事に行ってマッサージをするのは本当に辛い状況です。それでも兄妹のお二人はグッと我慢をして、毎夜交代で介護を続けていました。これが介護なんだ、こんなに辛いとは思ってもなかった…と仰っておられました。



私はその話を聞いて「訪問医療に言ってますか?」と尋ねました。「先生が来たときには一応言ってるんですけど…。」というお返事でした。耳に届いているはずなのに、これといって何もしてくれていない。でも家族は何故かあまり強く言えない…。これは本当に今の医療の問題なのですが、ドクターより患者さんやご家族の立場の方が弱い関係性が、いつの間にか出来てしまっているんですね。本当におかしな状況です。

おそらく未だに医療信仰があるのだろうと思います。医療は専門的であるがゆえ一般的には理解しがたいことで、医師に任せておけば大丈夫、必ず良いようにしてくれるというような誤った価値観があるのだと思います。いや、ドクターも一人の人間であり、経験や予想で判断しているので神様ではありません。

そうした誤解から、先生の治療に文句を言うのはご法度…?!のような風潮があり、ご家族は自分たちが何とかしなきゃと思っていたようです。私は驚いて「訪問医療にもっと言ってください!」と告げました。

問題の本質は「ご家族は訴えるべきことと、そうでないことの判断がつかない」というところにあります。だから我慢しなくていいことも我慢する。その結果、患者さんもずっと同じ苦痛に耐えねばならない状況になって、それが当たり前だという悪循環が発生します。ですがドクターも看護師もそんなことは露知らず…といった状況が少なくないのではと思います。



私は相談者さんに、伝え方を伝えました。「クリニックに直接電話して話してください。師長や主任、責任者の看護師に代わってもらって、どんなに大変な状況かありのままを話してください。」と伝えました。また、「もし電話で伝えにくかったら、管理者に家まで来てもらって話をしてください。」とお願いしました。

痛みのコントロールは工夫で軽減できるものと、出来ないものがあります。脳から来る痛みは薬以外でどうにもならないことが多いです。そのことを伝えた上で「あなたがたお二人が我慢してしまうと、お母様も我慢することになるから、ここは勇気を出して。」と背中を押すような、祈るような気持ちで伝えました。

ひと月ほど経った頃に様子を聞いてみると、電話をして痛みのコントロールが出来ていないことを管理職の看護師に話されたようでした。そして「話してからだいぶかかったんですが、お薬を変えてもらって今はそれが効いて来て。ようやく夜眠ってくれるようになりました。私たちもちょっと気持ちがラクになりました。」と仰っていました。

退院直後から痛がって眠れなかったということは、おそらく痛みのコントロールが十分に出来ていないまま退院になってしまった可能性があります。なぜこういう事態になってしまうのでしょう?患者さんの安楽をいちばんに考えているはずなのに。

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4.立場の違いがある

これは看護師の私が経験的に感じていたことで、根拠があるわけでもなく、証明できるものではありません。その点ご了承ください。

本当はあってはいけないことなのですが、頻繁に痛みの訴えをされる患者さんには医療者が慣れてしまうことがあります。私たち医療者は多くの患者さんを看て来て、病気の具合と薬の効果から、どうしても自分たちの経験で判断してしまいやすい傾向があります。

本来『痛みの度合い』というのはご本人にしかわからないものなので、決して医療者の経験で判断してはならないものです。ご本人が痛いと仰っているならば何らかの手段を取るべきなのですが、医療者自身もあまり薬を使わない方がいい、できれば強い薬は使わない方がいい、鎮痛剤を使い続けるのは良くない…、という考えが根っこにあります。

もちろんそれも患者さんのことを思ってのこと。そのため、どうにかやり過ごしてしまうことがあります。体勢を工夫したり、足の位置を変えたり、温めたり、話し相手になって気を紛らわしたり…。患者さんによっては、昼間に寝ているから夜眠れず、痛みに過敏になっていることもあります。そういうときは鎮痛剤よりも眠剤の方が効果があり、痛みは環境因子によっても変動しやすいので判断が難しいのです。

そうして看護師は8時間か10時間経って勤務が終われば、他のスタッフに引き継ぐことができます。そして次の看護師は前の看護師に習って…



ところが、家族はそういうわけにいきません。24時間看なければならないので他の人に引き継ぐこともできず、痛く苦しい夜が終わって朝が来たとしても仕事や家事・育児があって眠れるわけではありません。だから痛みのある患者さんを退院させるときは十分にコントロールをしなければならないのですが、現場はどうしても、それをわかりつつ忙しさに追われてしまうことがあります。

忙しさのせいにしてはいけないことは重々承知ですが、物理的に足りないものはどうすることもできない医療の現実があります。もっと時間の余裕があれば患者さんや家族にとって最善の方法を考えたり、ミーティングなどできますが、時間とともに流れていってしまうことがあることを否めません。

ご自宅でお看取りをする場合は、そういった医療の不十分な面を知りつつ「言ってみる」ということを心づもりしてくださるのを願います。

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5.意見交換の場があれば

今までは病院で最期を迎えることが普通でした。最近は施設でお看取りをすることが多くなって来ましたが、徐々に自宅で人生の最期を過ごす人が増えてくると思います。ですがそこにるのは専門職でない一般の人です。ならばその時が来る前に、意見交換できる場所があったらいいのになぁと思い始めました。

「親の看取りってどうしたらいいの?」「最期はどうなるの?」「どんな準備と心構えがいるの?」「他の人はどうしてるのだろう?」そんな情報交換が必要なときかもしれません。さらに看護師の知識や経験、医療の至らない部分も含めて、ご家族に知ってもらえたらいいなぁと思います。

Nurse Summit 2021 オンライン (2)


看護師3名で「親の看取り意見交換会」をZOOMで行なうことになりました。必要な方に届きますように。


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