生活空間の思創(7)「椅子歴で生活工学」
前回は、花瓶だったりコーヒーカップといった「物質」でありながらも、そこに意識が強く入り込んでいると、生活で語れることも結構あるんだな、そんなお話でした。
生活思創のラボって、「そこには何もないでしょうと決めつけている場所にこそ、多くの思念が浮遊しているはず」という探求の試掘活動みたいなものなのだ。なんか、心霊現象の研究家っぽいすけどw
◼️まずは、背景から
今回は前回に引き続き、こだわってきたモノから、気が付かなかったコトを浮かばせて、モノゴトにして生活に見通しの良さを足す試みを行います。
第7回は椅子がテーマです。
娘「ウチって椅子がたくさんあると思うけど、トーチャンは椅子好きだよね」
父「ええ、そうです。あなたは、いつも床に座ってローテーブルで勉強やら読書やらしてますよね。あまり、椅子は好みでないみたい」
娘「なんかね。せっかくもらった学習のための机と椅子も返上させてもらったし。絨毯の上にベタで座ってPC打つか、ソファで横になって読書するのがいいね」
父「確かに、机に向かって椅子で本を読むって、読書好きには不向きやもしれんな」
娘「机と椅子のセットはね、読書向きではなく、教科書向きなんですよ」
なぜに椅子? やや長い前段になるのだが、椅子についての2つのエピソードがあります。
・エピソード1:腰痛
ヤスハラはフリーランスをして23年ほどです。開業当時、他の先輩コンサルタントや、活躍中のフリーランスの方々からいろいろアドバイスをもらいました。その中で、最もインパクトのあったものが「腰痛だけは気をつけろ!」でした。なんか、もっと仕事のコツっぽいアドバイスの方がふむふむ感があるはずじゃないですか。なのに、「え?、腰ですか?」そんなリアクションになりますよね。しかし、確かにそうなのです。フリーランスの心得が10個あったら確実に入ります。
で、腰痛に気をつけてる生活を心がけることの一環としてこだわることになったのが椅子なわけです。しかし、腰に良い椅子っていうのはなくて、ともかく同じ部分に負荷をかけないようにすることが肝要なわけですな。そこで、腰の位置が変わるようにデスクワークをするには、多くの種類の椅子で負荷を分散するのが要諦だ!っていう結論になり、今に至っております。
腰痛を患ったことのある方ならお分かりのように、腰痛やっちゃうと試合放棄になって、仕事のみならず生活自体が出場禁止状態になるんですよ。(こんなに警戒していたのに過去、2回ぐらいやってます)
・エピソード2:スカンジナビアン・デザイン
椅子に固執し続けたシリアスな話が腰痛だとすると、もう一つは椅子にまつわるオシャレな話です。個人事務所って自宅とオフィスが兼用ってことです。時間効率もいいし、コスト効率も良いのは一人親方の最大の魅力ではないでしょうか? まあ、自宅がオフィスっていうのはいい面もあるけど、もちろん、生活と仕事がゴッチャになってメリハリがないとも言えるので、好みは分かれますね。
小生は、この自宅兼事務所の家具を引越しをするたびに入れ替えてきました。独立して最初の引っ越しでは、オフィスらしさを追求して、大きなデスク、それに合わせて多機能なアーム付きチェア、一人用のオットマン付きのリクライニングなどを揃えてみました。カラーリングは渋めで、ダークブラウン、マットな黒、金属のシルバが中心でした。一言で言うと「いよっ、社長!」っぽい感じ。 しかし、生活としての遊びがないので、次の引越しには、家具の総入れ替えをしたのでした。この時のテーマがスカンジナビアン・デザインです。インテリア・コーディネーターにお願いして、北欧風のカラーリング、フォルムで椅子・机・本棚・カーテンなどなどでまとめあげたのでした。白、青、オレンジ、黄色などで全体は超明るめで、オシャレさを追求したものです。正直、一度、プロのインテリア・コーディネーターを雇う体験がしたかったのですな。かなり散財しちゃったけど、仕事の肥やしにもなると自分に言い聞かせて。
◼️椅子履歴を俯瞰してみよう
さて、この2つの原体験を通じて、結構、いろんな種類の椅子を実生活で使ってきました。これを椅子歴として、過去の椅子購入と利用の履歴から、生活空間について新たな視点がないか探求します。
できればチャート化したいので、その素材となりそうな概念を生成AIに出してもらいます。イメージが湧くように典型例となるようなブランド名も添付してもらいます。
5つの価値視点がでてきました。一番目の人間工学(エルゴノミクス)は広く解釈すれば5つとも入ってきちゃうので、もう少し、絞り込まないと扱えなさそう。ということで、人間工学は総合的な視点として上位概念。一回の時間と利用の頻度という軸と、座ること自体が目的なものと別の目的を達成するためのものとに区分けして二軸マップにしました。
仕事専用(青)、家庭一般(赤)、リラックス専用(黄)、特別な利用(緑)の4区分に納めてみました。自分の椅子履歴をプロットしていくと、代表的なものたちがそれなりに整理できたから、見通しは良さそう。つまり、生活思創的な試考に近い。また、下部の概念として機能性中心のものとデザイン性中心のもにの別れると、4区分共通の細分化ができて落ち着きます。
まあ、腰痛対策から始まっている機能性重視と、スカンジナビアン・デザインへの憧憬を反映しているデザイン重視が両立したまま図になった感はありますね。
ついでながら、言葉だけではイメージがわかないと思うので、類似した商品の写真を参照資料として作ってみたよ。うーん、かなり椅子には投資したな・・・。肥やしが果実になっていると信じよう、自分。
◼️椅子履歴に見る人間工学の実態
さて、人間工学的な視点は上位概念と書きました。これはどういう形で椅子歴に反映されてくるかというと、時間経過とともに利用の偏りで表せそうです。つまり、人間工学的かどうかを理詰めではなく、「なんかいっつもこれに座っちゃうわ、私」的な体感の累積で十分見えてくるんです。生活の中では大掃除の時にバレちゃうのだ。重用される椅子は残る、そうでないものは撤去、それが家族全員の合意基準っていうわけです。
きっとそうなるはずだったのだが、機能性重視の椅子は残り、デザイン性重視の椅子は去っていきました。ただし、デザイン性重視の椅子の中には捨て難いもの(価格が高い、入手が困難とか)たちがあり、それらは倉庫行きです。
◼️椅子動線という視点
やっと、話の準備が整いました。ここからが本題です。
この人間工学的なスクリーニングを経た椅子には小生(今回の対象者)の利用の偏りが反映されているはずなので、それを同じマップで可視化します。
椅子動線という考え方を入れてみたよ。椅子A→椅子Bに移動するパターンでは、「→」の数が多そうな部分がどこかを体感ベースで入れてみたものです。実はこれは生活工学です。人間工学が椅子単体で眺めたものなら、生活工学は生活の中での椅子の組み合わせですから、視点がやや広めですよね。
小生の生活での椅子動線は、大きく4つあります
①疲労対策動線:仕事に集中するけど、疲れたら休む、そして、また仕事に戻るパターン。仕事の椅子からリクライニング・ソファへの動線です。
椅子利用全体時間の40%
②食生活動線:食事は生活用のテーブルでとるけど、食休みはリクライニング・ソファでくつろぐ。そして、お茶を入れたらテーブルチェアに戻るとか
椅子利用全体時間の30%
③腰痛対策動線:メインの仕事の椅子を、途中で入れ替える動きです。書斎には2つの椅子があり、仕事用メッシュ製チェアと仕事用のバランス・チェアーです。これは完全に座り方が変わるので、腰への負担が分散されます。
椅子利用全体時間の25%
④体生活動線:これは最も出現頻度が低いけど、ベランダや庭でくつろぐ時に持ち出すポータブルな椅子の利用とかです。湯上がりとか、夏の寝る前に月見したりとかです。体で外の空気に触れる場面を求めているパターンですかね。
椅子利用全体時間の5%
この椅子動線に代表される生活環境の様子を今度はもう一度、人間という身体にプロットしなおしてみたものが図表278です。
①疲労対策動線は頭部中心、②食生活動線は上半身中心、③腰痛対策動線は下半身中心となります。最も特殊な④体生活動線も皮膚感覚なので体全体と言えそうです。
つまり、生活工学的には、無意識のうちに身体の全ての部位寄りに椅子の意味を嗅ぎ分けて使っているってことだ。体は賢いのだ。
こんなねちっこい試考に何か意味があるのだろうか? って思いあぐねちゃうわけだが、「こういったものはあまり使わないな(デザインに惹かれすぎへの警鐘)」とか、「こういったパターンが結構大切なので、みんな理解してね(変な形の椅子でもセットで使うと役に立つ)」とか周囲と共有できるなら意味があります。つまり、椅子リテラシーが高くなります。
※椅子リテラシーの方法論は他にも応用できるよ。小生はTシャツでも同様な視点でやってみたら、Tシャツ購入に関するリテラシーが高まったよ。狭w。
もし、クローゼットを眺めて、同じようなTシャツばかり買ってるな~ってプチ反省してばかりいる方なら、Tシャツの生活利用のローテーション履歴を可視化してみるといいよ。
父「トーチャンが椅子に拘っている理由が分かりましたか?」
娘「腰痛かー、なったことないからなー」
父「足組んで座るとか、クセになるからやめてほしい。年取ってから、腰痛になりやすい体だと、マジで後悔することになるから」
娘「私はいつも、床にあぐらで座ってるから大丈夫だよ」
父「うーん、娘の父親としては言いたいこともあるけど、まあ、腰痛に関しては万全そうだな」
椅子履歴は人生の縮図です。うむ、やや言い過ぎ。人生の断面図ぐらいか。だとしても座るっていう行為は人間らしい身体姿勢ですから、座り方の違いは人としての生き方の違いを幾ばくかは反映しているであろう。
バランス・チェアに座りながら
Go with the flow.