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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

16 四季折々、悪く言うとガス・ヴァン・サント依存症・秋。

ガス・ヴァン・サント作品、秋の情景。
いつからだろうか。気づいていたのに知らないふりをしていた。日本は夏よりも冬のほうが長いってことに。この国の四季は、暑い日よりも寒い日々がふんだんにある。だからだろうか。6月の梅雨前線接近中なのに、アブラゼミなんかよりフライング気味にざわざわと浮き足立つ人が多いし、キンモクセイがかすかに香る頃になると、スズムシ以上に寂しげなため息をつく人を見かけたりする。夏と秋の境界線で右往左往する。もがいてしまう。憂いてしまう。そうなってしまうのは、夏よりも冬の方が長いからだ。しかし、嘆いてばかりはいられない。少しでも秋と冬を好きになるための感性のスイッチを探してみる。そういう準備をしておかないと、長過ぎる梅雨と大量の雨、そして一向につかめない新型コロナウイルスなどによって、短い夏がさらに削りとられてしまった2020年サマータイムの虚無感に苛まれてしまうだろう。

自分史でG.O.A.T.なムービー、小説家を見つけたら。
 頭でひねり出すことをあきらめて、リズムを大切にしてタイプしていく。それがワンセンテンスになり、1ページになり、チャプターになる。リライトは最後にまとめてやればいいから、とにかくリズムをキープするーーー。そんなことを頭の中で反芻しながら、何度もトライしたけれど1度もできたことはない。そうして20年近く経っている。もはや絶望的だ。あきらめたほうがいいかもしれない。一昨年の秋からは、いよいよ書こうとすることをやめて、読む専門な生活を送ってみることにした。気がつけば、今度やってくる秋で丸2年になる。秋から再び秋へ。読書がこんなにも楽しくて、毎夜、ベッドに入るのが楽しみで、毎朝起きるのが楽しみになるものだとは、知らなかった。眠る前に少し、起きてからまた少し。ページをめくることがどんどん増えていった。

小説家フォレスターと宮沢賢治。
リズムを大切にしてタイプしていくーーー。これは、ガス・ヴァン・サント監督の『小説家を見つけたら』の中で、小説家フォレスターが少年ジャマールにささやいた言葉。初めてこの映画を見たときから、彼のその言葉が、物語を書く極意だと思っている。そのようにして、ノンストップで長編は描き上がるのだと思っていた。当時、このシーンを見たとき、もっと前から知っているような気がしたものだった。「それ、俺もそう思ってたよ」と。でも、実はそうではなかった。彼の映画を見ながら、敬愛してやまない宮沢賢治さんの詩集『春と修羅 告別』と同じものを感じていたのだった。ゾクゾクした。静かに、だけどたしかに血の中で燃え上がるものを感じた。この映画に出会えたのは秋だった。しかも、とても寒い日だった。

もの思いに耽る秋のガス・ヴァン・サント作品。
いつの時代でも紡がれるべき本当のリレーションシップ。それを強く感じさせてくれた名作『小説家を見つけたら』。それまでも、(この映画、好きだなあ)と思って、見終わってから改めてクレジットを確認する。そうすると監督は、ガス・ヴァン・サントだった。そんなことが度々あるということは、彼が描く作品や世界にかなり共鳴していて、好きなんだと思う。ニューヨークのスケーターをドキュメントタッチで描いた、ラリー・クラークの初監督作品『KIDS』。これも好きな映画のひとつだが、「ふむふむ、これはラリー・クラークとハーモニー・コリンの監督と脚本によるものだな」と思っていると、ガス・ヴァン・サントが製作を担当していたりする。ということで、なんとはなしに見た、『小説家を見つけたら』もそうだった。

小説家を見つけたい。
物語を構成するのは、秋深まっていくニューヨークのダウンタウンとスクールデイズ。ジャマールという才能あるアフリカ系アメリカ人の少年。新しい才能を妬む権威主義の教師クロフォード。そして、処女作でピュリツアー賞を受賞しながら表舞台から消えていった老作家のフォレスター。見ているこちらは黒人ではないし、ニューヨークのダウンタウン育ちでもない。まだベストセラーどころか小説を1冊も上梓していないが、代わりに枯れゆく老人でもない。だけども、バスケットをプレイしノートに文章を綴り、タブロイド紙を読み比べ、真っ当そうなことをしたり顔で話す人たちを斜めに眺めたりしている。気づくと、この映画から人生のヒントを見出して、監督が描く物語にオーバーラップしていた。この映画以前以後では、自分の中にある生きていくための勇気の色がぐっと濃くなっていた、と言っていい。好きな映画以上に人生の映画と呼べるものが、多くはないけれど、いくつかある。そのどれかについて、ずっと話ができるような人と友だちになれたとしたら、とても素晴らしい。『小説家を見つけたら』は、そういう映画のひとつ。そしてガス・ヴァン・サント監督作品は、かなりのパーセンテージでそれを占めている。16
(写真は小説家を見つけたらに通じるようなイーハトーブなティータイム/2018年)

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