2022|作文|365日のバガテル
書こうと思ってて書いてなかったこと。
サーフィン。
ハロー少年。君のお父さんと初めて会ったのは今から10数年前。とある取材がきっかけだった。たいがい取材される側は、する側の名刺や見た目などで値踏みを無意識にしてしまうものだが、そして、そういうカテゴライズにもっとも弱い部類の俺なのだけども、君のお父さんであるこの人は、そんな目をしてなかったよ。これまで、俺より背が高い被写体はあまりいなかったけど、見上げる被写体は久々だった。当時はサーフボードをつくっていて、シェイパーだった。世田谷のど真ん中、ザ・世田谷にある自室のシェイプルームは、サーフマガジンでよく見た、ジェリーロペスの部屋のようなブルーだった。最初の最初から良い人で、無理にマウントを取ろうとすることもなく、大袈裟なリアクションをすることもなく、淡々と、だけど、目はそらさないまま落ち着いて丁寧な話し方が印象的だった。そして、俗に言うイケメンだった。語弊を恐れずに言うと、雑誌業界とか、裏方なんだけど実は不遜な人たちが多い業界は、ぶっさいくが多い。そのルックス的コンプレックスをインテリジェンスや学歴や雰囲気や名刺でおしくらまんじゅうしている気がする。だから、相当なパワープレイですいすいしなやかにそいつらを蹴散らせることができるイケメン以外は、俗に言うイケメンたちは、ひそかな嫉みとか足かせを喰らうことになる。そのコンプレックス産業において(と、語弊を覚悟で書いてしまうが)、だから、良い人でイイ男なのは、裏方では得をすることは少ない、と思う。
モーターサイクル。
たまたまだろうけど、シェイプルームや業界の裏方でモノを生み出しながら、冬は極上のパウダーの上をゴーグルやビーニーでイケ顔を覆いターンをし、街では、ヘルメットとサングラスでイケ顔にフタをしてバイクを駆る。ビーチでは強い日差しのキアロスクーロでイケ顔に影をつくり、またとない波をグライドする。もったいない。もったいない。イケメンが隠れてばかり。でも、この人のように、ルックス的コンプレックスと無縁だった人は、そういうことをまったく気にかけない。それだから、より良い人になる。人間が内包するもので、最も醜いものは、妬みや嫉みだと、俺は思ってる。美人は性格が悪いだなんて、誰が言い出したんだろう?といつも思ってきた。どちらかと言うと逆なことが多かったから……。君のお父さんは、その後、いつ会っても、いつも良い人だったし、いつも波乗りやバイクなどの体感するスピードについて話を聞かせてもらった。良い人で、良い顔で、背が高くて、ザ・世田谷の人。こんなに良い条件が揃ってていいのだろうか。俺はいいと思う。この人のような人物ばかりではないだろうけど、この人は裏の裏までイヤミや嫉みが一切ないと思った。誰か他の世田谷の人と比較して物事に優劣をつけるような人じゃないと思った。もし、この人に電話を出るのをためらわせたら、いよいよマズいと思わないといけない。と思う。そして、そういう電話をするような生き方を自分もしないようにがんばり続けたいと思った。
スノーボード。
そして。君のお父さんは、良い人すぎるくらい良い人だけど、ちゃんと自分の美学があってそれを実証する声と意志とスタイルがある。優しいと強いが、かぎりなくイコールなのを教えてくれる。そりゃわからんよ。ひとつ屋根の下にいたら、俺の知らないサムシングもあるかもしれない。俺だって、息子と一緒に暮らしてたら、"なんだよ、屁ばっかりこいてるじゃねえかよ"って息子につっこまれちゃうだろう。ただ、俺はずっと写真を見てきたし、いろいろな人の時には挑戦状のような写真を見て、自分全部でそれを選んだり、選ばなかったりして、それをさらにページに作り上げて生きてきたから、写真見ただけで伝わるものがある。それを知ってる。というか、君も、君のお父さんにいろいろな本や気色や場面を体験させてもらうだろうから、きっとわかるときが来るだろうけど、写真こそが文字なんかより伝わる真のものがある。普段、どんなにこちらに良いこと言ってくれたって、インスタのポストひとつでわかっちゃうんだよ。写真を見つ続けてそれで活きる人にとっては。インスタにポストする写真、ポストしない写真、それだけで、ほんとのその人からの自分の距離がわかったりする。それはまるで、仲良しのはずの人の家にお邪魔したらやたらとその人の愛犬に吠えられたり、その人の娘さんにやたらと嫌がられたりするようなものでね。ほんとの距離がわかる。
ラフでラギドでウィンディ。
それは、どちらが正しいとかのことじゃなく、ましては俺の嫌いな嫉みや妬みとも違うんだ。"あ、そうなんだ、ほんとは"ってわかっちゃうだけ。オヤジになればそんなことで傷つくこともなくなるから、君たちキッズも、変に冷めてしまわないでいい。なにより、君のお父さんがそれを教えてくれるだろう。君のお父さんはね、本当に好きなものやことを、誰の目も気にせず、誰の評価も気にせず、ばちこんと伝え、オピニオンし、実証できる数少ない人。それが世の中のためになるとか、ガクトなみの宣伝募金をするとか、そういうのとどっちが意味があるかはわからない。だけど、君のお父さんのような人間が確実に誰かの背中を押し、それはまるで体感するスピード感のようにしなやかにポジティブな風を吹かせる。そういう本当の爽やかな風が吹く場所で、君は生まれ育っていくんだ。それはとてもすばらしいことだと思う。目に見える大金せしめてワッツアップもいいけど、必ずかみしめる幸せは、すぐにはわからないものが多い。君のお父さん、エノシさんは、本当に自分にも人にも誠実な人間だと思う。だから、思いきりお父さんを信じて、いろいろなことをこれから聞いていけばいい。教えてもらえばいい。君がいつか気づく頃には、自分がそういう人間になっているよ。大変な世の中だけど、君にはすばらしい風が吹いている。生まれてきて、おめでとう。いつか、会おう。