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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

5 イチロー引退。

最後のエリア51は東京ドームのライト・ポジション。
引退会見を見たのは、北の果ての方、羅臼町の寿司屋だった。前日、東京ドームでイチローがスタメン出場した試合を観戦した。アスレチックス対マリナーズの開幕第2戦。8回表の第4打席。ファウルで粘った後、イチローらしい芯を外した打球はショートゴロ。これが日米通算4367安打を放ったスーパースターの公式戦最後の打席となった。その後、ベンチへと下がり、超一流の野球小僧の現役プロ選手としての旅は幕を閉じた。大接戦の延長戦に突入したこの試合。もうすぐ日付が変わってしまう時間になっても、鳴り止まないイチローコール。観客は誰も帰ろうとしない。どれくらい時間が経っただろうか。ロッカールームに引き上げていたイチローが再び現れて、ゆっくりと歩き出した。手を振ったり、笑ったりしながらグランドを一周する。ライトスタンドにイチメーターのエイミーさんを見つけて指をさした。グランド上で、こんなに表情豊かなイチローを見たことはなかった。

羽田空港へ。
前日のイチローの引退試合を最後まで見届けて、家に着いたのは深夜1時を過ぎていた。翌朝早く起きて、羽田空港へ向かった。北海道へ撮影に行くためだ。タクシーの中で思った。3年前の春も、羽田空港に向かっていたと。それは、イチローを応援するためだった。当時マリーンズでプレイしていたイチローの西海岸遠征ドジャース4連戦、全試合のチケットを買った。そのときは、イチローがマリーンズを最後にユニフォームを脱ぐのではないかと思ったからだ。最後の勇姿を見届けるつもりで、ロサンゼルスへ飛んだ。そんなイチローは、最後の最後まで現役続行にこだわった。周囲の予想を覆し、メジャーのフランチャイズチームといえるマリナーズへと戻り、2019年3月20日、21日の開幕2連戦を迎えたのだった。

3月22日、羅臼。
朝、羽田を発って、北海道の中標津空港に着いてからは、ひたすら撮影をしていた。夜になって、ようやく一息をつく。夜遅くまでやってるお店は少ないが、寿司屋の灯りに引き寄せられていった。まだまだ雪深い羅臼町の夜はとても静かだった。24時間前、東京ドームの熱気や歓喜の中にいたのが幻のように思えた。しかし、幻ではなかった。北の果ての方、羅臼町の寿司屋のカウンター越しに見たイチローの引退会見。いつも良い顔をしているけれども、引退を決めたイチローは晴れやかな、とても幸せそうな顔をしていた。やりきったのかなと思った。永遠の野球小僧(野球が好き過ぎる人物への敬称)でもあるイチローは、草野球を止めるタイミングを逸してしまったオッサンたちにとって別格のヒーローだ。終わらない歌を歌い続けている象徴だ。案の定、イチローはこう言った。「これからは草野球を極めたい」。羅臼の雪積もる夜、(イチローと同じ土俵でプレイすることがないわけではない)と思った。羅臼の寿司屋は、同じ草野球チームのメンバーのフォトグラファーとの“待ってろイチロー”(イチローとプレイボールすることの意)のささやかな決起集会になった。ここ数年は、いつか引退する日が来るのを想像してはさみしい気持ちになっていた。でも、日をまたいでイチローの引退を実感したとき、すでに新しい目標ができていた。試合することになったら、かなり濃密なレポートをここに書こうと思う。
(写真は羅臼町の寿司屋で見た引退会見/2019)

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