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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

36 漫画のこと。

漫画を読む。
本を読まなかった若い頃、読むといったら教科書や参考書ではもちろんなく、漫画だった。久しぶりに、改めて考えてみたら、30歳をすぎたあたりからまったく読まなくなっていた。その分、本を読むようになったというのもあるけれど、素晴らしい漫画たちにたくさんの栄養をもらってきたのは間違いない。大げさかもしれないけれど、こちらの人生の教訓とか指針とか根幹に関わっているくらい奮えた漫画が5タイトルはある。それらの作品は名言や金言の宝庫でもあった。そして、それらは常に心で呼び起こして、今でも自らをプッシュするスイッチになっている。大学を卒業してから10回以上引越しをしている。その度に断捨離するから、かさばるし重量満点の本類は、どうしたってふるいにかけられていく最右翼。しかし、漫画だったら、この5タイトルだけは今までもこれからもずっと一緒に暮らしていくのは間違いないし、すでに今の段階でこの5タイトルしか、漫画は持っていない(それと、スケボーの漫画でシリーズ進行中の『スケッチー』は大事にしてる)。

漫画のよいところ。
もちろん、人生のなんちゃらかんちゃらなんて仰々しく考える必要もなく、漫画は面白いし楽しい。ひまつぶしになるし、絵やコマ割りを見ているだけで空想遊びができる。小説のように、読む気がなくてもパラパラとやれる手軽さもある。そのくせ、続きが読みたくて手が止まらなくなるものも多い。笑ったり、ムカついたり、泣かされたり。漫画は、小説や映画と同じように、こちらに喜怒哀楽と想像力をもたらしてくれる。ちなみに初めて読んだ漫画の単行本は、平松伸二さんの『リッキー・タイフーン』というプロレス漫画だった。小学生の頃、夏休みにせっとと通って、幼馴染の兄貴の部屋にずらっと並んでいたのを読みふけっていた。それが終わると、平松伸二さんの新連載『ブラック・エンジェルズ』に夢中になった。雪藤という主人公よりもハードボイルドな松田鏡二というのに感情移入したのを覚えている。

友だちの兄貴の魅惑のチキルーム。
その部屋には、『キン肉マン』もズラリと並んでいて、ちょうどそれに手を出した頃に、キン肉マン消しゴム・ブームも到来した。『キン肉マン』は、アシュラマンという悪魔超人側の敵キャラが最高にかっこよかった。ガキの頃、黄金カード、もしくはプラチナカードといったら、実写のタイガーマスク対ダイナマイト・キッドや、アントニオ猪木対スタン・ハンセンよりもアシュラマン対テリーマンの5重のリング対決を真っ先にあげたものだった。ということで、祖母からもらった小銭を握りしめ、初めて買った漫画は、『週刊少年ジャンプ』だった。近所には本屋(当時はコンビニは存在してませんでした)がなかったので、隣りの学区にある駄菓子屋まで、歩いて行った。幼馴染が、その駄菓子屋にはなぜかジャンプだけは売っていると教えてくれたからだった。漫画は、幼馴染の兄貴の部屋でこっそり読むものから、ついに自分で買って読むものになった瞬間だった。母親からは、ゲームはもちろん、『ドリフターズ』や『ひょうきん族』を見るのも厳しく取り締まりされていたので、漫画を読むことを認めされるのは骨が折れたが、ゲームとお笑い番組を諦めることにして、漫画タイムを手にいれたのだった。

5つのタイトルについて。
それが11歳の頃だっただろうか。それからはいろいろな漫画を読んできたけれど、今でもグッと突き刺さり続けている5タイトルがある。それは、宮崎駿さんの『風の谷のナウシカ』、松本大洋さんの『花男』と『ピンポン』、浦沢直樹さん、勝鹿北星さん、長崎尚志さんの『マスター・キートン』、そして、土田世紀さんの『編集王』だ。これらは、今の自分の仕事のやり方、社会との距離感、人生の歩き方、人との距離感、家族への愛情、そういった心のあり方すべてに何かしらの影響を与え続けているものだ。とくに、『編集王』の物語の最中に、突如として宮沢賢治さんの詩『春と修羅 告別』が見開きで、ドーンと出てくるところなどは、人生という黒くて硬いバットで頭をフルスイングされたほどのショックを受けた。その見開きまでの伏線から人間描写から何から何までと、その見開きの絵と、すべて素晴らしかった。

今はペコさんにプッシュしてもらおう。
この5タイトルについては、我が子にも手紙で伝えている。(なぜか不安で眠れない夜があったらこれを読むといい。周囲と一緒に笑えずひとりぼっちだと感じたときはこれを読むといい。自分のことを嫌になりそうになったら、この漫画のここを読むといい。あきらめそうになったら、この漫画を読むといい。生きるということについて、シンプルになるためにはこれを読むといい)、そんなことをもう少し細かく手紙にしたためた。そして、今の混迷を極める社会情勢。大切なのは慎重に丁寧に自らを律して暮らすこと。だからといって、行政がすべて面倒をみてくれるはずがない。すなわち、仕事ややるべきことを自己責任でプッシュしなくてはいけない。そんなときは、ピンポンのペコの言葉を思い出す。「臆せば死ぬぜ、ヒーロー見参」。冷静な勇気。静かな強さ。そんなことを考えて、久しぶりに漫画を読む。36

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