小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。
20 北野ブルー映画。
ブルーなバイオレンス。
スクリーンからはみ出してくる男の青すぎる狂気。北野武監督らしいバイオレンスの臭気を漂わせた1993年公開作品『ソナチネ』。北野作品で、この 『ソナチネ』が1番好き。そう答える友人が多い。それはなぜかと聞くと、1989年の初監督作品『その男、凶暴につき』、『3-4x 10月』などで監督が描く狂気や暴力装置を見入ってしまった者にとって、初期作品群のバイオレンスが総括されているような作品だからだという。たしかに『ソナチネ』によって、北野武=バイオレンスというようなスタイルが決定的に確立されたように思えた。強烈なインパクトもさることながら、同時にキタノブルーと表される青みがかった色彩とプロップス演出で世界中でファンを獲得したのが、この『ソナチネ』なのである。
絶望的なコントラスト。
写真家と同じように映画監督は、アングルと構図、そして色などにそれぞれのこだわりがある。市川崑監督が『おとうと』で初めて実用した銀残しと言われる色彩手法は、ロシア映画の名作『父、帰る』などでも顕著だし、世界的ヒットとなった『バグダッド・カフェ』のパーシー・アドロン監督は、全カットの色と構図を何度も再構築してディレクターズカット版を上映している。それは初公開から20年を経た後のことである。こだわればこだわるほど、作家性が高くなればなるほど、作品には余韻が漂うようになる。この『ソナチネ』のシーンからはみ出してくる強烈なバイオレンスと青い色もまたそういった歴代の作品のひとつとして語られていくんじゃないだろうか。個人的に、『ソナチネ』でとく印象に残ったのは、信じたい者とそれを裏切る者との絶望的なコントラストだった。例えると、夏風邪を引いたときに、暑いはずなのに鳥肌がジワジワと浮き立つ感じと似ている。そんなはずはないのに実際にそれが起こっているという不快感。劇中、真夏の沖縄の青さがどこか寒々しく感じるのはそのせいだと思っている。
エンターテイメント性に隠れたひりひりした青い夜。
映画ファンを惹きつけ続けるキタノブルーなシーンたちと寒々しく青ざめさせる殺戮のコントラスト。いわばブルーなバイオレンスの系譜なのが、アウトレイジ・シリーズだろうか。『アウトレイジ』、『アウトレイジ ビヨンド』からの完結編『アウトレイジ 最終章』は、このシリーズの象徴であるヤクザの抗争やバイオレンスが描かれている。それに加えて映画ファンが気負いなく楽しめるポップコーンムービーの要素も含まれている。と思っている。前にも書いたけれど、ポップコーンムービーというのは、映画館のカウンターで買ったポップコーンを頬張り炭酸ジュースで流し込みながら楽しむ映画のこと。例えば、北野武監督作品だと、『あの夏、いちばん静かな海。』などは、見入ってしまうし、セリフの一言一句を染み込ませたいので、ポップコーンをガツガツ食べたりしにくい(もちろん食べたっていいのだけど)作品。その逆で、エンターテイメント性が強い『BROTHER』などは、銃撃戦や啖呵の最中に気兼ねなくポップコーンを楽しめる。ということで、『アウトレイジ 最終章』は、映画館での最高のポップコーンムービーとなった。それと。イントロの済州島の歓楽街、主人公の大友を乗せた黒塗りのセダンが通りを滑るように走るシーン。これから起こるすべてを暗示させる、青くて暗くて美しい映像は、さすが北野武監督、観客のこちらをゾクゾクさせてくれた。20