小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。
4 マンマのパスタ。
ハミハミというカテゴリー。
白い食べものが好きだ。ホワイトブレッド、白米(おかゆが一番)、生クリーム……。とくに、やわらかかったりツルッとしてたりするのがいい。餅、麺、クレープの生地、トルティーヤ、肉まんを包んでいる生地、ナン……。それを、師匠(カイザーソゼ)曰く、どうやらハミハミ系というらしい。おじいちゃんになりかけているこちらの顎力を鑑みて、モグモグと咀嚼できなくてもハミハミと優しく食べることができるもの。確かに、白い食べものにはそんな印象がある。では、白くてハミハミできるものが好きということか。というと、それだけではなくて、仮に何も足さなくても食べれるものがいい(そういうものは具や味を足してももちろん美味しい)。
パスタの白いやつ。
例えば、とんこつラーメンの替え玉は、麵だけで食べる。パスタは具沢山よりペペロンチーノみたいなのがいいし、なんならパスタそのものだけでもいい。大学時代に観た映画『グランブルー』に出てくるジャン・レノ演じるエンゾが、親友ジャックやジョアンナに振るまうジャスト白いだけの(具なし?)パスタが最高だった。劇中、エンゾは他所のパスタを食べたらマンマに殺されると言っていた。シンプルなのに、他所とは違う味があるのだろう。(ああ、できることならマンマのパスタにあやかりたい)。そんなことを当時だけでなく、今でも六本木にあるレストラン・シチリアのペペロンチーノを食べたりすると、ついつい空想して楽しんでしまう。そんな空想力学の中でマンマのパスタを食べてるときは、『グランブルー』のジョアンナをはじめ、映画『紅の豚』のピッコロ社のじいさんに漫画『ツルモク独身寮』の白鳥沢嬢とかと同じで、ハリウッドザコシショウさんに誇張されたような、品格よりも情熱的な大食いスタイルだ。
スパゲッティ・アル・ブロー。
大学時代から惹かれているマンマのパスタ。ひょんなことから、おそらくこれが正解じゃないだろうかというレシピに出会うことができた。それは『グランブルー』よりもっと前、1965年に初版が出ていた伊丹十三さんの著書『ヨーロッパ退屈日記』に書かれていた一節からだった。イタリア産の細麺にパルミジャーノチーズと塩とバターだけで作るアルデンテのパスタ、スパゲッティ・アル・ブロー。シンプルで白いだけの見た目も間違いないと思った。あとは、マンマの隠し味のオリーブオイルなのか、硬さなのか、パスタ自体の細さなのか、とにかく何か少しの違いはあるかもしれない。あったとしても、それくらいの差異だろう。そうして、大学時代に恋い焦がれた、白くて足し算をしなくていい『グランブルー』のマンマのパスタを知った気になれたのだった。劇中、レセプションをすっぽかして、ホテルの自室で祝勝会を開いたエンゾ。彼の弟ロベルトに渡された大盛りのマンマのパスタを無邪気に食べる主人公のジャック。シンプルなパスタがテーブルに出てくると、そんなジャック(ジャン=マルク。バール)の気分で、いつも食べている。4
(写真はリュック・ベンソン監督の母国フランスでマンマのパスタを待ってるところではなくてカフェでくつろぐ人/2019)