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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

16 おっさんの旅  辺境編 崖の下の砂浜。

1周26kmほどの島。
与那国島は、3時間もあれば自転車で1周できてしまう。そして、ところどころが断崖絶壁になっていて、海からやってくる強い波と風に立ち向かっている。遥か西までやってきて、納沙布や落石の岸壁を思い出す。オッサン3人は、まず、自衛隊駐屯地レーダーを確認しに行った。ここが日本の防人(さきもり)のひとつなんだろう。それから、一気に与那国島のスポット巡りをした。『Dr.コトー診療所』の舞台となった比川浜をはじめ、沖縄民謡で知られるナンダ浜、絶景の六畳ビーチ、それにティンダハナタ展望台や与那国馬がいる東崎灯台。さらには、昔に人減らしがあったという、くらぶばりや、とぅんぐだなどなど……。ちなみに、この島にやってくる旅行者の主な足はレンタルバイクか徒歩になるだろうか。1周26kmほどの島だから、たしかにそれで十分かもしれない。ただ、オッサンにはレンタカーが必要だった。撮影旅行だから、この小さな島において行ってないところはないというほど精力的に動きたい。「今度また来ますねー」、なんてワケにはいかない場所だというのは、よく考えるまでもなくわかる。

八重山諸島の果て。
撮影は1周して終りではなかった。何周しただろうか。何十周したかもしれない……。滞在中、ずっと頭にあったのは、旅に出る前に田附勝に読んでおけと勧められた柳田国男さんの『海上の道』。そして、個人的に好きな本、池上永一さんの『統ばる島』。実際に、この日本のどこよりも夕日が沈むのが遅い島をぐるぐるしていると、那覇や東京から遠く離れているところというより、台湾をより近い場所として感じてくる。言い換えれば、東の京ではなく西の島に船首を向けた与那国という船だと思う。(ここまで来てしまうと国境なんていうのは概念の単なる線で、阻んでしまうほど大きな障害ではないのかもしれないな)。そんな風にふと思ってしまう。この島で1番高い山は、標高231.3mの宇良部岳にも行った。美しい眺望にたどり着くまでに目をうばうのは、原色なるままイエーイな草花とタモを持った麦わら帽のおじさんたち。それはなぜか。

美しいと厳しいのコントラスト。
与那国島には、ひとりかコンビでやってくる昆虫おじさんが多い。その理由は、ヨナグニマルバネクワガタやフチドリゲンゴロウなど、ここにしか生息していない希少種がいるからだろう。タモを持ったおじさんたちは、世界一大きな蛾、ヨナグニサンが目当てに違いない。島外に持ち出すことはできないが、直に見てニンマリとするのだろう。西の辺境に、夏の夜の蛍光灯に集まる羽虫のように、タモおじさんたちが惹きつけられてやってくる。おもしろい。こちらタモなしオッサンたちは、道なき道を進んで崖の下の砂浜を目指した。途中、人を拒む鋭利な岩肌でスニーカーは裂けて、手も切ってしまった。どうにか辿り着いた美しい砂浜。そこに転がる無数の中国語のペットボトルをバックに撮影した。写真家の田附勝は、長い間、ネガフィルムで撮影をしていた。単純に景色が美しいだけではない。海水浴ができるわけではなく、海の家もシャワーもない。真っ白な砂浜にあるのは貝殻だけではなく、流れ着いた隣国のゴミたち。そのコントラストはオッサンたちを黙らせ、ひたすらシャッターを切らせたのだった。16
(写真は与那国島の断崖絶壁/2019年)

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