ダブルデッカー

「次は天満橋」

20:36出町柳発、淀屋橋行きの特急に乗り込む。意図的にダブルデッカーを選ぶ。今日は2階に座りたい気分だ。

あまり夜景は見えない。車内の光が反射するためだ。ただ少し下を覗き見る行為はわくわくする。優越、好奇心、冒険、焦燥。多くの思いをのせてダブルデッカーは進んでいく。

ホームに止まると、自分が少し浮いている感覚に襲われる。ホームに立っている人より目線が上のためだ。車内から人のつむじを見るなんてあまりない。向こうでは子どもがダブルデッカーに手を振っていた。風船を掴む反対の手で。そんな子どもを横目にダブルデッカーは進んでいく。

途中に見えるガソリンスタンド。電気はついているがこの時間、車はない。セルフスタンドだろうか。原付が1台道路を走る。メットをしっかりとかぶり、白のYシャツを着て、黒のリュックサックを担いでいる運転手。原付は赤いランプをつけてスタンドに入っていった。

「ひらかた、ひらかたです」

1番人が多く降りる駅だろう。家に帰るがごとく足早に車両を去っていく。ダブルデッカーに乗車した夫婦も、老人も、学生も、働き人もひらかたで降りていった。降りた瞬間ダブルデッカーとの旅路は幕を下ろす。ダブルデッカーの2階に乗ることでしか見ることができない景色は時として、暗く吸い込まれそうだった。未来、無知、不安に。

「天満橋、天満橋です」

わたしの旅路は幕を下ろす。地下に入ったため真っ暗でなにも見えない。1階も2階も上も下も関係ない。ここでの私に優越感はない。あるのは安心と焦燥だろう。電車がゆっくり止まると同時に、私は足早にダブルデッカーを出る。辺りを見回し、地下鉄の表示を探す。ダブルデッカーの旅は終わりを迎えたが、次の旅路はまだ始まったばかりだ。

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