幕末エピソード4 剣を取るか、ペンを取るか。 そんなことより私の王子様はどっち?
幕末エピソード4になります。
前回のおさらいからお付き合いくださいませ。
吉田松陰センセー、黒船乗り込んだ後、「松下村塾」開いたよー。
↓
島津斉彬さん、「集成館事業」やったよー。西郷さんも見つけてるよ。
↓
幕府とハリス、日米修好通商条約の条文まとめる。
ついに、"貿易やっちゃう条約"を結ぼうとする幕府。
もう中身出来上がるよーってタイミングで、攘夷派から
「ふざけんじゃないよー! 条約なんて結ぶんじゃねぇよ!!」
という、大反対の声が大量発生します。
その中でも、とってもジョーイ(攘夷)おじさん
前水戸藩主・徳川斉昭(またまた登場)は、
「反対に決まってんだろがーー!!」
ひときわ大きなシャウトを放っておりました。
斉昭がいる水戸藩は、『天皇を敬うんだ! そして、外国人は追い払うんだ!』という
尊王攘夷(そんのうじょうい。ほら出てきた)
って考えを、日本で一番早く示した藩だったので、このおじさん、人一倍うるさいんです(あの水戸黄門さんがいたのが水戸藩。その時代から始まったとされる『水戸学』っていう学問の研究の中にあったのが"尊王攘夷"っす)。
しかも、幕府にとって厄介だったのは、この"尊王攘夷"が流行ってしまったこと。
幕末の誰か「外国来たーー! でも幕府頼りにならねーー!」
尊王攘夷さん「幕府なんかより天皇や朝廷を推して、外国人追っ払おうぜ!」
幕末の誰か「それだーーー!」
幕府への不信と、尊王攘夷の考えが、ガシャーン! とぶつかり、大スパーク。
流行語大賞とレコード大賞とグラミー賞とバロンドールを取るほどの大流行を巻き起こしたんです(ちょっと言い過ぎました)。
そしてこの流行、尊王攘夷の考えで活動する 志士(しし) と呼ばれる存在を作り出したのでした(『幕末の志士』とか『維新志士』みたいなの聞いたことありません?)。
幕府は、こんな人たちから大反対を喰らい、条約にサインができない状況。
どうなる、日米シューツージョー(日米修好通商条約。略したらヘンになった)。
岩瀬忠震(ハリスとの交渉役)「あの……さぁ……。調印(署名とか捺印ね)なんだけどさ……。ちょっと待ってもらえないかな?」
ハリス「え……なんで? あとはサインするだけじゃん? ねぇ……なんで?」
岩瀬「オレたちの関係に反対する人がたくさんいて……」
ハリス「なにそれ……意味わかんない……。岩ちゃんは私と条約結びたくないってこと!?」
岩瀬「そんなことない! オレだって結びたい!! ただ……調印は待ってもらいたい……。必ず反対してる人たちをダマらせてみせるから! だから……お願い」
ハリス「岩ちゃん………。わかった、私待ってる……」
婚姻届(条約)に、彼氏のハンコを待ちわびる、女子ハリス(おっさんすけどね)。
どうにか周りの反対を押し切って、サインをしようとする彼氏の岩ちゃん(おっさんすけどね)。
彼氏は彼女を悲しませないためにも、踏ん張ります。
だって彼女がスネちゃうと……、
大砲撃ってくる可能性があるから。
と、そこへ、悩める岩ちゃん・ハリスカップルを救うべく、
堀田正睦「岩ちゃん! ハリス! 待ってろ! 反対派黙らせる"秘策"持ってきた!」
老中首座の、堀田正睦さんが登場します。
彼が小脇に抱えた"秘策"ってのが
勅許(ちょっきょ)
というもの。
これ何かっていうと、
"天皇の許可"
のことなんです("勅許"、"勅命"、"勅書"。とにかく"勅"ってついたものは「天皇の命名」って覚えといて。"勅"は、このあとスーパーキーワードになってくるよ)。
堀田「2人とも待っといてくれよ! ……(歩き出す堀田)朝廷が認めて、天皇の許可がくだれば、尊王攘夷の連中も納得せざるを得ない。これですべてが丸く収まる! フフフ……条約の許可をもらうなんて簡単だ。朝廷は政治に無関心なんだから、『許可してください』『いいよ』『ありがと』これでおしまい笑。チョチョイのポンポンポーン! よww
公家(貴族さん)たちにワイロも持ってきたし、なんてイージーモードな仕事だろwww (朝廷に到着)あ、勅許ください」
朝廷の人「あ、ダメです」
ダメでした。
てか無理に決まってます。
公家ってのは、重度の外国人アレルギーで、
「あいつらはケダモノやさかい!」
って決めつけちゃってる連中ばかりですから。
それに加えて、志士たちが
志士「幕府なんてオワコンです! マジ、朝廷の方がアツいっすよ!」
朝廷「そ、そぉお(エヘヘ)?」
と、おだてるもんだから、幕府に対してメチャ強気の、スーパー攘夷に仕上がってたんです。
幕末でおそらく一番有名な公家、
岩倉具視(いわくらともみ)
さんなんかは、88人の公家を集めちゃって、条約反対の大抗議とかしゃう。
さらに、時の帝(みかど)である
孝明天皇(こうめいてんのう)
も、外国人のことが大っ……キライ。
当然のように、条約結ぶことには大反対だったんです。
そして実は、この堀田さんの行動、かなりやらかしちゃってるんです。
今まで、政治は幕府だけでやってきました。でも「許可ください」ってお願いしたら、朝廷を政治に参加させるってことになるんですね。
しかも、幕府より上の立場として。
で、朝廷に「条約許可しない!」と言われ、幕府はそれに従うことになった。
これって……「今後、朝廷が『YES』を出さないと、どんな政策も進めることができない」っていう"事実"を作ったことになるんです。
阿部さんに続き、堀田さんのせいで、幕府の力がさらに弱くなったのは確かでした。
それを受け、岩ちゃん・ハリスカップル……。
岩瀬「ごめん……朝廷にさ、お願いしに行ったんだけど……ダメだったんだ………どうしよう……。朝廷がまさか断ってくるとは思わなかったから! やっぱり朝廷に……」
ハリス「さっきから朝廷朝廷って、ナニよ! 幕府が政治をやってるんじゃないの!? 朝廷って機関があるなんて聞いてない! ……岩ちゃんたち私をダマしてたんでしょ? もういい。アタシがその朝廷ってとこと、直接お話しするから」
岩瀬「それはダメだ! そんなことしたら幕府の存在意義がなくなっちまう! オレが絶対なんとかする! だから! あと3ヶ月待ってほしい! 3ヶ月たったらどんな状況であろうと条約にサインする! 約束する!」
ハリス「………ホントに? 約束やぶったらギャン泣きしながら大砲撃つよ?」
メンヘラハリス(違いますけど)に、寄り添う岩ちゃん。
調印のリミットは3ヶ月後に決定。
時間、まったくありません。
そして、幕府のトラブル、これだけじゃなかった……。
条約だけでもハイパートラブルなのに、も1つメガトントラブルを抱えてるからややこしい。
それっていうのは、
跡継ぎ問題——。
このときの将軍・徳川家定(13代だよ)は、体が弱くて、しかも、優秀とは真逆の人(って言われてます)。
平和な世の中なら、周りが支えてりゃなんとかなる。でも今は、日本が大ピンチ。
みんな共通の思いは、
「この将軍じゃダメだ! マジで!!」
さらに、家定には子供がいません。
ならば「優秀な将軍候補を決めとかないと!」ということになったんですね。
そこで、白羽の矢が立ったのが
一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ)
という、「若くて、賢くて、才能あるらしい!」ってウワサされる若者。
阿部正弘(元・老中首座のね)
島津斉彬、松平春嶽、山内容堂、伊達宗城(四賢侯だね)
徳川斉昭(とってもジョーイおじさん)
という面々が、慶喜くんを推しメンにします。
ちなみに慶喜くんは、ジョーイおじさん・徳川斉昭の実の息子。
名字が違うのは、『一橋家』ってとこに養子に出されてたからなんです(やっと出てきた『御三卿』)。
いろんなおじさんが、うりゃおいジャージャーと慶喜くんを推していますから、14代将軍は、彼で決まりま……
「ちょっと待ったーーー!!」
入るわけですよ。ちょっと待ったコールが。
ストップをかけた代表者、それが
彦根藩藩主・井伊直弼(いいなおすけ)
です(有名すよね?)。
井伊直弼「慶喜くんはダメだ! もともと水戸家の人間だろ? かつて水戸から将軍を出したことはない、前例がないんだよ! それに将軍というのは、血統優先。13代将軍家定さまと慶喜くんは、初代家康さままでさかのぼらないと、血がつながらないだろ? これはもはや赤の他人だよ! そこで、私がオススメしたいのは……
紀州藩藩主・徳川慶福(よしとみ)。
慶福ちゃんは、13代将軍家定さんの従兄弟にあたる。血統申し分なし! それに、紀州藩からは将軍を出した前例もある! だから慶福ちゃんにケッテー!」
慶喜くんを否定し、慶福ちゃんをゴリ推しする井伊さん。
他にも、たくさんの譜代大名と、あの大奥が、慶福ちゃんを猛プッシュします(慶喜くんは「カッコいい!」、慶福ちゃんは「かわいい!」と、女性に人気があったみたいだけど、大奥は斉昭のこと大嫌いだったから、息子の慶喜くんはNGでした)。
ただ、慶喜オタも、慶福ちゃんには大反対。
なぜなら……。
慶喜オタ「いや………まだガキじゃねーか!」
そう、慶福ちゃん、まだ子供だったんです(この問題が騒がれはじめたときで、8歳。一番白熱してるときでさえ、13歳)。
慶喜オタ「この大変な時期に、なんでわざわざ子供だ!」
こちらもなかなか真っ当な理由。
能力か血筋か。
双方の目から、火花やらレイザービームが飛び交う億千万の胸騒ぎ。
慶喜くんを推すのは、「幕府を改革してやる!」って人たちで、
その名も『一橋派』!
慶福ちゃんを推すのは、「これまで通りの幕府がいい!」って人たちで、
題して『南紀派』!
ここに、
一橋派VS南紀派による将軍継嗣問題(しょうぐんけいしもんだい)
がボッ発したのでした。
"条約結ぶ結ばない"というドタバタに、"将軍の跡継ぎ問題"というゴタゴタがミックスされ、日本は怒りのドンちゃん騒ぎ。
さらに、同じ一橋派の中でも、攘夷派と開国派に分かれてたりして、
「ネックレスのチェーンって、絡まったらこんなにほどけないの?」
と、ほぼ一緒のややこしさです(例:徳川斉昭は攘夷派。島津斉彬は開国派。でも二人は同じ一橋派)。
もーーーーグッ…チャグチャ。
とにかく、推しメンを将軍にしようと躍起になる、一橋派、南紀派、それぞれの策略が、ヨーーイ……
ドン!!!!!
まず最初に動きを見せたのは、一橋派の島津斉彬さん。
斉彬さんの養女で、将軍家定さまと結婚が決まっていた、
篤姫(2008年NHK大河ドラマ「篤姫」の主人公だよ)
に、
次の将軍を慶喜くんにするよう、将軍家定&大奥を、口説き落とせと頼みます。
さらに、朝廷にも仕掛ける斉彬さん。
斉彬「西郷ー! 朝廷に行ってきてほしいんだ!」
西郷隆盛「『次の将軍は慶喜くんにしろ!』という、天皇の命令が書かれた文書、"勅書(ちょくしょ)"を出してもらうためですね?」
斉彬「すぐ理解してくれるー! 好きー!」
西郷さん、勅書をもらうため、あちらこちらを駆けずり回ります。
同じように、松平春嶽さんも、
松平春嶽「橋本ー!」
橋本左内「勅書をいただくため、朝廷に向かいます」
春嶽「まだなんにも言ってないのにー! 好きー!」
優秀な家臣橋本左内(はしもとさない) を、朝廷に走らせたのでした。
まさに、大ピンチを迎えた"幕府"というセリヌンティウスのために、江戸の世を駆け抜ける幕末のWメロスであります(そんな異名ないです)。
多忙スケジュールを極めた2人の努力。
斉彬さんの「篤姫ちゃん大奥大作戦」。
その結果は………
ダメー。
全部ダメー。ホントにダメー。
なんと、どれもこれもギリギリのところでうまくいきません。
そればかりか……、
阿部正弘「あーあ……もっと改革…したかっ……たな……(パタッ)」
阿部の部下「阿部さーーーーん!!」
改革王・阿部正弘さん、死去。
一橋派にとって、"幕府の中心にいる"阿部さんがいなくなるってのはとんでもないダメージ。頼りにしていた存在を失い、確実に劣勢ムード漂う一橋派……。
そんな敵の状況をあざ笑うかのように、南紀派はミラクルカードを取り出します。それは
大老(たいろう)
という名の切り札。
幕府マニア「た、大老だと!? 幕府の中の最高職じゃないか! 臨時に置かれるポストで、そのランキングは老中首座よりも上……。大老の決定権は、アメリカの大統領級に強い。南紀派の誰かが大老になれば、この勝負一気に片がつく!」
この切り札を利用すべく、南紀派は将軍家定に囁きます。
大奥「家定さま。このご時世、大老ほしくありません?」
南紀派の人「適任者といえば、井伊……? いいな……? いいな……?」
家定「にんげんていいな」
南紀派の人「ううん、違う違う。いいなお……? いいなおす……?」
家定「あ、井伊直弼、大老ね」
大老・井伊直弼、誕生。
絶対的な権力を、井伊直弼が手に入れるんです。
さらに、井伊さん&南紀派は、その勢いのままたたみかけます。
井伊「一橋派のヤツらって、家定さまのことを『できねーヤツ』って決めつけてません?」
家定「うん、一橋好かん」
井伊「ですよねー! てことは、次の将軍は……?」
家定「うん、次の将軍、慶福ちゃん!」
決まったーー!
ほぼ井伊さんが言わせたーーー!
"大老"というスペシャルカードを手に入れた南紀派が、怒涛の勢いで、将軍跡継ぎ対決を制したのでした(家定さん、南紀派にいろいろ吹き込まれたとか、自分の意思で決めたとか、諸説ありだよ)。
さ、残すは条約問題。
こいつをどうにかしなけりゃ、幕府の全員、一睡もできません(寝たでしょうが)。
大老・井伊さん、今度はこちらの解決に。
井伊「まだ勅許がおりない……。悪いけど、ハリスにもうちょっとだけ期限伸ばしてもらって……」
岩瀬「何回も伸ばしてもらったわ! いいか! 今からハリスんとこ行くけど、どうしようもねー場合は調印してくるからな!」
井伊「……もうわかった。しょうがねー場合はしょうがねー! でも伸ばす方向で頑張れよ!」
岩瀬「これ以上、ハニーを悲しませたくないんだ!」
井伊「相手おっさんだろ!」
井伊さんから承諾を得て、ハリスの元に駆け寄る岩ちゃん。
潮風で髪を揺らしながら、船上で岩ちゃんを待つハリス。
岩瀬「ハリス!!」
ハリス「(振り向いて)岩ちゃん! サインは!?」
岩瀬「(微笑みながら、ゆっくり頷く岩ちゃん)」
ハリス「(ひとりでに溢れ出す涙)岩ちゃん……ありがとう!」
結ばれました(2人がじゃないよ。条約がだよ。やりとりは妄想だよ)。
勅許をどうもらうかあれだけ騒いでたのに……
結果、なんと、勅許ナシで結ばれちった。
日米修好通商条約、ようやく調印です。
こうして、条約問題と、将軍跡継ぎ問題は、一応のゴールを迎えることになったのでした。
しかし、一件落着かというと……
もう、まったくそんなことはありません。
井伊さん的には仕方がなかった「勅許ナシ」。ですが、尊王攘夷を掲げる人の目には、すべてを無視した極悪人に映ったことでしょう。
増大する憎しみの炎……。
その炎を吹き飛ばすため、井伊直弼は"粛清"という剛腕を繰り出すのでした。