幕末エピソード5 降りそそぐ罰の終わりには、 愛しき人へのメッセージ
幕末エピソード5でございます。
そして、まずは前回のおさらいでございます。
尊王攘夷の人たち、条約にはんたーい!
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堀田さん、朝廷に許可求める。朝廷「え、ムリ」
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将軍の跡継ぎ問題も起こっちゃう。
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慶喜くん(一橋派) VS 慶福ちゃん(南紀派)
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井伊直弼、大老になって、次の将軍は慶福ちゃんに決定!
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大老パワーで、朝廷の許可ナシに条約GO!
とうとう、ニーベーシューツージョークー(日米修好通商条約。略したらお経みたいになった)を結んだ日本。
待っていたのは……、
オランダ「どぉーも……。聞いたとこによると、アメリカといい感じになったんだってー?」
日本「ど、どうしたんですか……いつものオランダさんじゃな……。は! まさかあなたも!」
オランダ「そのとーりだよ!」
日本「きゃっ!」
日蘭修好通商条約締結。
ロシア・イギリス・フランス「オレたちもだよ!!!」
日本「きゃーーーーー!!」
日露、日英、日仏、修好通商条約締結。
「これデジャブ?」というような出来事がおこり、『むすんでひらいて 幕末ver. vol.2』を歌い上げます(こちら、『安政の五カ国条約』って言うんで、暇な時にでもつぶやいてみてください)。
富・名声・力。幕府の全てを手に入れた男
"大老"井伊直弼。
彼の放った一言は、人々を海へ駆り立てた。
井伊直弼「条約か? 結びたきゃ結んでやる。開け! 開国に必要な勅許は置いてきた」
世はまさに、大開国時代!
尊王攘夷派「やかましいわ! 気取ってんじゃねーぞクソハゲ! 何が『開国に必要な勅許は置いてきた』だ! 勅許がねー条約なんて認めてねーわダボが!!」
大開国時代急ブレーキ。
スゲー勢いで反対されます。
前回お伝えした通り、『天皇の許可がない条約』による、いわくつきの国開きは、尊攘派の逆鱗に触れます。
もー日本全国「井伊ふざけんな!」の遠吠え大合唱。
かつてのライバル『一橋派』のブチギレも止まりません。
一橋慶喜「勅許ナシで条約結ぶってどういうことだ!」
徳川斉昭「次の将軍、慶福ちゃんにしてんじゃねーよ!」
松平春嶽「バグってんじゃねーぞ、タコスケ!」
井伊さんの行動に怒り大爆発の3人は、かわるがわる江戸城に押しかけ、飛びかかる勢いで大抗議。
それに対し井伊さん、意外にも真摯な態度で神対応。
ですが、後日……。
井伊「江戸城に上がるのは、各々に決められた日がある。にも関わらず、あんたらは"それ以外の日"に来た……これ、ルール違反だ。はい、3人は隠居、または謹慎ね」
斉昭・春嶽「なにーーーー!!!?」
隠れてた悪魔出現します。
でも、ここで一言物申したいのが慶喜くん。
慶喜「ちょっと待て! オレは決められた日に江戸城行ったろ! なんで処罰されんだ!?」
井伊「…………とにかく謹慎です」
慶喜「だから理由言えや!!」
慶喜くんの疑問は謎のまま。飛びかかってきた3人とも、まとめて一本背負いされたのでした。
ギャーギャー騒ぐ敵をなぎ倒し、フフフン♪の井伊さん。
ただ、
波乱の幕開け、
ここからなんです。
開演5分前を知らせる1ベルは
『戊午の密勅(ぼごのみっちょく)』
によって鳴らされます(なんだそれは?)。
"戊午"っていうのは、この年の干支。
"密勅"は、天皇がヒミツに下した命令。
ドッキングすると、
『この年に出された、天皇からの秘密の命令』。
そこには何が書かれていたかというと、
・勅許なしで、なんで条約結んだ? どういうことか説明しろ!
・国の一大事なんだから、幕府や御三家や譜代や外様、みーんなで会議しろ! 攘夷もしろよ! 歯磨けよ!(歯磨けよは書いてないです)
この命令を受け取る相手は、もちろん幕府なんですが……。
井伊「『みーんなで会議しろ!』って書いてんじゃん……幕府だけでやってきた政治に他の藩混ぜたら、幕府の権力なくなるわ! まぁいい……天皇の命令を受け取るのは幕府だけだ。このことはくれぐれも他の藩には内密……」
井伊の部下「水戸藩にも『戌午の密勅』届いてるそうです」
井伊「え、うっそ!?」
井伊の部下「しかも水戸藩の密勅には、『この内容を、他の藩にも見せること!』ってP.S.がついてるみたいっす」
井伊「絶対ダメーーー!!」
この絶叫が、開演を告げる本ベルとなり、波乱たっぷりの公演がスタート。
これ、現代の会社で言うならば、
会長「おい社長! 外資系の会社と業務提携したらしいな。勝手なことすんな! 今回の件はお前だけじゃ頼りになんねーから、部長の水戸くんにも個別で指示出したからな!」
社長「会長から部下に直接!? そ、そんなことしたら私の立場が!!」
に、近い事態ですわね。
井伊直弼、「幕府をバカにするな……」とプルプル震えます。
おこ、です。
さらに、激おこ直弼丸の怒りは膨れ上がります。
情報通「ゴニョゴニョ……ゴニョゴニョ」
井伊「なに……? 今回の密勅、水戸藩と一部の公家がグルになって、裏から手を回しただと…。水戸のヤツらが『密勅出してくれ』とお願いしたというのか……(プルプル)。で、公家と水戸藩をつなげたのは、条約に反対する志士たちってか? ハッハッハッハッ……潰す! 密勅に関わったヤツら潰す! 尊王攘夷派も、幕府を改革しようとする『一橋派』も全員潰す! 焼いて、つぶして、粉にして、スプーン一杯なめてやる!」
激おこなんちゃらかんちゃらプンプンなんちゃらなんちゃらです。
その結果、
井伊「あんたは隠居! お前は謹慎! テメーは永久に謹慎! 貴様に関しては……切腹だーーーー!!」
激情に駆られたプンプン丸さんは、処罰の嵐をおこして、全てを壊すの。
慶喜くん、堀田さん、四賢侯のみなさん(島津斉彬を除く)は、隠居や謹慎。
ジョーイおじさんや、岩ちゃんは、永久に自宅謹慎。
一橋派の橋本左内や、密勅に深く関わったとされる水戸藩の何人かは、まさかの切腹や死罪。
身分、職業問わず、処罰したその数なんと
100人以上。
そうです、これが、主演・井伊直弼による大弾圧オペラ
安政の大獄(あんせいのたいごく)
という演目です(芝居じゃなくリアルね)。
誰も望んでないのに、主演の熱だけでロングランになった幕末の大迷惑公演。
だがしかし、このダークネス歌劇にストップをかける、薩摩在住のディーバが現れるんです(女性じゃないけど)。
島津斉彬「井伊直弼……ぶっ潰す!」
井伊さんのやり口に怒り心頭したトップオブ四賢侯、
島津斉彬さん、その人です。
井伊の暴走を止めることを決意した斉彬さん。
だが、生半可なやり方じゃダメだ……。
そう判断した薩摩の名君・斉彬は、とんでもないことを口走るんです。
斉彬「これから兵を引き連れて、京都に行くぞ! 朝廷に行って、『幕府を改革していいよ』という勅許(天皇の許可)をもらう!」
斉彬の家臣「幕府を改革!?」
斉彬「その勅許で、井伊のバカタレとアホ幕府に、『やり方変えろ!』と迫る! 軍隊もチラつかせて脅す!」
斉彬の家臣「脅す!? それってつまり……」
斉彬「そうです、クーデターです!!」
斉彬の家臣「でたーーーーー!!」
斉彬「西郷!」
西郷隆盛「朝廷に行って、勅許をもらう下準備をしてきます!」
斉彬「お前、心読めるのか!? だいすきだ!」
斉彬さんは、兵力とブランド力のWパンチで、幕府を改革しようとする、
率兵上京計画(そっぺいじょうきょうけいかく)
ってやつを立てるんです(兵を率いて京都行くってことね。昔は京都に行くことが"上京"だよ)。
許可もなしに、軍隊連れて京都に行くなんて、平和な江戸時代にはありえねー行動ですが、もうこれしかない。
斉彬さんはソッコーで大軍勢召集。
準備が着々と進む中、兵の訓練を見る斉彬。
そして、フニャリともらします。
斉彬「ふぅー、なんだか熱っぽいなぁ……」
で、
死にます。
斉彬の家臣たち「…………えええぇぇーーーーーーー!!」
「えーーー!!」なんです。
斉彬さん、なんと突然の発熱から数日後……お亡くなりになるんです(急すぎて、暗殺説もあるよ)。
青天の霹靂以外の何物でもない。
もちろん、率兵上京計画も中止。
それと……ずっと、「斉彬さんは安政の大獄を止めようとした」みたいなニュアンスで語ってきましたが、実はこの人が亡くなったのは……安政の大獄が本格化する前。
井伊直弼が暴走する初期段階で動いて、初期段階でいなくなっちゃったんです……。
もしかすると、斉彬さんが生きていたら、安政の大獄はなかった……かもしれません。
多くの人が悲しみに暮れる中、京都で頑張っているあの人にも……。
西郷「うそだーーーーー!!」
バカでかい鉄球が音速でぶつかったくらいの衝撃をもたらします。
心から尊敬する斉彬さんが……もうこの世にいない……。
失意のドン底にたたき落とされた西郷さんは、一言つぶやきます。
西郷「…………オワタ」
で、自殺します。
悲しみ西郷、斉彬さんの後を追うんです。
しかし、そこにストップをかけたのが、同じ一橋派として頑張った、
月照(げっしょう)
というお坊さんでした。
月照「自分の後を追うことを、斉彬さんが褒めてくれると思いますか? この世であの人がやり残したことを叶えた方が、斉彬さんは喜んでくれるんじゃないでしょうか」
西郷「……ぅ……ぐ………ほむっ!」
月照「ん?……これはなに、踏みとどまったのか?」
西郷さんは、斉彬さんの意思を受け継ぐことを決めます(こんなやりとりじゃないですが、月照さんが西郷さんの自殺を止めたらしいよ)。
そんな西郷さんの元に、
木枯らしをまといながら、
おなじみの"あいつ"が近づいてきます。
安政の大獄「どーもぉー! 安政の大獄です!! 私が始まりました!!」
西郷「ヤバい!! 捕まると処罰される! 月照さん、逃げましょう!」
月照「この私をどこまでも連れ去って!」
西郷「そういうのいらないです!」
安政の大獄から逃れるため、西郷&月照は、薩摩に向かいます。
西郷「着いたーーー! ギリセーフ!」
薩摩の人「西郷さん! よくぞご無事で!」
西郷「どうも! 遅れて月照さんもくるよ!」
薩摩の人「月照!? ……西郷さん、実は……斉彬さん亡き後、薩摩藩の方針変わったんです。『幕府改革するぞ!』って感じから、『幕府の言うことに従いまーす』的な感じの保守派にガラリと……。ですので、井伊ににらまれてる"一橋派"を、薩摩に入れることはできません。月照は……藩の外に追放してください」
西郷「な……」
月照「西郷さん着いたよー! ……ん? ねぇねぇ、何かあった(ホヨ?)?」
西郷「……月照さん、無邪気すぎてツラい」
ワンちゃんに「ごめんよぉ。ボクのお家で飼うことはできないんだ……」って言う時と同じ切なさです(違いますけど)。
しかも、「藩の外に追放しろ」という指示の本当の意味は、
「道中で、月照を斬り捨てろ」
ということ……。
月照さんと船に乗って、藩の外に出る西郷さんですが、頭の中はグルングルン。
命の恩人の月照さんを斬れるわけない……でも、藩の命令に背くわけにもいかない……。
大きなジレンマを抱えた西郷さんは、一言つぶやきます。
西郷「…………オワタ」
で、自殺します。 西郷、月照抱えて……
ドボーーーーーーーン!!
船の上から身を投げ、Dive to blue(心中ですね)。
すぐに救助された2人でしたが、月照さんはそのまま帰らぬ人に……。
しかし、西郷さんは、
西郷「……………ブハッ!! キレイなお花畑見てきたーー!」
息を吹き返し、復活を遂げたのでした。
その後、薩摩藩は、幕府の目から西郷さんを隠すため、"奄美大島"に潜伏させます(名前も『菊池源吾』ってのに変えてるよ)。
あの西郷隆盛、意外にも幕末の表舞台からドロップアウト経験あり。
ここで一回、休憩を挟むのでした。
とどまることを知らない安政の大獄。
井伊のやり方に、オーラ全開でバチギレてる人がもう一人。
吉田松陰「井伊と井伊まわりのやつら……っざけんなよ!!」
幕末のエモい先生、吉田松陰です。
ブチギレモードの松陰さんは、長州藩にありえないお願いをします。
松蔭「井伊の元で、尊王攘夷派の同志をイジメてる間部(まなべ)っているでしょ。アイツ襲撃します」
長州藩「なにぃ!? 幕府の偉い人襲うって、お前それ……テ、テロじゃねーか!!」
松陰「なので武器貸してください」
長州藩「話すすめんな!」
武器貸してもらえず(当たり前です)。
さらに、「お前やっぱりバチクソにヤベーな!」ということになり、またもや野山獄(懐かしの牢獄)に入れられてしまう松陰さん。
さらにさらに、野山獄に入ってしばらくすると、松陰センセーのもとにも、
例の"あいつ"が……。
安政の大獄「どーもぉー! 安政の大獄です!! 吉田松陰さん! あなたにも容疑がかかってるんで、江戸の牢獄に移動してもらいます!」
松陰、長州から江戸へ送られ、取り調べを受けることになります。
ただ、容疑の中身は、
「危ねー志士の梅田ってやつと、少し交流がある! ……らしい」
「最近見つけたヤバい文書の筆跡が、松陰の字に似てる! ……らしい」
という、すごく薄い内容です。
取り調べた役人も、「予想通りこいつはなんでもないな」と結論づけようとしていた、まさにその瞬間でした。
役人「なるほど……てことは、梅田とは怪しい会話してないわけね」
松陰「してません。文書も僕が書いたものじゃないし」
役人「そかそか」
松陰「僕が行おうとしていたのは、間部の襲撃です」
役人「そかそか………………え?」
松陰「………………え?」
役人「え?」
松陰「は?」
役人「『は?』じゃねぇよ! おま、大犯罪じゃねーか!! し、し、島流しだー!!!」
やってまいました。
幕府が襲撃計画のことを知っていると勘違いした松蔭は、自らそのことをしゃべってしまったのです(襲撃するのは、松陰の信条的に間違ったことじゃないから、あえて言ったって説もあるよー)。
しかし……。
松陰の自供内容を読んだ井伊直弼は、島流しを取り消します。
幕府の要人を襲撃しようとした、その思想に激怒し、行動に危険を感じた井伊は、松陰の刑を書き換えたんです。
吉田松陰
死罪(死刑)。
罪に問われるかどうかも曖昧だったはずなのに、一転して、その命を奪われる結末を迎えます。
ほどなくして、松陰は、江戸の伝馬町牢屋敷(てんまちょうろうやしき)で、首を斬られるんです。
人を想うことに真剣で、国を憂うことに本気だった若者は、30歳という若さでこの世を去ったのでした。
ここで、松陰の母・滝(たき)と、父・百合之助(ゆりのすけ)が体験した、少し不思議なエピソードを聞いてもらえるでしょうか。
松陰が江戸に送られて、しばらく経ったある日。
うたた寝をした滝は、"ある夢"を見て、その内容を百合之助に伝えたんです。
滝「松陰が元気な姿で帰ってきてくれたんです! でも……喜んで声をかけようとすると、その姿は消えてしまいました……」
百合之助「私も、ちょうど夢を見たんだ。なぜかわからないけど、自分の首を斬り落とされる夢で……ただ、それが心地よかった。首を斬られることは、こんなにも愉快なものかと思った……」
不思議な夢を同時に見るという、奇妙な体験をした2人。
それから20日以上が経ち、松陰処刑の報せを聞いた両親は、悲しみと同時に驚きを覚えます。
夢を見た日付、時刻が、息子の最期の時と全く同じだったからです。
その瞬間、滝の脳裏にある場面が浮かびました。
松陰が江戸に送られる直前、たった1日だけ実家に帰ってきたときのこと。
風呂に入る息子に、滝は語りかけたんです。
もう一度、江戸から帰ってきて、元気な顔を見せてほしい—。
松陰「もちろんです! 必ず元気な姿で帰ってきて、お母さんのその優しい顔を見にきます!」
松陰は、約束を守ったんだと思います。
最期の最期、母にもう一度会うために。
自分は首を斬られるが、何も後悔はないと父に伝えるために。
愛してやまない両親に、自分の想いを伝えるため、2人の夢に同時に現れるということをやってのけたんじゃないでしょうか。
処刑が決まった松陰は、こんな句を残しています。
「親思う 心にまさる 親心 今日のおとずれ なんと聞くらん」
(子供が親を思う気持ちより、親が子供を思う気持ちの方がはるかに大きい。それなのに今日、子供が処刑されるという事を聞いた両親は…どんな気持ちになるだろう。)
自分が処刑される絶望より、報せを聞いた親の悲しみを想像する。
全てにおいて自分のことを二の次に考える松陰の愛情は、この国と家族に、そして弟子たちに注がれたんです。
「狂愚(きょうぐ)まことに愛すべし、才良まことに虞(おそ)るべし」
(狂って常識がわからないバカは、“行動”を起こす愛すべき存在だ。一方、頭だけで考えて理屈を言っていると、何もことを起こさなくなるので恐ろしい。)
松陰が、弟子たちに「こうあってほしい」と送ったメッセージ。
ここで使われている“狂う”は、
『有り余るほどの情熱を持ち、常識から外れて夢中になる』
というような意味です。
彼の取った行動が、正しいか正しくないかは置いといて、自分の信念が1ミリも揺るがなかったからこそ、松陰は常に動き続けていたんではないでしょうか。
情報過多な現代、自分の範疇を超えた存在を見つけると、まずバッシングから始めるという、何か儀式のようなものが蔓延していて、行動は制約されがちです。
“常識”と言われるものからは外れてるかもしれないが、自分の信念に従って生きる“狂愚”を取るのか、誰からも叩かれはしないが、後には何も残らない“才良”を取るのか……なかなかズシンとくる一文。
そして、「狂愚まことに愛すべし、才良まことに虞るべし」のあとに続くのは、この言葉。
「諸君、狂いたまえ」
次回へ続きます。