見出し画像

文次の手紙#14

政次様

拝啓 長らくご無沙汰致しました。その後、皆様にはお変わりありませんか。僕も変わりなく、益々元気に勉励しています。他事ながら御安心の程を。

先日に送りくださった万年筆は異常なく届きました。非常に便利で日々勉強しています。当地も益々暑くなり、マラリヤ患者等も日増しに多くなってきましたが、僕はいまだ一度も休んだ事はなく、暑さに負けず、健康に満ち満ちています。

さる○○日、○○方面への討伐命令下り、我々には初の戦闘だけに、胸躍らせ、勇躍戦場の古強者に混じって戦闘に参加しました。
鉄をもとかす災熱の中に重い背負い袋をかついで、兵はただ黙々として行軍する。水筒の水は早やのみほし、のどが焼け付きそうですが、みんな頑張って行き、少しの休みがあればみんな飛んで行って、あの田んぼの黄色くにごった泥水をがぶがぶ飲みます。普通ではとても飲めないものですが、あんな時ばかりはいくら飲んでも足りない様子です。ある日は雨の降るぬかるみを足をすべらし、濁流の中を渡って日に十里も行軍した事もあります。初めて戦闘に参加して新聞に出ているように簡単ではなく、皇軍は非常な努力と苦心をして戦闘していたことをつくづく感じました。

○○日にわたる討伐戦も御陰で無事帰還する事ができ、今ではまた下士候補の教育を受けて勉強しています。
我々もさる6月上旬に待望の一等兵に進級してみんな二つ星になって見違えるようになっています。戦地の事ゆえ、今度まではみんな一度に進級しましたが、この次はちょっとまちまちに進級するでしょう。

萱田さんとも討伐に出動中、○○駅に汽車を待っているとき、偶然に会いました。色々話したいこともあったが、時間がないため、詳しい話しはできませんでした。

慰問袋は2回とも届いていますからご安心ください。中のものはみんな立派にしています。なるだけ缶詰のドロップスや豆類等を悪くならないようにして入れてください。それとふんどしを二つばかりと、暑さのため、足に細かいあせこ【※1】のようなものが出来ますから、古賀の叔父さんに言って「シッカロール」とたむし等に良く効く薬を送ってください。
同封の写真は第1期の検閲が終わって、初年兵の小銃班が教官助教と共に写したものです。中央が教官、教官の向かって右におられるのが田島村出身の早川軍曹殿です。
ではみなさんへよろしくお伝えください

昭和15年6月21日

文次より

昭和15年7月15日到着

本文中の〇〇は全て伏字、原文ママ
【※1】汗疹(あせも)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?