文次の手紙#19
豊子様(歳の近い妹宛)
拝啓
残暑も過ぎ空高くすみわたり吹く風も爽やかな秋の候となったことだろう。その後、元気な事と思う。僕も変わりなくますます元気に奮闘しているよ。内地は今秋たけなわの頃で運動会、放生会等、例年のごとくにぎわったことだろう。常夏のここ、南支は気候の変わり目というのがはっきり分からないようで、いまだに暑さが続いている。しかし、椰子の葉づれのささやきや光々とさえわたる月、またたく星の光にも何となく内地の秋を思わせるようになりました。
近頃、内地から来た兵隊もだいぶいる様です。裏町の甚ちゃんもそのうちの一人だ。萱田さんやその他、津屋崎出身の人にも良く会う機会もあります。
小学校の教員だった駒井先生にも主婦会から慰問袋が送ってあるそうだが、未だに自分の手に届いていない。非常に便利の悪いため、封書や慰問袋等も途中でとまってしまう事もあるらしい。輝子さん達の封書もむろん、ついていない。君からよろしく伝えてくれ。我々戦地にいる物は故郷の便りを何よりの楽しみにしていると。
9月に家から送ってくれた慰問袋は昨日受け取りました。中に「タバコ」が入れてあったが、「カビ」がして悪くなっているし、また大して不自由もしていないからこれから送ってやらない様にお前からいってくれ。では身体大切に。
昭和15年10月13日
文次
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