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【連載小説】秘するが花 17

室町殿 6

 頼朝公から百五十年の時を経て、
 再び、二人の帝が並立した。
 この二帝並立は、
 後醍醐帝の暴走から始まる。

 神代の代から信じられた「百王説」。
 予言詩「野馬台詩」にある
「百王の流れはついに尽きる」
 という予言。
 第九六代の後醍醐帝も、
 その予言が成就することを信じた。
 史上で最も優秀で、
 有能な帝となることを期待された
 後醍醐帝。
 それ故に、
 後醍醐帝は、
 帝位に就けるはずがなかった。
 だからこそ、
 奇跡的に帝位に就いた後醍醐帝は、
 自身の役割を確信した。
 帝の中の帝たる後醍醐帝こそが、
 百代で潰える皇統の救い主となる。
 こうして、後醍醐帝は、
 救世主となるべき道を歩みはじめた。
 しかし、後醍醐帝の暴走は、
 二条関白によって妨げられた。
 関白二条良基こそが、
 世にいう南北朝時代を創った男だ。
 二条関白は
 最高の帝である後醍醐の下を去り、
 三種の神器無き朝廷を開いた。
 今を去る、五十年ほど前のことだった。
 
 それから、
 二人の帝、二つの朝廷の時代
 が続いている。
 その関白が、見込んだ男こそが、
 室町殿足利義満。
 祖父の死後百日後に産まれたため、
 足利尊氏の生まれ変わりと言われた。
 三十八歳で死んだ父に代わり、
 十二歳で征夷大将軍に就任した。
 以来、頼朝公を超えて
 左大臣まで官位を進めてきた。
 更には、武家で初めて
 源氏一族の氏長たる源氏長者になった。
 室町殿は公武の頂点に
「先例を超越した存在」
 として君臨する。

 二十八歳の室町殿は、
 父の享年まであと、十年。
 

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