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【連載小説】秘するが花 15

室町殿 4

 こうして、
 誰もが室町殿を好きになった。
 誰もが、争って
 室町殿から気に入られようとした。
 室町殿には、敵がいなくなった。
 むろん、南朝を除いては。
 
「何故、父は死んだのでしょうか」
 
 藤若のつぶやきに、
 室町殿は答えなかった。
 藤若は、
「殺された」
 という言葉は選ばなかった。
 北朝の頂点に立つ室町殿は、
 南朝にとって最大の敵。
 最大の敵を除くことは、
 勝利への最短の路。
 敵の手を封じることができれば、
 敵を機能不全に陥らせることができる。
 将を射んとする者はまず馬を射よ。
 
 室町殿は今、二十八歳。
 既に、三代目鎌倉殿源実朝公の享年だ。
 そういえば、
 実朝公も実兄の息子に殺された。
 敵は常に、あらゆる手を使う。
 しかも、敵は南朝にのみではない。
 戦乱が続くことで、
 利益を得る者がいる。
 戦乱が収まれば、
 損をする者がいる。
 あるいは、
 闘い続ける己を、
 美しいと想う者がいる。
 彼らは、
 現状が続くこと
 を望んでいる。
 だから、彼らは室町殿の敵となる。
 彼らは、北朝の中にもいる。
 今でこそ、
 室町殿の前では平伏していても、
 折あらば牙をむく。
 
 正義は常に複数ある。
 だから、
 政治とは、すなわち利益調整
 ということになる。
 益をる者を増やす。
 損をする者を減らす。
 自らに誇りを持てる。
 利益調整には時間がかかる。
 全員が益を得て、
 誰も損をしないことは
 あり得ないこと。
 双方の
 損得の折り合い
 をつけることが政治。
 だからこそ、
 暴力もまた、利益調整の手段。
 利益調整が成功すると、
 平和という均衡が成立する。
 
 源氏長者である室町殿。
 血を流すことをためらわない。
 血は命の源。
 流れる血こそ、生きている証。
 己まで繋がり続けてきた命の証。
 血は、父母の子である誇り。
 そんな血の、
 あらゆる血統の頂点
 それが、帝。
 今、その帝が二人いる。

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