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【連載小説】秘するが花 19

室町殿 8

 今から七百年ほどの遥か昔。
 天智大王の近江朝廷を、
 天武帝の吉野朝廷が戦にて滅ぼした。
 戦の名を壬申の乱という。
 戦を起こして帝位を奪った天武帝。
 新しい王朝を開いた天武帝は、
 帝位の「正統の証」を必要とした。
 天武帝は、王朝の正統性を示すべく、
 歴史書を作成する。
 それが、古事記。
 古事記は、朝廷の古代語部、
 猿女君の稗田阿礼の暗唱を書き記した。
「古事記作成の実務者は、
 我が祖、藤原不比等」

 藤原不比等は、天皇の正統性を
 アマテラスの血統と定めた。
 そして、「天岩戸神話」で、
 アマテラスが高天原の主であることを
 示させた。

 アマテラスは、
 高天原に昇ってきたスサノオと
 戦わずに「天岩戸」に隠れる。
 太陽神アマテラスが隠れた為に、
 世界は闇に閉ざされて、
 様々な禍が起きた。
 ところが、
 アマテラスが天岩戸から出てくると、
 いつも簡単にスサノオを追放する。
 
 スサノオの暴力に
 なすすべもなかったアマテラス。
 しかし、
 何故か、天岩戸から出てきた時には、
 スサノオを追放できる。
 これは
『天岩戸の中で、アマテラスに
 何事かが起きた』
 ということを想像させる。

 帝とは、ただ人ではなく、現人神。
 天岩戸の中で、
 ただ人は、現人神になるのだ。
 天岩戸の中では、
 『なにごと』かが、起こる。
 天岩戸の中には、
 『なにごと』かが、いる。
 
 その秘密を、
 天岩戸神話は記しているのだ。
 
「このくだりは
『三種の神器』のくだりよりも
 遥かに昔の出来事です」


「そのすべての実行者こそ、
 我が藤氏の祖、淡海公藤原不比等です」

 
 関白は、帝が即位する際に「高御座」
 に入ることを指摘する。
 高御座は、天岩戸を模したものなのだ。
 帝が即位の際に高御座に籠るのは、
 天岩戸に入ることの追体験。
 ただ人が、帝になる通過儀礼なのだ。
 
 天岩戸の中で
「完成した」アマテラスの子孫が、
 今の帝たちではないか。

 ならば、
『天岩戸を開いた帝』こそが正統
 と、なせばよい

 室町殿は、二条関白のおとぎ話を
 笑わずに聞いた。


 
 
 


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